POTEN創舎製「護りのイヤーカフ」
そのあとも、僕たちは久しぶりに、夜遅くまでおしゃべりをしていた。
最近の冒険のこと、ぽての好きなもの、ツムギお姉ちゃんが試作中の新しい魔導具の話……話題は尽きなくて、笑い声が工房にずっと響いていた。
奥の作業台では、エリアスさんが静かに何かの図面を書いていて、ナギさんは裁縫道具を広げて糸と格闘している。
バルド先生とエドさんは何やら機械仕掛けのパーツを囲んで、低い声で相談中。
ジンさんは窓辺で静かに本を読んでいたけど、時おりこちらを見て微笑んでくれる。
そんな風に、それぞれがそれぞれの“今”を過ごしていて。
でも、不思議とバラバラじゃなくて、ちゃんと“一緒”にいる感じがする。
ぽてが僕の膝の上でうとうとし始めて、ツムギお姉ちゃんも眠そうにあくびをしたころ、ようやく「そろそろ寝ようか」と言葉を交わした。
ぽてをそっと抱きかかえながら、僕はふと、心の中でつぶやく。
——ああ、やっぱりこの場所は、楽しいな。
ゆっくりと流れる、あたたかな時間のなかで。
僕の“今”が、またひとつ、優しく積み重なっていった。
———
POTEN創舎製「護りの魔回路式イヤーカフ」
【納品先】
POTENメンバー全員+リュカ
【主な素材】
魔封じの板/魔導糸/魔石/琥珀色透輝液/星灯の雫
【特徴】
本製品は、小型のイヤーカフ型受信機と、バッグ等に収める魔回路式本体によって構成される。
感情安定・緊急通知・展開型バリアなど、複数の守護魔法を魔導回路で統合制御している。
魔導糸による淡い金属光沢と繊細な曲線に加え、魔法陣が薄く透けて見える意匠が特徴。
星灯の雫を用いた信号色は、使用時に緑・赤・青へと変化する。
[感情の安定]
1日1回、最大30分間発動可能。
極度に動揺している状態でも、意識を明晰に保ち、通常の精神状態を維持できる。
[緊急通知]
装着者の心拍に異常があった場合、POTENハウス内の魔導基盤に自動通知される。
心拍の状態は以下の色で表示:
・緑=正常/赤=過剰/青=低下/消灯=心拍停止
[展開型バリア]
魔石を消費して使用。1回につき10分間展開可能。
最大3回まで使用でき、魔石を交換することで再利用が可能。
【制作エピソード】
設計:ツムギ
回路設計支援:バルド&魔導裁縫箱先生
魔導糸製作:エド
本体収納袋:ナギ
素材提供:ハル
創舎メンバーの協力による試作と調整を重ね、完成に至ったPOTEN総力の一作。
【コンセプト】
「誰かを守りたい」という想いを出発点に、
「ありのままでいられる」ための守護道具を目指して設計された。
支配ではなく支援を、拘束ではなく共存を――
新しい“護り”のかたちを体現する魔導具である。
【技術的成果】
・複数の魔法陣を魔導回路で制御する基盤構造の試作に成功
・星灯の雫を用いた状態可視化システムの応用展開に成功
———
そして——
その後、「護りの魔回路式イヤーカフ」は、POTEN創舎の仲間たちとリュカだけが身につける、ちょっと特別な“秘密の道具”になった。
POTENハウスの壁に設置された魔導基盤には、それぞれの名前と、小さな緑の光。
それを見るのが、いつしか朝の“おはよう”代わりになっていた。
「……あ、ジンさんまた赤くなってる」
「徹夜して、ノアさんに怒られてるのかな」
「念の為連絡してみよう」
そんなやり取りが、今日も穏やかに交わされる。
ある日には、エドが「アイデアが浮かばん……!」とぼやきながら、感情安定の魔法を何度も使おうとして、
「無駄打ち禁止! クセになる!!!」とナギに叱られたり。
それぞれが、それぞれの想いで、この小さな“護り”と向き合っていた。
今はまだ、ただの魔導具かもしれない。
でも——
それぞれの願いに沿って、このイヤーカフが少しずつ、持ち主に合わせた進化を始めるのは。
もう少しだけ、未来のお話。
明日も23時時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜
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