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僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
冒険者の装備品

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エリアスと薬屋へ

 陽射しが傾きかけた街道を抜け、ハルは薬屋を目指していた。次のダンジョン探索に向けて、ポーションや解毒薬を補充しておきたかったのだ。


 そのときだった。

 「ハル?」

 聞き慣れた落ち着いた声に、足を止めて振り返ると、すぐ後ろにエリアスが立っていた。柔らかな表情で、どこかほっとしたようにこちらを見つめている。


 「エリアスさん!」

 「やあ、ここで会えるなんて嬉しいよ。どこに行くところだったんだい?」


 「これから薬屋に。次のダンジョン探索に備えて、準備しておこうと思ってて」


 「それなら、私も付き合おう。いっしょに行こう」


 そう言って自然な足取りで並ぶエリアスの背に、ハルもくすぐったいような笑顔を返した。


 ほどなくして到着した薬屋の中は、ハーブと薬液の混ざった独特の香りが漂い、どこか落ち着く空間だった。

 ハルはポーション、マナポーション、そして毒気しなどを手に取り、真剣な表情で必要な数を数えていく。


 その横で、エリアスはふと棚の上段を見上げ、瓶をひとつ手に取った。

 「これは……“エキストラポーション”。それに“万能薬”も。これも買っておこう」

 「えっ、それって……高いですよ!? 僕にはまだ、そんな高級な薬は——」


 ハルが思わず言いかけると、エリアスはゆっくりと首を振り、やわらかく語りかけた。


 「備えておきたいんだ。……備えさせてくれ、ハル」


 その言葉には、穏やかだけど確かな思いが込められていた。

 ハルは口を閉じて、小さくうなずいた。


 (昔の僕だったら、遠慮して、こんな風には素直に受け取れなかったかもしれない)


 人から何かをしてもらうたび、その好意の重みに押しつぶされそうになっていた。

 「自分にはそれだけの価値がない」と、勝手に決めつけてしまっていた。


 でも、今は少しだけ違う。


 ——誰かの優しさを、素直に受け取ること。

それもまた、その人のために“できることのひとつ”なんだって、ようやく思えるようになった。


 「ありがとうございます、エリアスさん。……ちゃんと、大切に使います」


 その言葉に、エリアスは目を細めて小さく笑った。

 ハルの手の中の薬瓶が、ほんのりと温かく感じられた気がした。


 両腕に抱えるには少し多すぎるほどの薬を抱え、ハルは両手でバランスを取りながら店を出た。

 その後ろで、エリアスも静かに一息つく。


 (……多すぎるかもしれないけど、それでも)


 彼はふと、手にした袋を見下ろしながら、誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。


 「——これを使わずに、廃棄することになるといいな」


 誰にも聞こえないように、ぽつりとつぶやき、エリアスは薬屋のカウンターに静かに代金を差し出す。支払いを終えた彼は、店主に軽く会釈をしてから、薬袋を片手にハルのもとへと歩み寄っていった。


 「ハル。今日は、POTENハウスに帰るのかい?」


 振り返ったハルは、嬉しそうに、にっこりと笑った。


 「うん、もちろん!」


 その答えに、エリアスの表情もどこか緩む。


 「じゃあ、一緒に帰ろうか」


 夕暮れの街を、二人は並んで歩き出した。

 商人たちの呼び声や、窓辺からこぼれる明かりに包まれながら、ハルは少しだけ足取りを弾ませた。


 POTENハウスが近づくにつれ、ほんのりと灯るあたたかな明かりが、遠くからふたりを迎えているように見えた。

 あの場所に戻るだけで、少し肩の力が抜けるような、安心できる居場所。


 ハルはふっと小さく息を吐いて、笑顔で扉を見上げた。


 扉を開けた瞬間、弾けるような声とともにツムギが姿を現した。

 目はらんらんと輝き、手には魔法陣が刻まれた魔石が握られている。


 「見て見て、もう少しで仕上がるからね! 次の探索には間に合いそうで一安心だよ〜!」


 「ほんとですか……!すごい、ありがとうございます!」


 ハルが嬉しそうに声を上げると、リビングの奥からジンとエドの声が聞こえた。


 「お守り班は早いなあ……こっちは、もうちょっとかかりそうだな」


 エドが肩をすくめつつも、にやりと笑う。

 ジンは試作品の部品を手にしながら、ハルに向き直った。


 「そういえば、盾はもう使ってみたか? 命を預けるものだから、ダンジョンに持っていく前に、不具合がないかは確かめておきたいんだ。一度試してみてくれると嬉しいな」


 「あ、それはまだなんですけど……」


 ハルが答えかけたその時、エリアスが横から補足した。


 「リュカ君は、先に試したみたいですよ。大興奮でした。とにかく使いやすいって。それに、魔石で盾の属性を変えられるのが気に入ったってこの間偶然あった時言ってました」


 「へぇ〜、リュカ君がね。それは嬉しいな!」


 「僕は、まだちゃんと試してないので……じゃあ、明日にでも何か依頼を受けて、使ってみますね」


 そう言ったハルの声は、どこか誇らしげで。

 その胸の奥には、確かな信頼と、少しのわくわくが宿っていた。


 そのあと、ハルはポシェットからそっと包みを取り出すと、バルドのもとへと歩み寄った。


 「バルドさん、これ……道具屋さんで見つけて。お弁当を2週間くらいそのまま保存できる保冷温魔布と、火傷しない鍋敷きです。もし良かったらみんなに使ってください!」


 「ほほう、なんと気が利いとる……! どれどれ、これは……おお、よい素材じゃなあ!仕組みがきになるところじゃ」

 目を細めて布の感触を確かめながら、バルドは嬉しそうに頷いた。

 「明日はうまいもんを仕込んでやるぞい。朝早く起きて、たっぷり詰めてやろう!」


 「わあ……楽しみにしてます!」


 ぽかぽかとあたたかい気持ちを胸に、ハルはそのまま自室へ向かった。


 その夜。

 ハルは寝巻きに着替えて自分の部屋のベッドに横になり、ふかふかの布団に身を沈めた。

 窓の外には、やさしい星の瞬き。静かな夜風がカーテンをやさしく揺らしている。


 (明日は、どんな依頼があるかな……)

 どうせなら、少し変わった素材が手に入ると嬉しいな。みんなが驚いてくれるような、不思議なものとか。

 それとも、誰かを手伝う系の依頼もいいかもしれない。街の人の役に立てたら、きっと気持ちがいい。


 (……楽しみだな)

 心の奥に灯る小さな期待を胸に、ハルはゆっくりとまぶたを閉じた。

明日も23時時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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