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初依頼達成とお土産

本日2回目の投稿です

 その後も、魔導スライムたちはなぜかとても協力的だった。

 ハルが瓶を構えると、そっと寄ってきては、後ろを向いてぽたぽた……。

 最後の方には、瓶の準備が整うのを待ってくれるようになり、まるで「今からいくよー」と言わんばかりの間を置いてから、ぽたぽたと、分泌液を落としてくれた。


 そんな調子で採取が進んだおかげで、持ってきた瓶はあっという間に満杯になってしまった。

 一瓶に10滴が目安だったはずなのに、スライムたちのサービス精神(?)が旺盛すぎたのか、どう見ても詰めすぎなくらい入っている。


 (……これ、あとで怒られたりしないよね?)


 そんな心配が頭をよぎるくらい、ぷるぷるの液体がぎゅうぎゅうに詰まった瓶たちが、ポシェットの中でずっしりと存在感を放っていた。


 「協力してくれて、本当にありがとう。もうこれで最後だよ。助かったよ」


 そう言って小さく頭を下げると、スライムたちはそろってぷるんと体を揺らす。

 「いいよ」とでも言っているような、可愛らしい動きに、ハルの頬が思わず緩んだ。


 その後、スライムたちは逃げる様子もなく、のんびりとその場に留まっていた。

 ハルは一匹一匹に「ありがとう」と声をかけながら、そっと指でぷにぷにと撫でていく。

 抵抗する様子もなく、むしろ嬉しそうに体を小さく揺らすその姿は、どこまでも癒しでしかなかった。


  (……スライムって、こんなにかわいい生き物だったんだ。いつか仲間になってくれたりしないかな……テイマーの腕、少しずつでも上げていこう)


 そんなことを思っていたとき、ふと頭の隅に依頼書の一文がよみがえった。


 《……液体の質を保つため、採取後は速やかに納品》


 すっかり忘れていた。スライムの分泌液は、採取してから劣化が始まるのが早いのだ。


 (……いけない、急がなきゃ)


 名残惜しさを感じながら、ハルは最後にもう一度、魔導スライムたちの方を振り返った。


 「今日はありがとう。また……また来てもいいかな?」


 スライムたちは、ぷるん、と揺れてから――


 ぴょこ、ぴょこ、ぴょん!


 揃ったように弾みながら、元気いっぱいに跳ねてみせた。

 まるで「いつでもおいで!」とでも言っているようで、ハルの顔が自然とほころぶ。


 「うん、また来るね。……ぜったい」


 そう言って、ハルはポシェットの位置を整えながら立ち上がった。……そのとき。


 (……あれ? なんか、軽い?)


 結び目を引っ張って確認してみるけれど、ほどけた様子はない。

 たしかに、あれだけ瓶に詰めたはずなのに、肩への重みがほとんど感じられなかった。


 (やっぱり……ポシェット、少しずつ変わってきてる気がする)


 入る量が増えているうえに、重さも軽くなっている。ほんの少しの変化だけど、それでもちゃんと、前とは違うと感じられる手応えだった。


 (POTENのみんなに、あとで話してみよう)


 そう心に決めると、ハルは名残惜しさを抱えながらも、森をあとにして、冒険者ギルドのある城下町へと歩き出した。

 風は背中を押すように吹き、ポシェットの中では、小瓶たちが静かに揺れている。


 ギルドにつくと、早速受付カウンターの前へと足を運ぶ。

 ハルは少し緊張しながらも、割れぬよう丁寧に包んでおいた小瓶の束を、そっとカウンターの上に置いた。


 「失礼します、魔導スライムの分泌液回収の納品に来ました」


 受付の女性が顔を上げると、柔らかな笑みで応じてくれる。


 「お疲れさま。じゃあ、品質確認させてもらうわね」


 作業用の台に小瓶をひとつずつ並べていき、瓶のラベルと封を確認したあと、魔力を通す装置に差し込んでチェックが始まる。


 ハルはちょっと緊張しながら、それをそっと見守った。


 ——カチッ。


 「……あら。これは、すごく状態がいいわね」


 受付の女性が、ふと驚いたように目を見開いた。


 「色も透明度もばっちり。しかも……これ、全部10滴以上入ってる? 丁寧に採取したんだね。こんなにきれいに集めてくるなんて、珍しいわよ」


 ギルド職員のお姉さんが、小瓶を光にかざしながら、目を丸くする。


 「え、あ……ありがとうございますっ」


 思わずぺこりと頭を下げる。

 まさか、「スライムが後ろを向いて協力してくれました」だなんて、さすがに言えない……


 「うん、この品質なら追加報酬対象ね。今回は、基本報酬が1,500ルク。それに加えて品質加算で+1,000ルク。合計で一本2,500ルクになります」


 全部で10本納品したから……2万5,000ルクになった。ハルは心の中で計算しながら、思わず小さくガッツポーズをした。

 (よし、帰りにみんなに何かお土産買っていこうかな)


 「ふふ、いい仕事してくれたってことよ。おめでとう、初依頼、大成功ね」



 「……はいっ!ありがとうございます!」


 ルクが記録されたギルドカードを胸元のポケットにしまいながら、ハルの足取りは自然と軽くなっていた。


(みんなへのお土産、何がいいかな……)


 お店の並ぶ通りを歩きながら、ふと、少し前までのことを思い出す。


 ——ハルの父、カイルは、まだハルが幼い頃に仲間の救出依頼を受けてダンジョンへ向かい、それきり消息を絶った。

 それからまもなく、母親の目が少しずつ見えにくくなっていき、進行を遅らせる薬が欠かせなくなった。


 その薬は、とても高価だった。

 ハルは、家計を助けようと拾い物を始めたけれど、前の人生ではそれでは全然足りなかった。

 冒険者として素材を集めていたあの頃、薬代を稼ぎきれずに、最後は魔物に襲われて命を落とし——

 その頃、母の視力は、もうほとんど残っていなかった。


 でも、今は違う。


 風属性の適性が上がったせいか、拾い物をはじめた年齢が早かったせいか、理由ははっきりしないけれど、今回はうまくいった。

 さらに、ツムギお姉ちゃんが作り出した特別な素材『透輝液とうきえき』──

 その素材のもとになるものを、たまたまハルが見つけて渡し、その後素材づくりを少し手伝っただけなのに、ツムギお姉ちゃんはそれを“共同名義”で商標登録してくれた。


 透輝液のロイヤリティは想像以上の額で、今では薬代に困ることもなくなった。

 拾い物は相変わらず好きだけど、それだけじゃない——誰かのために何かを買おう、そう思える余裕が、ちゃんと今の生活にはある。


 (前は……お母さんの薬で手いっぱいだったもんな。誰かのために買い物なんて、考えることもなかった)


 そう思うと、今こうして“何をお土産にしようか”なんて悩めていることが、すごく贅沢で、すごく幸せなことのように思えた。


 (……よし、今日はごちゃ混ぜで色々買っていこう)


 商店街の角を曲がったところにある、小さなケーキ屋さん。そのショーウィンドウに並ぶカラフルなケーキたちに、思わず足が止まった。

 ぽてが喜びそうなふわふわのクリームケーキ、ナギさんやツムギお姉ちゃんが好きそうなベリータルト。

 ひとつずつ箱に詰めてもらい、ほくほく顔で店をあとにする。


 その後は通りの先にある老舗の酒屋。

 香りのよい果実ワインを一本と、おつまみ用のしょっぱい軽食をいくつか。


 (バルドさんとジンさんはいつも一緒に飲んでるし、エドさんやリナさんイリアさんもたまに酒盛りに加わってるみたいだし……)


 小袋に入ったスパイスナッツと果実酒をもう一本追加して、買い物袋はすっかり“仲間たちの味”でいっぱいになった。


 「ふふっ……帰ったら、みんなびっくりするかな」


 足取りは自然と軽くなる。ポシェットにはスライムの分泌液、腕には仲間へのお土産。心の中もぽかぽかに満ちていた。

本日は、あと1話投稿させていただきます。

もしよろしければ、ブックマークして読みに来ていただけると嬉しいです。


この物語は、いくつかの物語と世界観を共有していますが、本作単体でもお楽しみいただけます。


どの物語から読んでも問題なく楽しめますが、全て読むと、より深く世界のつながりを感じられるかもしれません。


⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

https://ncode.syosetu.com/n3980kc/


⚫︎ハルの素材収集冒険記・序章 出会いの工房

https://ncode.syosetu.com/N4259KI/

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