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僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
冒険者の装備品

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ギルドへの報告と不穏な空気

 陽が高く昇ったころ、ハルは城下町の冒険者ギルドに戻ってきた。

 討伐依頼の報告と、素材の提出のためだ。


 昼時のギルドは比較的落ち着いていて、カウンター奥に立つロザの姿も、どこか穏やかだった。

 木のカウンター越しにハルの姿を見つけると、ロザはすぐに微笑みを浮かべる。


 「おかえりなさい。跳び角獣の件、どうだった?」


 ハルは小さくうなずいて、リュックから丁寧に布包みを取り出した。

 中には、風をまとった痕跡がわずかに残る、跳び角獣の角が四本。


 「依頼は三体分でしたが……念のため、四体倒しました。まだ奥に潜んでいるかもしれないので、定期的に見回ったほうがいいと思います」


 ロザは目を瞬き、それからふっと微笑んだ。


 「……一匹、多く倒してくれたのね。さすがハルくん。助かるわ」


 その声に、ハルは少し照れたように笑って、背筋を伸ばした。


 ロザは角の数を確認しながら、手早く記録を書き込んでいく。

 手慣れたその動きとともに、カウンター越しに穏やかな声が届く。


 「これで周辺の被害も落ち着くと思うわ。村の人たち、安心したでしょう?」


 「はい。……すごく、喜んでくれてました」


 そう言いながら、ハルの胸には、あの“セン爺”の山小屋と、薬草の香る朝の光景がよみがえっていた。


 依頼完了の印が押された紙を受け取り、ギルドをあとにする。

 昼下がりの風が心地よく吹き抜け、背中をそっと押してくれるようだった。


 石畳の階段を下り、通りに出ようとしたそのとき——


 「ねえ、ちょっといい?」


 ハルの前に立ちはだかるように、ひとりの女性が声をかけてきた。

 軽装の冒険者のような服装。後ろには、同じパーティと思われる三人の男女が控えている。


 「君、POTEN創舎のハル君だよね? 一人で素材担当してるっていう……」


 「……はい」


 ハルは立ち止まり、小さく答えながら、視線を探るように女性の目を見た。

 なぜ名前や所属を? という警戒が胸をよぎる。


 「やっぱり。あのPOTENの子がこんなに若いとは思わなかったけど……」


 女性は勝手に納得したように頷き、隣の男性に視線を送る。

 後ろから見ていた長身の男が一歩前に出た。


 「俺たち、四人パーティなんだ。今度ダンジョンに潜ろうと思っててさ。良かったら、君も一緒にどう?」


 「え……」


 ハルは一瞬言葉に詰まり、視線が揺れる。

 突然の誘い。しかも、POTEN創舎という名を知ったうえでの申し出。

 その裏にある意図を、直感が告げていた。


 「一人で素材集めって、効率悪いだろ? ダンジョンの奥まで行くなら、うちらみたいな戦闘組がいた方が、楽だし安全だし——」


 男の口調は、どこか押しつけがましかった。

 “助けてやる”というより、“組ませてやる”という響き。


 ハルは困ったように笑みを浮かべたが、心の奥で、

 静かに距離を測ろうとしていた。


 「すみません……今日はちょっと、急いでちて…」


 ハルが申し訳なさそうに頭を下げると、女性は笑顔のまま首をかしげた。


 「じゃあ、いつでもいいから、今度の予定決めてもいいかな? POTENの素材ってすごく珍しいものも多いって聞いてるし、見てみたいなって思ってて」


 「ええと……その、僕の素材集めって、けっこう自分のペースでやってるので……。みんな、僕ができる範囲で無理しなくていいって言ってくれてるし……」


 ハルは言葉を選びながら、誤解のないように伝えようとした。

 だが、男のほうがすぐに口を挟んだ。


 「だからこそさ。君ができる範囲を、もっと広げてあげたいって思ってるんだよ。な? こっちは四人もいるし、力になるって」


 “断る理由、ある?”


 そんな目で、見下ろされる。


 「……僕、ひとりで素材を探してる時間が、けっこう大事というか……」


 「わかるよ、それも。でも、効率も大事だろ? POTENにだって、いい素材持ち帰りたいでしょ?」


 「素材集めってさ、ただの拾いものじゃないだろ? 君まだ小さいし、危険区域に行くのも限界あると思うし」


 「だから俺たちみたいなのと組めば、もっと上のランクの素材も狙えるんだよ。ほら、WIN-WINってやつ」


 「私たち、報酬とかいらないから。素材の選別とか、教えてくれるだけでもいいのよ?」


 ああ言えばこう言う。

 ハルがどんな言葉でやんわり断ろうとしても、四人組は引こうとしなかった。

 悪意のようには見えない。ただ、下心を“正論”に包んで押しつけてくる。


 (……これ、いくら断っても、行くというまで納得してくれないやつだ……)


 どうしよう。

 このままでは、また押し切られる。


 そのとき——


 「おや?」


 静かに割って入るような声が、背後から聞こえた。

 落ち着いた、けれどよく通る声。


 振り返ると、そこに立っていたのは、

 銀縁の眼鏡に落ち着いた長コートをまとった、知的な雰囲気を持つ男——サイルだった。


 「POTEN創舎のハルくんじゃないか。やあ、依頼から戻ったばかりかな?」


 ふっと笑みを浮かべながら近づいてくるその姿に、

 ハルは思わず安堵の色をにじませた。


 サイルはそのまま、ハルの前に立ちふさがるようにして四人組へと視線を向ける。


 「そして、そちらは——」


 少しだけ目を細めて、記憶を辿るように言葉を続けた。


 「《ノースフォール》の皆さん、ですね? どうされましたか?」


 声色は柔らかいが、その言葉の奥には、まるで“動機を聞かせてもらえますか?”と問いかけるような静かな圧が込められていた。


 四人の空気が、わずかに揺れる。

明日も23時時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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