一息の星の下で
また寝落ちしてしまいました。申し訳ないです。
この更新は昨日分です。本日も更新しますのでご安心ください。
星詠の遺跡・第一層、セーフティゾーン。
テレポートの輝きが収まった先には、やわらかな光に包まれた休息所が広がっていた。三人は石造りのベンチに腰を下ろし、ひと息つく。
しばらくして、冒険者ギルドの職員・サイルが木製のカップを手に近づいてきた。中からはほのかに香草の香りが漂っている。
「お疲れ様でした。あたたかいハーブティーです。休憩の間に、よろしければどうぞ」
ハルたちは礼を言い、それぞれカップを受け取った。湯気越しに香るやさしい匂いが、緊張していた心をほぐしていく。
ふと、サイルが目を細めた。
「……あの、もしかして、POTEN創舎の方々では?」
「うむ。よく気づかれたのう」とバルドが答えると、サイルは嬉しそうに頷いた。
「やっぱり! 先日のお祭りで配られていた“守り袋”、うちの子どもがいただいたんです。すごく喜んで、大事に抱えて寝ていましたよ。ありがとうございました」
ハルは目を丸くし、「ほんとですか……? 嬉しいな」と照れたように笑った。
サイルは茶目っ気のある笑みを浮かべ、続ける。
「実は今、ギルドでも新しい取り組みを考えていまして。新人冒険者への支給品や、功労賞の記念アイテム、場合によっては貸出用アイテムなんかの新調を検討してるんです」
バルドの背に半ば隠れるようにして、エドはちらりとサイルのほうを見た。
口を開きかけて、すぐに閉じて、少しだけ頬が赤くなる。
それでも興味はあるらしく、小さな声で、バルドにだけ聞こえるように囁いた。
「……た、楽しそう……かも」
「もしPOTENさんの技術が入ったら、きっと冒険者たちも喜ぶと思います。機能的で、しかもかっこいいって噂なんですよ」
バルドは頷きながら、「ふむ……新人向けとなれば、使いやすさや安全性が第一じゃな。工夫のしがいがありそうじゃ」と目を細めた。
「もし正式なご依頼になれば、全力で取り組ませていただきますね!」とハルも胸を張る。
温かな光とハーブティーの香りのなかで、小さな未来の話が花開いた。
それは次なるものづくりへの、雑談へとうつっていく……
「……そのマント、特殊な素材ですよね?」
ふと、ハルがサイルの肩に掛かった灰青のマントに目を留めた。
「おっ、気づきました?」
サイルは得意げに笑うと、くるりとマントの端をつまんで見せた。
「ギルドの支給品なんですけど、素材にちょっとしたこだわりがありまして……ほら」
そう言って、腰に下げたアイテムBOX袋から、数枚の布や石片のようなものを取り出す。どれも光を淡く吸い込むような不思議な質感だった。
「えっ、それって……」
エドが反射的に前のめりになり、はっとしてから、ばっとバルドの背中に隠れた。けれど、もう遅い。
「おや、興味ありますね? いいんですよ、もっと見てください。これは、ギルド秘蔵の素材ですから!」
「……秘蔵って出しちゃっていいの!?」
ハルが思わず笑ってしまい、バルドも「お主、面白いやつじゃな」と肩を揺らす。
興味に勝てなかったエドも、そろそろとバルドの背後から顔を出し、指先で布の端に触れた。
「この繊維……屈折率が低くて、光を反射しにくい構造ですね。防具にも使えるけど、加工しだいで、かなり軽量な視覚遮断アイテムになるかも」
「ふふ、さすが職人さんだ」
サイルが嬉しそうに頷いた。
そんな素材とアイデアの話はしばらく続き、やがて話題は自然と次の階層へと移っていく。
「ちなみに次の階層ですが、“光と影”がテーマです」
サイルが一息ついて言った。
「光を操るギミックが多いので……ライト魔法、使えますか?」
「はい!使えます」
ハルは即座に答える。
「ちょうど光魔法をもっと鍛えたかったので、ありがたいです!」
「それは頼もしいですね。実は私も、光属性なんですよ」
サイルは指先に小さな光の玉を灯し、ふわりと浮かせる。
「セーフティゾーンには、基本的に回復魔法を使える職員が配置されるんです。怪我をして戻ってくる冒険者が多いですからね」
「うむ、合理的じゃのう。危険な階層を前に、そうした備えがあるのは心強い」
バルドが感心したように頷く。
「ハルくん」
サイルが少し声を低めて話しかける。
「きみ、きっと“悪い部分をじっと観察する”練習をしてきたよね? それって、魔物にも応用できるんです。集中すれば……“弱点”が、感覚として見えてくることがありますよ」
「……魔物の弱点、か」
ハルは小さく呟き、真剣なまなざしで光の玉を見つめた。
その後も、サイルからのアドバイスは続いた。
野営の際の基本的なマナー、たとえば――ほかのパーティーが先にセーフティゾーンにいた場合は、まず距離を取り、声をかけて一緒に野営できるかを確認すること。警戒心を持つのは互いのためでもある。少しでも危ないと感じたら、次の階層に行かず必ず帰還陣で帰還すること。
さらに、階層ボスの部屋についても説明があった。
「あ、そうだ。ボス部屋は順番制ですからね。もし先客がいたら、無理に割り込まず、外で順番を待つようにしてください」
「順番待ちか……」ハルがメモに書き込みながら小さく頷く。
話を聞くうちに、緊張もすっかり解け、エドは自然とサイルのそばに座っていた。最初はバルドの後ろに隠れていたことが嘘のように、興味のある話には夢中になる性格が顔を出す。
四人はしばし語らった。冒険の最中でありながら、不思議と心安らぐひとときだった。
やがて、星のドームがやや色を変え、時計のような魔法の針が進んだことに気づいたハルが、そっと立ち上がる。
「そろそろ、行ったほうがいいかな?」
バルドとエドも立ち上がり、装備を整えながら頷いた。
「サイルさん、いろいろ教えてくださってありがとうございました」
「助かったのう。おかげで心構えができたわい」
ハルも笑顔で頭を下げる。
「ありがとうございました。弱点、見つけられるようにがんばってみます」
「ふふっ、がんばってくださいね」
サイルは穏やかに微笑み、三人の背をそっと押すように転送陣のそばまで見送ってくれた。
薄く光る魔法陣の中に立つと、淡い光が三人の体を包み始める。
「よし……第二階層、頑張りましょう!」
ハルが声を上げると、光が一気に強まり――三人の姿は次の階層へと転移していった。
明日も23時時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜
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