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交わる光、導かれる扉

 光の連鎖が道を拓いた先には——それまでとはまったく異なる、静かな明るさが広がっていた。


 床はなめらかな白銀色の石畳。壁にはいくつもの小さな結晶が埋め込まれていて、ライトの魔法を受けたときだけ、ほんのりと星屑のようなきらめきを放つ。

 それらは風が吹いたわけでもないのに、ふわり、ふわりと浮遊しているかのように揺れ、どこか生きているような気配すら漂わせていた。


 歩みを進めるたび、光は連なる鉱石に反射して先の道を導いてくれる。けれどその光は、つねに淡く、やさしく、ただ静かに「こちらだよ」と囁いてくるだけだった。


 「……すごい……」

 ハルは、無意識に息を飲んでいた。


 歩きながら、ポシェットからノートを取り出し、道の構造を手早く記録していく。

 光の差し方、反射の位置、壁に刻まれた模様——どれも不規則に見えて、きっと何かの意味を持っている。


 「こっちの通路、少し傾斜があるね」

 「うむ。鉱石の配置もやや密になっておる。何か変化があるかもしれんぞ」


 バルドとエドも、それぞれの観点から注意を促しながら進んでいく。

 幻想的な光景の中、静けさは保たれていたが、どこかでまた仕掛けが現れることを、三人とも直感で感じ取っていた。


 そしてその先——道がわずかに開けた空間に、それはあった。


 無機質な石造りの壁に寄りかかるようにして立つ、重厚な扉。

 表面は滑らかな鉱石で覆われ、中心部には、淡く光る古文字が詩のように刻まれていた。



【扉に刻まれた古文字の詩】


 星は天に咲き、地に種を結ぶ。

 三と三、交わりし時、古き光が道を拓かん。

 曲がることなき心で、

 正しき角に、正しき手で、光を注げ。



 「……詩、か」

 エドがつぶやくように呟き、扉を見上げる。

 どこか祈りのようでもあり、呪文のようでもある、そんな言葉だった。


 扉の手前には、光を帯びた鉱石のパネルが整然と並んでいた。

 床に描かれた枠は、きっちりと5×5の格子状になっており、ちょうど25個の鉱石が、正方形の盤面のように配置されている。


 鉱石たちは一見すると同じに見えるが、よく見ると——

 中にはわずかに色の濃淡が違うものや、瞬きのように明滅するものも混じっていた。

 ただの装飾ではない、何かの仕掛け。それは確かだった。


 「この詩と、この並び……きっと関係してる」

 ハルが小さくつぶやきながら、ライトの魔法を静かに手に灯す。

 だが今は、まだどこに光を注げばいいのかはわからない。


 まるで扉自体が、問いかけてきているようだった。


 「とりあえず……どこかに光を当ててみようか」

 ハルがワクワクしながら言うと、バルドも頷いた。


 「うむ。まずは反応を見るんじゃ。罠でないことを祈ってのう」


 三人はそれぞれの位置に立ち、手元に光の魔法ライトを展開する。

 淡い光の玉がぽっと浮かび上がり、周囲の空気にほんのり暖かさを添えた。


 ハルが最初に狙いを定めたのは、中央より少し上寄りに配置された鉱石。

 ライトを当てると、一瞬だけ、きらりと光が屈折して跳ね返った。


 「……反射した?」


 その反射光は近くの別の鉱石に当たり、もう一度、かすかにきらりと光った。

 まるで、次の場所を指し示すかのように。


 「これ、ただの光じゃないね……反射して、何かのルートを示してる?」


 エドもすかさず、別の角度から同じ鉱石に光を当ててみる。

 だが今度は、反射した光が別方向に飛んでしまい、何の変化も起きなかった。


 「反応が違う……やっぱり、角度が関係してる」


 「扉の詩にあった、“正しき角に、正しき手で”……って、まさにこのことかも」

 ハルがそっと呟き、手元のノートに観察結果を書き留めていく。


何度か反射を試すうちに、エドがふと、手元のノートに座標を書きはじめた。


 「縦横で位置を番号つけてみよう。左上を《1.1》とすると、右下は《5.5》だね」


 「なるほど……! たとえば、今光が跳ねたこの3つの石は、《3.2》《1.3》《3.4》。三角形みたいな形に見える!」


 ハルが覗き込みながら、ノートの端に簡単な図を描く。


それを見ていたエドが、すっと手を伸ばし、指先で座標をなぞるように示す。


 「たしかに正三角形っぽい。反射角もたぶん合うはず。試してみようか」


 ハルが頷き、《3.2》の位置に立ち、魔法のライトをそっと投じる。

 淡い光が鉱石に当たり、反射した光が次の石へと導かれていく。


 ——《1.3》、そして《3.4》。


 その瞬間、光がふわりと立ち上がり……次の石、《3.3》へと跳ねた。


 「……あれ?」


 その先で、光はまるで霧に触れたようにふっと揺らぎ、すっと消えた。


 「途中で消えた……?」

 エドが眉をひそめ、ハルの肩越しに軌跡を見つめる。


 「三角の形はできたのに、光が最後まで届かない……」


 「詩にあったじゃろう。“正しき角に、正しき手で、光を注げ”と……」

 バルドが腕を組み、唸るように言った。


 「つまり——ただ三角形を作ればいいんじゃなくて、“光が正しい道を描ける形”じゃないと意味がないということじゃな」


ハルはノートの図を見返しながら、そっと頷く。

 「……形だけじゃなく、ちゃんと光が通る道を作らないと。きっと正解はこの三角じゃないんだ」


 「じゃあ……次、こっちの組み合わせを試してみない?」

 エドが今度は《4.3》《1.3》《5.4》の三点を指差した。


 「見て。正三角形に近い形になると思うんだ」

 「……うん、いってみよう」


 ハルが《4.3》にライトを放つ。

 淡い光が反射し、石を順々に巡っていく。

 ——《1.3》、そして《5.4》。


 光の筋は、今度こそ霧のように消えることなく、すっと空中に三角形の形を描ききった。


 「……つながった!」


 「きれいな三角形……!」

 ハルとエドが顔を見合わせたその瞬間、バルドがふとつぶやいた。


 「……三と三、交わりし時、か」


 「え?」


 「この三角形と、反対向きの三角を重ねてみたらどうじゃ?」


 「重ねる……?」

 ハルがノートに描いた図に視線を落とし、思案する。


 「この三角が上向きなら、下向きの三角をもうひとつ作れば……」


 「ちょうど六芒星の形になるね!」

 エドが嬉しそうに言い、手元のページに候補を描いていく。


 「じゃあ……これ。たとえば《1.2》《5.2》《5.3》の組み合わせなら、きれいな逆三角形になるかも」


 「やってみるかの」

 バルドが静かに促す。


 ハルは深く息を吸って、魔力を込めたライトを《1.2》に放つ。

 光が鉱石を巡り——《5.2》、《5.3》へ。


 すると、すでに浮かび上がっていた上向きの三角と、今の光が交差し、空間に六芒星が描き出された。


 「……これだ!」

 エドが目を見開く。


 その瞬間、扉に刻まれた魔法陣が星のきらめきをまとい、淡く点滅し始めた。


 すべての光がつながり、空間に浮かび上がった六芒星は、しばし静かにきらめいていた。

 だが——次の瞬間、中央にあったひときわ淡く輝く鉱石が、ふわりと浮かび上がる。


 「……動いた?」

 ハルが小さく息を呑む。


 浮かび上がった鉱石は、まるで星の雫のように揺れながら、ゆっくりと回転し始めた。

 そのまま扉の正面へと滑るように移動し——


 扉の中心にある、魔法陣の核へぴたりと重なる。


 その瞬間——


 光が、はじけた。


 淡く、けれど確かな光の波が魔法陣を走り、扉の表面に刻まれていた詩の文字がひとつずつ輝きながら浮かび上がっていく。


 「……開く……!」


 ハルの声と同時に、石の扉が、音もなく左右へと開いていった。


 その向こうにあったのは——

 静寂に包まれた、ほの暗い回廊。

 けれど、その奥には、確かに別の空気の流れと、かすかな甘い香りが漂っていた。

明日も23時時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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