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僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
冒険者の装備品

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ハルの装備と弾型靴

 ひとしきり炎の剣の話で盛り上がったあと、ジンがふと思い出したように顔を上げた。


 「そういえば……リュカ、属性盾の調子はどうだった? 試してみたんだろ?」


 「はい。実はこの前の実戦で使ったんですけど——すごく良かったです。敵の属性に応じて切り替えられるから、戦闘がだいぶ楽になりました。魔法が直撃しても耐えられたし、かなり助かりました」


 リュカは、礼を込めて深くうなずく。


 ジンは腕を組み、鼻を鳴らしてにやりと笑った。その目はどこか嬉しそうで、誇らしげでもあった。


 「……ほう。それを聞けたら安心だ。試作品とはいえ、役に立ってるってんなら、作った甲斐があるよ」


 ジンはふっと口元をゆるめ、ハルの方に視線を移した。


 「で、ハル。おまえさんはどうだった? 属性盾、ちゃんと使えたか?」


 「うん、あれすっごく良かったよ!」

 ハルはぱっと顔を明るくして、手元で盾を抱えるようにしながら続けた。

 「跳び角獣と戦ったとき、相手の風属性の魔法が、僕の魔力とちょうど相殺されちゃって、ちょっとピンチだったんだ。でも——」


 そこで少し胸を張って言う。

 「火属性の盾で跳ね返したんだ! あれがなかったら危なかったよ……ほんと、ありがとう!」


 ジンとエドが満足そうに頷くのを見て、ハルは少しだけ表情を引き締めた。

 「でも……また同じ属性がぶつかったとき、攻撃手段がないと今度は戦えないかもしれないって思って。だから——」


 「剣とか弓とか……いろんな属性に切り替えられる、攻撃できる武器が欲しいなって」


 その言葉に、エドが思わず手を打った。

 「なるほどね! 確かにハルは、リュカ君みたいに剣術スキルを持ってるわけじゃないから、接近戦は危ないもんな。属性攻撃をうまく使える武器があれば、もっと安全に戦えるってわけか」


 エドの言葉に頷きながら、ジンも低く唸るように口を開いた。

 「……それは、絶対に必要だな。素材収集は時に単独行動になる。防ぐだけじゃなく、いざという時に“返す手”がないと危うい」


 腕を組んだまま、真剣な目でハルを見つめる。

 「ただの子どもだとは、もう誰も思っちゃいない。なら、相応の装備は持たせてやらんとな」


 ジンの言葉に場が静かになったそのとき、奥の扉がゆっくり開いた。

 氷の入ったグラスがカランと心地よい音を立てる。


 「そうじゃぞ〜。ハルは本当に頼もしかった」


 トレイを手に現れたバルドが、にこにこと果実水を運んでくる。


 「この間の星詠ほしよみのダンジョン、わしとエドだけだったら、たぶん全滅しとったじゃろうな……」

 「……守ってもらうばっかりで、情けなかったわい」

 そう言って、グラスを差し出しながら軽く肩をすくめる。


 「ほんとそれ!」

 エドも笑いながら、椅子から半身を乗り出す。

 「俺、ハルが頼もしすぎて、途から“うおおお……すご……!”って感心してただけだったもん。いやもう、感謝しかないよ!」


 「そんな……! でも、僕は……ただ、ふたりに怪我してほしくなかっただけで……」

 ハルが少し照れながら、けれど真っ直ぐな声で言うと、

 バルドは、まるで孫の成長を喜ぶような笑顔を浮かべながら、グラスを差し出した。


 「そりゃあ、頼もしいのう。次もよろしく頼むぞい、ハル!」


 その空気に続くように、エドが机の下から小さな箱を取り出して、ふたりに向けて差し出した。


 「そんなハルとリュカ君に、ちょっとした試作品をね。冒険靴だよ。……と言っても、市販品の靴の底を変えただけだけど」


 箱の中には、動きやすそうなブーツが二足入っていた。


 「靴底に、弾型液を使ってみたんだ。液体の弾力を少し調整して、地面からの衝撃を吸収するようにしてある。ふたりはたくさん歩くだろ? 少しでも疲れにくくなればいいと思ってさ」


 エドは得意げに笑う。


 「試しに使ってみて、また感想聞かせてよ。まだ調整中だから、どんな違和感でも言ってくれると助かる!」


 リュカは靴を手に取り、嬉しそうに笑った。


 「すげえ……またPOTEN製の装備が増えた! これでますます冒険が楽しくなりそうだよ。ありがとう、エドさん!」


 隣でハルも、ぱっと笑顔を咲かせる。


 「こんなに早く作ってくれるなんて……本当にありがとう! 今度のダンジョン探索、さっそく履いていってみるね!」


 ふたりの声に、エドは照れたように後頭部をかいた。


 「へへっ、喜んでもらえたなら良かった。あとは実戦でどうかだな。どんどん使って、気づいたことがあったら教えてくれよ」


 作業部屋には、試作品の冒険靴を手にした少年たちと、それを見守る仲間たちの、温かな空気が流れていた。


 その後、外での打ち合わせを終えたツムギがPOTENハウスに帰ってきた。


 「ただいまー!」


 工房に響いた明るい声に、顔を上げたみんなの表情が自然とほころぶ。ツムギは少しだけ疲れた様子だったが、リュカにイヤーカフを手渡すと、ふっとやわらかく笑った。


 「リュカ君、すごく似合ってるよ」


 そのままツムギ達は、しばらくみんなと笑い合いながら近況を話したり、ぽての新しいいたずら話でひと盛り上がりしたりと、和やかな時間を過ごした。


 けれど楽しいひとときは、あっという間に過ぎ去り、気づけば、リュカが家に戻る時間が近づいていた。


 玄関先まで見送ったハルは、いつものように軽く手を上げる。


 「次のダンジョン、頑張ろうね!」


 リュカもまた、笑顔でうなずいた。


 「おう! 楽しみにしてるよ、ハル!」


 夕方の光の中、扉がそっと閉じられた。

明日も23時ごろまでに1話投稿します


守り石のお話は、下記の物語120話あたりより、詳しく書かれています。もし興味を持って頂けましたらご覧頂けたら嬉しいです。

⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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