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僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
忘れ谷編

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光の球と回復魔法

 その頃ハルは光の球を作るのに四苦八苦していた。

 魔力を集めるたび、空気がかすかに震え、ほの白い光がきらめいては、ふっと霧のように散っていく。何度も挑戦するものの、光はすぐにかたちを保てず、掌からこぼれ落ちてしまった。


 (……あれで、どうしてあんなに綺麗に丸くなるんだろう……)


 額に汗がにじむ中、ハルは小さく息を吐いた。だが諦める気はなかった。何度も手を伸ばし、集中を重ねる。


 前方では、ロザとリュカが絶妙な連携でダークウルフを誘導し、クロとアオミネがすぐに対応する。その隙に、ハルは再び魔力を練った。


 ふと視線を向けると、クロがリュカに何かを囁いているのが見えた。リュカもまた真剣な顔でうなずいている。


 (……そっか、リュカも教わってるんだ。僕だけじゃない)


 自分だけが苦労してるわけではない。そう思った瞬間、ハルの中に新たな決意が灯った。


 「もう一度、いける……!」


 光の粒を集めるイメージではなく、それを包み込む外殻を先に意識してみる。中心から外へではなく、外から内へ。ふわりと漂う魔力の粒に、そっと圧をかけて、かたちを与えていく。


——光の粒が、逃げない。


 ハルは息を詰め、集中を途切れさせないようにそっと指を動かした。空中で、ほんのりとした白い光が輪郭を持ち始める。さっきまで霧のように散っていた光が、薄い膜に包まれ、球のようにふくらんでいく。


 「……できた……!」


 その瞬間、小さな光の球が、手のひらの上でふわりと浮かんだ。完璧とは言えない。でも、確かに“光の玉”だ。ハルは思わず顔を上げ、仲間たちの方を見た。


 前衛では、ロザとリュカが一体ずつ丁寧に数を減らし、アオミネとクロの連携が、まるで風のような動きでダークウルフたちを翻弄していた。サイルは後方でハルの様子を見守っている。


 (よし、いける!)


 ハルはライトボールに集中を込め、目の前のダークウルフへと投げ放った。光は弧を描いて飛び、魔物の身体に触れた瞬間——


 ぶわっ、と閃光が爆ぜた。


 驚いたようにダークウルフが鳴き声をあげ、よろめく。その隙を見逃さず、リュカが素早く飛び込んで斬り伏せた。


 「ナイス、ハル!」


 リュカの声に、ハルは思わずガッツポーズを作る。


 後方から、クロがぴょこんと跳ねて、


 「見事でござる! 光の極、闇を祓うの術、なかなかの一撃にござった!」


 と、どこか得意げに言うと、サイルも優しい笑みを浮かべて言葉を添えた。


 「初めてでここまで出来たのは、立派な成果です。ハル君、よくやりましたね」


 ハルはこの感覚を忘れないうちにと、光の玉を何度も生み出し、放った。最初よりも少しずつ形が整い、狙った位置へ飛ばせるようになっていく。


 (もう一回、今度は少しだけ右へ……)


 集中することで周囲の音が遠のく。けれど、背後にサイルの気配があることは、ずっと感じていた。必要以上に口を出すことはないが、見守っていてくれている。その存在が、心強かった。


 (強い人と一緒にいるって、こんなに安心できるんだ……)


 そう思った瞬間、光の玉が弾け、またひとつダークウルフが地に倒れた。


 仲間の動きに呼応するように、リュカが的確に刃を振るい、ロザの氷魔法が足元を封じ、クロとアオミネが一閃を加える。連携が次第に鮮やかになっていく。


 (この感覚……忘れないようにしよう)


 不安や焦りよりも、いまは“自分も力になれている”という確かな実感があった。


 ハルは必死に光の玉を放ち続けた。次々と押し寄せてくるダークウルフに、丁寧に、確実に——


 そして、ほどなくして最後の一体が崩れ落ち、戦場に静けさが戻った。


 ダークウルフ、殲滅完了。


 重い息遣いの中に、仲間たちの達成感がふわりと漂った。


 ——だが、安堵の余韻に浸る間もなく。


 「……っ!」


 不意に、洋館の正面にそびえる重厚な扉が、ぎぃ……と鈍い音を立てて、ゆっくりと開き始めた。


 戦闘前には魔力の封印がかかっていたそれが、まるで“合図を待っていた”かのようなタイミングで、内側から開かれたのだ。


 「……あれが、スイッチだったのか」アオミネが静かに呟く。


 「番犬をすべて倒すことで、館への道が開かれる仕掛けだったのでしょうね」サイルも頷きながら前に出る。


 黒い影がすっと扉の内へと引いていくのが見えた気がして、リュカが腰の剣に自然と手を添えた。


 「やっぱり……まだ続きがあるってことか」


 ハルもまた、小さく息を整えながら、そっとポシェットに手を添える。

 

 そんなハルたちを見渡しながら、サイルが柔らかい声で告げた。


 「では、館に入る前に、状態の確認と……ヒールをかけましょう」


 言葉と同時に、サイルの掌がふわりと光を帯びる。淡くやさしい癒しの光が、傷ついた仲間たちの身体を包み込んでいった。


 その手際は滑らかで、まるで自然に呼吸をするような、無理のない魔力の流れだった。


 「……わぁ……」とハルが思わず見とれる。


 自分の足元にかかった光がすっと染み込んでいくのを感じながら、ぽつりと口を開いた。


 「サイルさんって……どうしてそんなに簡単そうに、回復魔法を使えるんですか?」

明日も23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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