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自信作のお披露目

 「ナギ、待たせてごめーん!」


 あわてた声とともに、奥の作業室からツムギが顔を出した。手には小さなバッグとメモの束。少し髪が跳ねているのは、きっと直前まで何かに集中していた証拠だ。


 リビングにいるハルとリュカの姿に気づき、ぱっと笑顔になる。


 「リュカ君、こんにちは! あれ……二度目まして、だったかな?」


 ツムギの言葉に、リュカもにこりと笑ってうなずいた。


 「はい。少し前に、ハルとツムギさんが森へ行くとき、町の通りでお会いしました」


 「やっぱり、あの時いたんだー!あの時からハルくんがツムギお姉ちゃんって呼んでくれるようになって、すごく嬉しくてね」


 ツムギは嬉しそうに手を打った。


 「そうそう、それにこの間は、魔石ありがとう! すごく助かったよ!」


 そう言ってから、ふと視線をハルとリュカのほうに向け直す。


 「今日はエドさんと、お父さんと装備の打ち合わせだよね? 本当は私も参加したかったんだけど……新商品の打ち合わせが入っちゃってて。ごめんね、また今度ゆっくり話そ!」


 「つーむーぎー! そろそろ行かないと遅れるよー!」


 廊下のほうでナギが腕を振っている。


 「はーい、行く行くー!」


 ツムギはバタバタと歩き出しかけて、ふと立ち止まり、みんなに向かって振り返る。


 「それじゃ、いってきます! いろいろ楽しみにしてるから、また今度ね!」


 ツムギの声に続くように、彼女のポシェットから顔を出したぽてが、ぴょこっと飛び出す。


 「ぽふーっ!(いってきまーす!)」


 そう言うやいなや、ぽては一直線にハルの方へ飛びついた。


 「わっ、ぽて……!」


 ふわっとハルに抱きつくと、その胸元でもぞもぞと身を寄せてすり寄るように動く。ハルが苦笑しながら頭を優しく撫でてやると、ぽてはうっとりしたように目を細めた。


 「ぽふ……(がんばる……!)」


 名残惜しそうにハルの胸元をぽふぽふしながらも、ツムギの「ぽて、行くよー!」の声に反応して、ぽてはぴょんっとポシェットへ戻っていった。


 「気をつけていくんじゃぞ!」

 「いってらっしゃーい!」


 見送る声に背を押されながら、ツムギとナギ、そしてぽては、にぎやかにPOTENハウスをあとにした。


 「噂には聞いてたけど……ぽて君って、本当にハルに懐いてるんだな。めちゃくちゃかわいいよな」


 ぽての去っていったドアを目で追いながら、リュカがふわりと笑う。


 「うん……なんか、いつの間にか懐いてくれて、ほんと可愛いんだよ。ツムギお姉ちゃんには“ぽての兄弟”って言われてるよ」


 ハルも苦笑しながら、どこか誇らしげに答えた。


 そんなふうに二人が和やかに話していると、リビングの奥の扉が開き、足音と共に低い声が聞こえてきた。


 「やれやれ、本当にツムギはいつも慌ただしいな……リュカ君も、驚いたろう? すまないな」


 苦笑まじりに現れたのは、ジンだった。その後ろを、ちょこちょこと軽い足取りでついてくるのはエド。


 「でもまあ、あれでしっかり回ってるのが、すごいところだよな。さて、お待たせしてしまって申し訳ない。さっそく、作戦会議といこうか」


 装備の打ち合わせに胸を弾ませる二人の登場に、リビングの空気が少しだけ引き締まる。

 けれどその熱気は、どこか楽しげで、ものづくりの魔法に包まれていた。


 リュカとハルの前に立ち、エドが声を弾ませる。


 「じゃあ、まずはこれを見てほしいんだ」


 そう言って、エドは大事そうに包みを広げる。中から現れたのは、鈍く光る金属製の盾だった。


 「これはね、ガウスさんが精錬してくれた“魔導鉄”で作ったんだ。魔力を込めて練り上げた特別な鉄で、物理攻撃に強いだけじゃなくて、魔法ダメージも軽減できる効果があるよ」


 盾の裏をそっと見せながら、エドは続ける。


 「ここ、見て。ツムギに魔法陣を刻んでもらったんだ。このアタッチメントになってる部分に魔石をはめると、その属性の魔法防御力が上がる仕組みになってる」


 「二つまではめられるようにしてあるから、状況に応じて使い分けてね。ダンジョンによっては出てくる魔物の属性が偏ってることもあるし、ボス戦前に属性が分かってるなら、事前に石を入れ替えておくと安心だよ」


 そう言って、今あるすべての属性の魔石が入った小さな袋をテーブルに置く。


 「これが魔石全部ね。持ち運び用の袋はナギに頼んで作ってもらったんだ。ツムギが軽量化の魔法陣を仕立ててくれて、それをナギが刺繍で仕上げてくれて……ほんと、すごく軽いの。触ってみて」


 誇らしげに胸を張るエドの表情は、ものづくりが好きでたまらない少年そのものだった。



 「すごい……これがPOTEN創舎の装備……!」


 リュカが思わず声を漏らしながら、そっと盾を手に取った。表面に走る微細な紋様、触れたときの金属の重みと、手にしっくりなじむ感触に、目を輝かせる。


 「ジンさん、エドさん、つけてみてもいいですか?」


 「もちろん! そのために作ったんだからな。つけてみて、違和感があるところがあったら教えてくれ」


 ジンが軽くうなずきながら答える。職人としての落ち着いた声音に、リュカは背筋を伸ばしてうなずいた。


 リュカが腕に盾を装着すると、カチリと心地よい音が響く。その瞬間、魔力がほんのりと応えるように盾に流れ、紋様の一部が淡く光った。


 「……わ、光った!? うわ……うわあ、すげえ。これ、本当すっごく……かっこいい!」


 リュカは思わず身体をくるりと回してみたり、構えのポーズを取ってみたりと、はしゃいだように動く。


 「おーい、動きすぎるとバランス崩すぞー。最初は重さに慣れてないんだからな」


 ジンが苦笑しながらも、その目はどこか優しい。


「でもわかるよ、その気持ち。僕も初めてツムギお姉ちゃんにポシェットを直してもらったとき、なんでもできるような気がしてさ……」


 そう言って、ハルももうひとつの盾を装備してみせる。


 「うん、改めて装備すると……やっぱり、守られてる感じがする。エド、ありがとう!」


 「へへ、どういたしまして! でも、使いながら気になるところがあったら教えてね。もっと改良できるかもしれないし!」


 「この魔石の入れ替え機構も……すごくスムーズですね。POTENの人たちって、こんなものをいつも作ってるなんて……本当に、尊敬します」


 リュカは小さく息をのんで、もう一度、手元の盾を見つめた。


 「……この盾で、新しい冒険が始まるかと思うと、すごく……力が湧いてくる」


 その言葉に、場の空気がふっと静かになった。

 誰もがほんの少し、胸の奥が温かくなるような気がして、自然と笑みがこぼれた。

明日も23時時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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