魔導士の正体
魔導士の攻撃を避けながら、みんなが一斉にハルへと視線を向ける中、彼はノートをぎゅっと抱えたまま、一歩前に出た。
「……恐らく、あの魔導士は一体じゃありません」
「複数体……?」ロザが眉をひそめる。
「はい。この部屋の雰囲気や視覚効果で、あたかも一体の魔導士がワープしているように見えてましたけど……実際には、それ自体がまやかしで」
ハルは指先で空中に軌跡を描きながら、静かに続けた。
「たぶん、はじめから属性ごとに“配置”されていたんです。五体の、機械仕掛けの魔導士が——」
「……順番に稼働していた、ということか」
水属性の魔導士からの攻撃を防ぎながら、サイルが目を細めた。
「はい。瞬間的に現れては消える、あの演出こそが“ワープしているように見せている”だけの演出で……たとえば今残ってるのは、水、毒、雷。これは、まだ“攻撃していない”属性ですよね?」
「……なるほど」アオミネが腕を組みながら、低く唸るように呟く。「つまり、それぞれに“弱点属性”で一定のダメージを与えれば、ちゃんと一体ずつ倒せるってわけか」
「そういうことです」ハルははっきりと頷いた。
「面白い仮説ね」ロザがふっと微笑む。「でも、それって……とても合理的な作りよ。属性の秘密に気づかなければ、どんな攻撃も通らない“絶対防御”の敵に見えるもの」
「たしかに……!」リュカが目を輝かせる。「だったら、次は“どの属性が来るか”を見極めて、ピンポイントで弱点ぶつければいいんだな!」
「弱点属性でさえ攻撃すれば、いつかは倒せるってわけでござるな」
クロは雷から皆を守るように横に伸び、その身で閃光を受け止めるように立ちはだかった。雷が収まると、身体の一部を剣のように尖らせ、静かに構える。
「さすがです、ハル君」サイルが目元を和らげる。「それだけの情報を整理して、ここまでの構造に気づくなんて……やっぱり、観察力の天才ですね」
「えへへ……」ハルは照れながらも、小さく息を整えた。「あと三体……今度こそ、みんなで一緒に、終わらせましょう!」
その言葉に、場の空気が再び引き締まる。
ロザが前を見据えながら、静かに言った。
「水の弱点は雷、雷の弱点は土でつけるわね。……誰か、使えるかしら?」
仲間たちが顔を見合わせるが、誰の手も挙がらなかった。
「やっぱり……いないか」
その沈黙を破ったのは、ハルだった。
「属性盾を使えば、反射はできますけど……少し威力は落ちちゃいます。でも、リュカと僕で、それぞれ雷と土をセットして反射してみたらどうでしょうか?」
「なるほど……」ロザが少し考えた後、優しく頷いた。「そうね、それでいきましょう。盾の反射、確かに試す価値があるわ」
リュカがにかっと笑って、ハルの肩を軽く叩いた。
「よーし、盾使いコンビで一発かましてやろうぜ! な、ハル!」
「うん!」ハルも力強く頷く。
「じゃあ、2人に盾を構えてもらって、私とサイルの魔法を盾に当てて反射させましょう。そっちのほうが効率的ね」
ロザの声に、サイルは毒霧から皆を守りながら頷いた。
「はい、任せてください。反射角が難しそうですが、出現場所は決まっているので、タイミングを合わせますね。少し難しいかもしれませんが……やってみます」
その時、アオミネが腕を組んだまま、小さく呟いた。
「毒……か。聞いたことないな、毒属性の“確実な”弱点ってやつは……」
「ならば、まずは我らが斬ってみようではないか」クロが跳ねるように答える。「考えるのは、それからでござる」
「ふ……やっと俺たちの出番が来たな」アオミネが口元を緩める。
「拙者も同感。そろそろ斬りたくて、うずうずしていたところでござるよ」
彼らのやり取りに、小さな笑いが生まれる。緊張の只中であっても、確かな連携と信頼が、このチームにはあった。
そして、いよいよ作戦実行の時が訪れる。
「行こう。配置について!」
ロザの一声で、三つのチームがそれぞれの持ち場へと移動を開始する。
リュカ&ロザチームは、雷魔導士に対応するための位置へ。
ハル&サイルチームは、属性盾を雷にセットし、水魔導士の位置へ
そしてアオミネ&クロチームは、毒属性の魔導士への対応を睨みつつ、援護と迎撃のために後方からの支援に回る。
その瞬間、雷の魔導士が現れる——。
「来たッ!」
黒紫の閃光とともに、雷撃が天井から放たれる。しかしその直前、クロがぐにゃりと伸びるようにして、雷撃の軌道に割り込む。
「むっ、雷とはいえ直撃は避けるでござる!」
体を盾のように展開し、稲妻を散らすクロ。その隙を縫うように、リュカが前に出た。
「よし、属性盾、土に切り替えた!」
リュカは自らの盾に魔力を通し、表面に土属性の模様が浮かび上がる。砂のような粒子が一瞬、きらめくように舞った。
「じゃあいくわよ、リュカ——!」
ロザが詠唱を走らせ、掌から大きな水弾を放つ。勢いよく弧を描いて飛んできたその一撃を、リュカは呼吸を合わせて受け止める。
——が。
「ちょ、ちょっとずれた!? 惜しいっ!」
盾から反射した土球は、魔導士の脇をかすめて着弾したが、狙いの一点からわずかに外れていたため、命中とはならなかった。
「でも……いける。今の感じなら、次は反射できそうだ」
リュカが悔しそうに笑いながら、盾を握り直した。
ロザも小さく肩をすくめながら、すぐに次の詠唱へと入っていく。
明日も23時時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜
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