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僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
忘れ谷編

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魔導士攻略

 魔導士は再び空間を歪ませるようにして消え、次の瞬間、部屋の対角に出現すると水属性の魔法を放った。空気がひやりと凍り、鋭く尖った氷塊が放射状に走る。誰もがそれを回避しながら、行動のパターンを注視する。


 (いまのは、水……次は……)


 ハルは震える指でアークノートを開き、敵の行動を記録し始めた。


 「水の次に来るのは……」


 ——火。


 魔導士の杖が静かに振られたかと思うと、炎の奔流が足元を駆け抜けた。ロザが素早く顔を上げ、声を張る。


 「次いくわよ、リュカ、準備して!」


 「おうっ、任せろ!」


 炎が収まった刹那、リュカが右手から火の魔法を放ち、ロザは反対側から水属性の魔法を撃ち込む。同時に、クロが素早く間合いを詰め、影のように滑り込んだ


 だが——


 「なっ……!?」


 リュカの火の魔法は、敵の身体に触れる前に霧散した。クロの身体がぬるりと変形し、一部が鋭い刃のように伸びる。


 「——喰らえッ!」


 そのまま勢いよく振るわれた斬撃は、確かに魔導士の胴をなぞった……はずだった。


 だが次の瞬間、感触はすり抜けるように空虚へと消えた。


 「拙者の刃が……通らぬ……?」


 クロが歯軋りしながら飛び退いた。


 「……でも、私のは当たった……?」


 ロザの放った水魔法だけが、敵の胸元に命中し、外套を裂いたように見えた。魔導士が微かにぐらつく。


 (これは……相性か?)


 ハルの瞳が鋭く光る。アークノートのページに、順番と攻撃の反応を急いで記していく。


 ——風。


 再び魔導士が消え、今度は室内の高所に現れると、鋭く切り裂く風刃を複数放った。ロザたちが素早く後方に下がり、風の軌道を避ける。


 ——毒。


 次の瞬間、低く濃い霧が足元から立ち上がり、視界がじわじわと歪んでいく。ロザの配ったマスクがなければ、まともに動けなかっただろう。


 ——土。


 天井からごつごつとした岩塊が落ち、床をえぐる。リュカが転がるように避けながら、目を細める。


「これ……やっぱり順番あるんじゃないか?」


 その声に、後方で魔法を見守っていたハルが、ぱっと顔を上げた。


 「……もしかして!」


 急いでアークノートを開き、素早く書き記していた属性の並びに目を走らせる。


 「毒、土ってきたなら……次は、きっと雷だ! 多分、順番通りに来てる!」


 その言葉とほぼ同時に、魔導士が再び宙に浮かぶように転移し、空間の端から鋭い稲妻が放たれた——。


 サイルが、静かに周囲を見渡しながら口を開いた。


 「出現場所も……順番があるようです。水はここ、火はあそこ、風も……同じ位置に現れています。まるで、自動化された動きのように感じられます」


 アークノートを見ていたハルが、ぱっと顔を上げた。


 「そういえば……一階層でも、機械仕掛けの魔物がいたんです。一見そうは見えなかったけど……この魔導士も、もしかして……!」


 その目は、確かな確信に近づきつつあった。


 「構造として、プログラムのような順で動いてるのかも。だから……見えないけど、何かの機構があるんだ!」


 アオミネは、魔導士が立っていた床の一帯を振り返り、わずかに眉をひそめる。


 「出現場所をいくつか調べてみたが……床も壁も、異常は見当たらなかった。魔法陣も、残留魔力もない。ただ……違和感のない状態が、むしろ不自然なくらいだ」


 その間も、戦闘は続いていた。


 ——雷。火。水。風。毒。土。


 魔導士は順を追うように、転移するたび属性を変えて攻撃を繰り返す。


 クロは再び体の一部を刃のように変化させ、低く跳ねて斬りかかるが、またしても感触は虚空を斬るように抜けてしまった。


 「ふむ……どこぞに斬撃が通る“時”があるはずじゃが……これでは、蚊帳の外でござるな」


 ロザも、繊細に編まれた水糸の魔法を幾度も放ち続けたが、あの一撃以来、どれも命中せずすり抜けていく。


 「……タイミングか、属性か。それとも、あの時だけが“例外”だったのかしら」


 それでも、彼女の声には諦めがなかった。


 リュカは、次に風魔法が放たれるタイミングで、ファイアボールを放つ。すると、炎は一直線に魔導士の身体を貫き、閃光とともに弾けた。


 「——っ!? 当たった!? 今の、効いたよな!?」


 火魔法が命中したのは、これが初めてだった。顔を見合わせる仲間たちに、ひと筋の光が差したような空気が生まれる。


 「見つけた……かもしれない」


 ハルの手が、ノートに記された記録をぎゅっと握りしめた。


 「ロザさんが火属性の攻撃をしてきたタイミングで魔導士を攻撃して命中したのは……攻撃魔法が水属性だったからじゃないかと思うんです」


 皆の視線が一斉にハルへと向けられる。


 「そして、リュカが火属性で攻撃して命中したのは、魔導士が“風属性”の攻撃を仕掛けてきたタイミングでしたよね。つまり……!」


 ハルは自分の中で確信に変わりつつある言葉を、慎重に口にした。


 「魔導士が使ってくる属性に対して、その弱点属性で攻撃すれば——通る、のかもしれません!」


 一瞬の沈黙の後、ロザがぱちんと指を鳴らした。


 「なるほど! それだわ! 攻撃属性が示された瞬間こそが、弱点を突くチャンスってわけね」


 「やっぱハル、すげぇじゃん!」

 リュカが笑顔で親指を立てる。

 「観察して、理論立てて、ほんと天才だよな! さっすが俺の戦術担当!」


 ハルは少し照れながらも、にこっと笑った。


 「ありがとう。でも、ここからが本番だよ」


 「おう! じゃあ、次は攻撃担当がやってやるぞーっ!」


 リュカが勢いよく剣を構え直し、次なる弱点属性攻撃に備えて立ち位置を調整し始めた。


 戦場の空気が変わる——今度は、確かな手応えを感じていた。

明日も23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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