ハルの閃きと反撃開始
サイルが把握していた出現位置の情報を元に、各々が持ち場へと動く。
ロザは火属性攻撃が行われると判明した場所へ、リュカは風属性の魔法が放たれた位置へ、そしてハルは土属性攻撃の出現位置に、そっと足を運ぶ。
「見事に役割分担ができましたね。……どうやら、我々の出番はなさそうです」
後衛に立ったサイルが、肩をすくめながらやわらかく笑った。
その隣でアオミネが腕を組み、冗談めかして言う。
「ハルとリュカに属性盾でも借りるか? あれがあれば、俺達でも攻撃できるかもしれないな」
「ふん、それ以前に——奴はすでに終わったも同然でござろう」
クロが静かに答える。布のように揺れる体の先端を刃の形に変えながら、魔導士を鋭く見据える。
それぞれの口にする言葉は違えど、胸に宿るのは同じ確信。
そして、魔導士がふたたび姿を現す。纏う魔力は——火属性。
「いくわよ!」
ロザが詠唱を終えると同時に、蒼の魔力が奔流となってほとばしる。強力な水属性魔法が魔導士を正面から穿ち、その身体を飲み込んだ。
爆音と蒸気の霧が一面を包み、姿はかき消える。
(一撃で終わり——!)
そう思った矢先、揺れる空気の中から、今度は青白い衣を纏った魔導士が現れる。
「今度は……水属性、か」
誰もが息をのむが、攻撃には移らない。ロザが小さく首を振った。
「待って。次が……チャンスよ」
そのまま、魔導士は攻撃だけを放ち、再び空間に消える。そして——風の気配。
ふわりと衣をはためかせ、次に姿を現した魔導士の周囲を、目に見えるほどの風の渦が取り巻いていた。
「きたっ!」
すかさずリュカが炎を練り、掌から火球を放つ。軌道は滑らかに描かれ、真芯で命中した。
魔導士の身体がひしゃげるように歪み、そのまま崩れるように霧散していく。
「よっしゃあっ!」
勝利を確信しかけたその時、重く地を這うような魔力が発生する。
土の気配——大地の重圧を思わせる魔導士が、無言のまま出現した。
「僕の番だ!」
ハルが一歩踏み出し、風の刃を練り上げる。旋回する魔力が一条の鋭い閃光となって放たれ、土の魔導士の胴を真っ二つに裂いた。
炸裂音が部屋に響き渡り、魔導士の影は煙のように消えていく。
「これで……今度こそ!」
誰もがそう確信し、気を緩めかけたその瞬間——
ぴしり、と空間が裂けた。
稲妻のような魔力の奔流。雷属性の魔導士が姿を現し、電撃が走る。サイルが即座に防御を展開し、辛うじて直撃を防ぐ。
「つ、強いっ……!」
ロザが眉をひそめる。雷撃の衝撃が床をえぐり、空気が焼ける。
(でも、順番どおりなら——次が最後……!)
そう皆が感じた、その時。
空間が、静まる。
雷の魔導士が霧散した後、一拍、何も起こらない時間が流れた。
誰もが、終わったのかと息を呑む。
——しかし。
空間のゆらぎと共に、次に現れたのは——水属性の魔導士だった。
「……飛ばされた? 火を抜いて、また……?」
リュカが目を見開く。順番が——狂った。
誰もが次に来るはずの“風”を警戒していたその瞬間、空気がねじれるように揺れ——
「……毒、だと!?」
濁った瘴気を纏い、魔導士がぬっと姿を現した。禍々しい緑黒の霧がその足元から立ち昇る。
すぐにクロとロザが前に出るが、攻撃のタイミングを見極めるには至らない。
「順番が……崩れてる……?」
そして再び、魔導士が空間に消え一拍あいたかと思うと、次の瞬間——
「雷か!」
アオミネの叫びと同時に、鋭い閃光が天井から奔る。床に焦げた痕が走り、サイルがすんでのところで回避する。
「次は……水!」
ハルがアークノートをにらみながら息を詰める。現れた魔導士は、青白い魔力を纏っていた。
その後も、毒——雷——水——毒——と、規則的に攻撃が続く。
「どういうことだ……!」
アオミネが剣を握りしめたまま、険しい顔で呟いた。
ハルは、魔導士の動きを見つめながら、心の中で思考の糸を紡ぎはじめていた。
(さっき、土の魔導士を攻撃した時……僕のエアスラッシュ、確かに“手応え”があった。魔力の抵抗があって、それが崩れる感触も……間違いなく倒したはずなんだ)
けれど——いま、敵はまだ目の前にいる。
(ということは……)
ハルは小さく首を振り、視線を動かす。そして、リュカとロザに顔を向けた。
「ロザさん、リュカ……さっき攻撃したとき、倒したっていう感触、ありましたか?」
ロザは瞬時に頷き、魔力の残り香を感じ取るように手を広げながら答えた。
「ええ。あったわ。水魔法の一撃が“核”に届いた感触がした。魔導士が崩れた瞬間も見たもの」
「俺もだぞ、ハル!」リュカは剣の柄を強く握りしめながら、真っ直ぐ頷いた。「風属性の魔導士に火をぶつけたとき、確かに……消えた、って感じた!」
(やっぱり……)
ハルの瞳が鋭くなり、再びノートに視線を落とす。
(いま出ているのは、倒した“風”“火”“土”以外——つまり、“まだ誰も倒してない属性”の魔導士だけだ)
(だとしたら——この敵は……)
「やっぱり……もしかして……」
脳裏に浮かぶ可能性。その予感が、胸を高鳴らせる。
ノートを凝視していたハルの視線が、ふと止まった。手の中のページを握る指先に力が入り、彼はゆっくりと顔を上げる。
目に宿ったのは、確信の光。
「……うん!」
小さく、けれど力強く頷いたその後で、ハルは仲間たちをぐるりと見渡した。
「——僕の仮説、聞いてもらってもいいですか?」
その声には、迷いのない響きがあった。
明日も23時時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜
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