戦闘開始!
ハルはポシェットから小さな魔石袋を取り出し、盾の裏にあるアタッチメントに手を伸ばした。
「……あいつの攻撃属性は風だって、書いてあったな」
指先で火属性の魔石をそっと取り出し、カチリと装着する。
——その瞬間、盾の魔法陣がふわりと赤色に浮かび上がり、魔力の流れがしっかりと繋がったことを知らせてくれた。
(すごい……思ってたより、ずっとスムーズだ)
ハルは小さく頷くと、すっと体勢を低くして、跳び角獣の動きを見据えた。
「よし……行こう」
火を纏った盾を構えながら、ハルは静かに足を踏み出す。
跳び角獣がぴくりと耳を揺らした。
次の瞬間——
バンッ!
音を立てて、跳び角獣の巨大な身体が地面を蹴る。
跳ね上がった角獣は、まっすぐにハルへと跳躍してきた。
(来た——!)
盾を構え、魔力を流しながら、ぎりぎりのタイミングで受け止める。
火の魔石が反応し、衝撃が緩和されるようにふわっと体を押し返す感覚が走った。
(この魔石、すごい……!土属性だから軽減されるのか、それともこの盾の性能の良さか……)
着地と同時に跳び角獣が再び動こうとした、その瞬間——
跳び角獣の額に、小さな緑色の光——魔石がきらりと眩き、跳び角獣の角が風属性を纏った気配がした。
ハルは盾を構え直し、次の動きに備えた。
次の瞬間、風がうなりを上げた。
跳び角獣の角が風を切り裂き、周囲の草を巻き上げながら鋭く突き出される。
ただの突進とはまるで違う。
風の魔力によって加速された突き——その一撃は、まともに受ければ地面ごとえぐられるかもしれない。
(来る……!)
ハルは一歩も引かず、盾を前に構えた。魔力を土の魔石に流し込むと、盾がわずかに淡い光を帯びて脈打つ。
瞬間——轟音がぶつかる。
跳び角獣の突進が、正面から土属性の盾に直撃した。
「——っ!」
足元の土が裂け、衝撃がハルの全身を貫いた。けれど、盾は砕けず、魔力の流れが風を受け流すように外側へと逸らしていく。
(すごい……ちゃんと受け止められた!)
火属性の魔力が、風の勢いを吸収し、分散させていく感覚があった。
跳び角獣は一瞬バランスを崩し、跳ねた後ろ脚が大きく土を蹴る。
(今なら——)
ハルは体勢を低く保ったまま、盾の隙間から相手の動きを見極めていた。
跳び角獣が突進の反動で体勢を崩した瞬間、ハルは魔力を練り上げ、詠唱に入った。
「——《ウインドサークル》!」
駆ける風の魔法陣が足元に広がり、盾の周囲を旋回するように風の壁が立ち上がる。跳躍を封じ、動きを制限するための風の結界——けれど。
「……え?」
跳び角獣がぴくりと耳を揺らし、風の角を振るった次の瞬間——
ゴォッ!!
ハルの展開したウインドサークルが、まるで霧が晴れるように、一瞬でかき消えた。
(そんな……風で、風を……!?)
跳び角獣の風属性の魔力が、ハルの魔法とぶつかり、打ち消したのだ。
属性が同じであれば、力の均衡によってこうして相殺されてしまう——まさに今がそれだった。
風が巻き起こる中、ハルはその場に膝をつくこともなく、盾を握り直して前を見据えた。
(どうしよう……風魔法が効かない。僕が使えるのは風と回復だけなのに——)
跳び角獣の角が、再び地を蹴った。
「くっ……!」
盾を斜めに構えて受け流す。衝撃が体ごと押し返してくるが、なんとか踏みとどまる。
(考えろ。考えるんだ)
盾を構えたまま、一歩後退しながら深く息を吸う。
(いつもツムギお姉ちゃんたちは……開発がうまくいかないとき、ただ「使えない」って諦めない。どうして?って考えて、逆に何ができるかを探して、少しずつ形にしていく。ジンさんも、エドさんも、バルドさんも、ナギさんも……)
盾に刻まれた魔法陣が、赤色にゆっくりと脈打っているのが視界の端に入った。
(今あるもので、なんとかできないかって——みんな、いつも試してるじゃないか)
跳び角獣の耳がぴくりと動き、また地を蹴ろうとする気配。
(僕だって、できるはずだ。風が効かないなら、逆を使う。盾には風属性の弱点の火魔石が装着されてる——なら、何か反応させられるかもしれない)
再び突進。ギリギリで受け流す。
(……盾が火属性なら……! 魔法を“受ける”だけじゃなく、“使う”こともできるかも!)
ハルはすっと息を吸い、目の前の盾を見据えた。
(風でダメなら、その風を“ぶつけて”みよう)
ハルは盾を正面に構えたまま、深く息を吸い込んだ。
「——《ウインドショット》!」
風の魔力を圧縮して放つ、単発の風弾。それをあえて、自分の盾へと撃ち込む。
バン、と風の衝撃が盾に直撃した瞬間——
「……っ!」
盾の中心部が淡く赤色に脈打ち、魔石が震えるように共鳴した。盾の表面を這うように魔法陣が浮かび上がり、その直後——
ドンッ!
空気が小さく鳴動し、盾の前方に向かって火の魔力が反応射出された。まるで衝撃波のように、圧縮された火の力が前方の空気を裂くように走る。
(……火魔法が出た……!盾が“反射”した!?)
だが狙いは外れ、火の魔力は跳び角獣の足元をわずかにかすめるだけに終わった。
「……次は、もっと角度を……!」
ハルは興奮と焦りを押さえながら、再び盾を構え直す。次の跳躍に備え、魔力の流れと盾の重心を意識し——狙いを定める。
弱点属性を土属性→火属性に変更しました。




