便利な道具を探しに
その日の午後、ハルはリュカと別れたあと、ひとりで城下町を歩いていた。
目当ては、ダンジョンに持っていくための便利なアイテム探し。
次の挑戦は半月後。時間はあるとはいえ、少しずつ準備を進めておきたかった。
(一ヶ月こもるかも、って言われたし……何か“役に立ちそう”なものが見つかるといいなぁ)
そんなふうに思いながら、ハルは道沿いに並ぶ雑貨屋や素材店の軒先を見て回っていた。
そういえば——
このあいだ、「今回は一ヶ月くらいダンジョンにこもるかもしれない」ってツムギお姉ちゃんに話したら、大騒ぎになった。
「え!? それ、みんなにはもう伝えた? バルド先生と揃えた装備で本当に足りてる? 守り袋は、それまでに何とか仕上げて……あとは非常食に、緊急用のポーション、もしもの予備の魔石も……!」
ツムギお姉ちゃんがメモ帳を片手に、目をぐるぐるさせながらすごい勢いで書き込んでいた姿が、今も目に浮かぶ。
(……それ以来、創舎のみんな、だんだん目の下のクマが濃くなってきてる気がするんだよなぁ)
思わず苦笑しながら、ハルはポシェットの紐を軽く引いた。ふるふると小さく震える感触が、指先に伝わってくる。
いろんな人が、自分のために動いてくれている——そのことが、ハルの胸に火を灯してくれる。
(よし。しっかり準備して、期待に応えるぞ)
そう思いながら、ハルは古びた一軒の道具屋の扉を押した。
チリン——。
鈴の音が鳴ると、店内には木と革の匂いがふわりと広がった。棚には所狭しと様々な道具が並び、天井から吊るされたランタンがゆらゆらと温かな光を落としている。年季の入ったカウンターの向こうから、くしゃっと笑顔のおじいさんが顔を出した。
「いらっしゃい。この間も買いに来てくれたね。今日もなにか探してるのかい?」
「はい! 次のダンジョンに向けて、便利な道具を探してて……」
「なるほどなるほど。前回で基本的なアイテムは揃っただろうし、じゃあ今回は、ちょっと面白いものをいくつか見ていくかい?」
そう言うと、親父さんはゆっくりと引き出しを開け、小ぶりな木箱を取り出した。パチンと金具を外すと、中にはどこか不思議な光沢を帯びた小物たちが整然と並んでいた。
「これは“火傷しない鍋敷き”。これは“音のしない靴底”。あとこれは“忘れない鈴”だ。振るたびに“今なにしようとしてたか”を思い出させてくれる……まあ、忘れてる理由にもよるがね」
「す、すごい……!」
面白いアイテムのオンパレードに、思わず前のめりになるハル。その様子を見ていたおじいさんが、ふと棚の奥から布製の包みを取り出した。
「ほい、これはちょっと高級品。“保冷温魔布”。中に入れたもんの“時間”を止める力があるんだよ」
「……えっ!? それってたとえば、お弁当とか……!」
「そうそう。料理人に人気だよ。風味も温度も、作った時のまんま。2週間くらいは余裕だねえ。特別な封結魔法が織り込まれててね」
ハルはぽんっと手を打った。バルドが手作り弁当を用意してくれると言っていたことを思い出す。
(……これがあれば、あのお弁当を温かいまま持ってダンジョンに行ける!)
「これ、いただきます! 5個、在庫ありますか?」
「あるとも。大人気商品だから多めに仕入れてるんだ。サービスで好きなマークも入れられるぞ?」
「本当ですか!? ……じゃあ、後でお願いしてもいいですか!」
そして、さらに隣の棚にふと目をやった時——
目に飛び込んできたのは、まるでハルのために用意されていたかのような、シンプルで精巧なペンケースだった。
「これは“アークノート”。火にも水にも凍結にも強くて、何があっても中身は安全だ。ペンはインクが無限、メモは魔力で再生、消しゴムもついてる。冒険者の記録用として作られた逸品だよ。……まあ、最近の若い冒険者はあまり使わないがね」
「…………それも、買います!!」
ハルの即答に、親父さんは目を細めて小さく笑った。
「いい目をしてるな。どれも、大事にしてくれると嬉しいよ」
ハルはお礼を言いながら、紙とペンを取り出した。
「あの、もし可能なら……このマーク保冷温魔布に、入れてもらえますか?」
紙の上には、POTEN創舎の“ぽて”をモチーフにした、ころんとした可愛いマークが描かれていた。
「へぇ……これはまた可愛いね。君の仲間のマークかい?」
「はい! 僕が所属しているチームのマークなんです」
親父さんは小さくうなずいて、笑った。
「いいねぇ。じゃあ、そのマーク、ちゃんと中心に配置しておくよ。こういうのは、心のよりどころにもなるからねぇ」
親父さんが、保冷温魔布にマークを入れてくれている間、ハルはふと、先ほど進められ、棚の端に置かれていた“火傷しない鍋敷き”に目を留めた。
手に取ると、やわらかな素材なのに、どこか頼もしさを感じる。
(……これ、バルドさんに渡したら、喜んでくれるかも)
迷わずその鍋敷きも追加で購入し、袋を受け取った。
「ありがとうございました! また来ますー!」
店の外に出ると、少しひんやりとした風が頬をなでた。
小さな木製の看板が、カランと優しい音を立てて揺れている。
ハルは振り返って、ぺこりと頭を下げた。
そして足取り軽く、買ったばかりの道具たちをポシェットに入れると、次の目的地へと歩き出した。
明日も23時時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜
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