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冒険者ギルドからの呼び出し

 午後の陽差しが石畳の道をまばゆく照らしていた。


 ハルはポシェットの紐を少し持ち上げ直しながら、城下町の中心部にある冒険者ギルドへと足を速めていた。

 今日はリュカと一緒に、預けてきたドロップ品と二階層への挑戦の件で、ロザさんから話聞くことになっていた。先にリュカが到着しているはずで、入口の扉をくぐると、ほっとするような木と革の香りに迎えられる。


 広間には冒険帰りの冒険者たちが数人、カウンターや待合席で談笑していた。中には傷の手当てをしている者や、獲得した素材を確認している者もいて、活気のある日常の空気が漂っている。


 その奥。

 受付の横のベンチで、軽く脚を揺らして座っていたのは、見慣れた後ろ姿。


 「……リュカ!」


 呼びかけると、すぐにこちらを向いて笑顔を見せる。白いシャツの袖をまくっていて、どこかそわそわした様子だ。


 「お、ハル。待ってたぞ。ロザさん、まだ奥みたいだけど、すぐ来るって」


 ハルは小さく頷いて、隣の席に腰を下ろす。

 ギルドの静かなざわめきに耳を傾けながら、ハルの表情に自然と緊張の色が混ざっていく。


 (ロザさんが呼んだってことは……きっと、ドロップ品の鑑定が終わったってだよね)


 この前訪れたあの谷で見つけた不思議な仕掛けの数々。それに、リュカと一緒に探索したときの、あの感覚——

 またあの場所に行けるかもしれない、そう思うと胸がわくわくしてくる。


 そんな予感を胸に抱きながら、ハルはそっと背筋を伸ばした。


 「お待たせしました」


 落ち着いた声がして、ふたりが顔を上げると、カウンターの奥からロザが姿を現した。冒険者ギルドの制服をきちんと着こなし、優しい微笑みを浮かべている。


 「来てくれてありがとう。……ちょうど今、準備が整ったところよ。お話は、奥の部屋でゆっくりしましょう」


 そう言いながら、手元のファイルを軽く抱え直し、手でふたりに続くよう促す。


 「こちらへどうぞ。静かな部屋を用意してあるから、落ち着いて話ができると思うわ」


 ハルとリュカはそれぞれ頷き、立ち上がってロザの後について歩き出す。


 ギルドの喧騒から少し離れた廊下の先、小さな扉の前でロザが立ち止まった。

 軽くノックしてから扉を開けると、そこは陽の光が柔らかく差し込む、小ぢんまりとした応接室だった。


 丸テーブルと椅子が三つ。壁際には書類棚が並び、香のようなほのかな木の香りが漂っている。

 ロザは中に入って扉を押さえながら、にこやかにふたりを振り返った。


 「さあ、どうぞ。お飲み物は後でお持ちするから、まずは座って」


 ハルとリュカが頷いて席につくのを見届けてから、ロザは手にしていたファイルを開き、手元の資料を一枚取り出した。


 「まずは……忘れ谷のダンジョンで、あなたたちが“ガラクタ”と呼んでいた金属の破片たちね。あれ、ちゃんと調べさせてもらったわ」


 ふっと微笑むと、資料をテーブルの中央にそっと置く。


 「結果から言うと——あれは、魔導鉄まどうてつに非常に近い性質を持っていたわ」


 「……えっ!?」

 思わず声を上げたのはリュカ。ハルも驚いたように目を見開いている。


 「本来、魔導鉄は特殊な精錬過程を経て作られるものだけれど……ダンジョンの中では、稀に魔導鉄の状態でドロップすることがあるの」


 ロザはそう言って、穏やかな口調のまま説明を続けた。


 「今回見つけたものは、まさにそのパターンね。表面には傷や変色が見られるけれど、素材自体は非常に安定していた。加工すれば、十分に武具や装備の素材になるわ」


 「……ガラクタだと思ってたのに。まさか、あれが魔導鉄だったなんて……」

 ハルがぽつりとつぶやく。


 ロザは頷いてから、さらに一枚別の紙を指先でつまんだ。


 「ただし、注意点もあるの。ダンジョン産の魔導鉄は、たまに“妙な性質”を帯びていることがあるのよ。魔力の反応が少しだけ偏っていたり、特定の属性に強く反応するような例も報告されてるわ」


 「つまり……当たり外れがある、ってことですか?」

 リュカが少し身を乗り出して尋ねると、ロザはくすりと笑った。


 「ええ。だけど、だからこそ——素材の“個性”を活かせる人たちにとっては、とても面白い素材でもあるの。たとえば、あなたたちがいつもお世話になっているPOTEN創舎のようなね」


「POTENのみんななら、きっと大喜びしそうだよな!」


 リュカがぱっと顔を輝かせて、勢いよく言葉を弾ませた。


 「すげー素材ってわかったなら、俺たちの装備にも使えるかもしれないし……ハル! 全部渡しておいてよ!」


 その言葉に、ハルも思わず笑顔になる。


 「……うん、ありがとう! ちゃんと渡しておくね。どんなものになるか、楽しみだなあ……!」


 ふたりの声に、ロザもふっと目を細めて微笑んだ。


「それから——ふたりにお願いされていた、忘れ谷の第二階層挑戦の件だけどね」


 ロザは手元の書類を一枚めくりながら、穏やかに言葉を続けた。


 「ギルド内で調整がついて、同行メンバーが正式に決まったの。せっかくだから、今日ここで紹介させてもらうわ」


 「ほんとですか!?」

 リュカが身を乗り出す。


 ハルも、わずかに背筋を伸ばしてロザの言葉に耳を傾けた。

 ギルドの正式な同行者と再び忘れ谷へ——その一言だけで、胸の奥が少し熱くなった。

明日も23時時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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