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僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
エドとバルドの参観日

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空に咲く知恵の花

 「回答できる回数があるのか……!」エドが小さく声を漏らすと、

 「入り口スタートは時間的にもキツイよね……」とハルも頭を抱える。


 「ぬぅ……」バルドも腕を組み、眉間にしわを寄せる。「今のはかなり惜しかったと思うんじゃがのう……“針を持たない”という点では、やや苦しいのかもしれん」


 「うぅ……ごめん、僕、ちょっと解釈間違えちゃったかも」


 ハルが頭をかきながらポシェットを探り、革表紙のメモ帳を取り出した。エドもそれに倣って、自作の折りたたみ式メモパネルを開く。


 二人は並んで床にしゃがみ込み、それぞれのメモに言葉を走らせていく。バルドもしゃがみ込み、ハルの肩越しにメモを覗き込んだ。


 「焦る必要はない、ハル。こういうときこそ、情報を整理するんじゃ」


 「はい!焦らず一つ一つですよね!」


 ハルは自分の字で書いた言葉を見返すように目を細める。


 (“針も歯車も持たぬが、空を読み解く鍵をくれる”……)


 「星の問題ばかりだったから、そろそろ違う視点をと思ってたから、空を読むってことを、時間とか、気候とかだと思ってたけど、もしかしてそこが間違ってるのかな?」


 「なるほど!それに、“空に咲く花の名を教えてくれる”って表現が、まだちゃんと拾えてない気がするんだよね」とエドも言いながら、自分のメモに「咲く花=星?」「雲?」「光?」と小さく書き込んでいく。


 「知恵の“円盤”という言葉、わしはどうにもそこが気になるんじゃ。“回せば未来、回せば過去”とあるし、何か回転する円形のもの……」

 バルドも静かに呟き、ハルの書いた「円盤」という文字の上を指で軽くなぞった。


 「円盤で、空の何かの名前を教えてくれて、回すことで今と過去と未来を繋ぐもの……?」


 三人はそれぞれのメモを囲みながら、ふたたび思考の深みに沈みはじめる。

 その背後では、ホシマルがふよふよと宙を舞いながら、のんびりと鼻歌を歌っていた。


沈黙のなか、ハルがふと空を見上げた。


 見上げた天井には、いまも満点の星々が静かに瞬いている。

 それはまるで、問いに応えるように、じっと彼らを見守っているようだった。


 「……空に咲く花、か」


 ぽつりと、ハルが呟く。


 「咲くって……たとえば、夜にひとつずつ花が咲くみたいに、星が現れていく光景。……やっぱり、星座のことじゃないかな?」


 エドがはっと顔を上げる。


 「星座……そうか! “花の名”っていうのは、星座の名前なのかも……!」


 ハルも、ゆっくりとメモに視線を落とした。


 「空を読み解いて、未来と過去の星の配置がわかって……名前まで教えてくれる“円盤”。それって……」


 エドがいい笑顔でで言葉を続けた。


 「星座盤……!」


 バルドが目を細めて、深く頷く。


 「うむ。時と空と星座、その全てを読み解く知恵の盤……まさにそれじゃな。星座盤を回せば過去にも未来にも行けるしのう」


 ハルは立ち上がり、ぐっと拳を握った。


 「……じゃあ、星座盤で、いいですか?」


 少しだけ不安そうに振り返ると、エドが勢いよくうなずく。


 「うん、それでいこう!」


 バルドも目を細めて頷いた。


 「迷いは要らん。いまのお主の答えが、最も道理に適っておる」


 背中を押されたように、ハルはまっすぐホシマルを見つめた。


 「答えは——“星座盤”です!」


 ホシマルは、一瞬だけまばたきをした。

 そして——ぱあっと、まるで夜空そのものが笑ったかのように、顔を輝かせた。


 「だいせいか〜〜いっ!」


 くるくると嬉しそうに空を舞い、光のしっぽをきらきらと振りまきながら、星模様の魔法陣の中心へと舞い戻る。


 「見事だったよ、三人とも! ちゃんとチームで考えて、最後はぴしっと決めてきたね!」


 ふわりと浮かんだまま、ホシマルが両手(のような小さな前肢)をぱちんと叩くと、広間の奥にある大扉が静かに光を帯びはじめた。


 古代の文様がひとつずつ浮かび上がり、やがてそれが星座のような連なりとなって弧を描き——

 ごぉん、と深い音を立てて、扉がゆっくりと開いていく。


 その先に広がっていたのは、ほんのりと淡い光に満たされた静かな空間だった。


 「お待たせ! この先は、次の階層につながる転送陣と、帰還陣のあるセーフティゾーンになってるよ〜!」


 ホシマルが、光のトレイルを描きながら案内するように扉の先へと飛んでいく。


 広間から続く回廊を抜けると、石造りの天井の高いホールに出た。

 中央にはうっすらと宙に浮かぶ光柱が立ち上り、床には帰還陣と同じ円環の紋章が刻まれている。


 辺りはひんやりと静かだったが、角の方には軽装の男性が立っていた。

 冒険者ギルドの腕章を付けた職員だ。


 ふわりと光の柱が消えた先、やわらかな声が三人を迎える。


 「ようこそ、“星詠の遺跡”へ」


 振り返ると、冒険者ギルドの紋章が入った淡いグレーの制服を着た男性職員が、静かに歩み寄ってきていた。整った身なりに柔らかい物腰、落ち着いた声の調子は、どこか安心感を与えるものだった。


 「私はギルドの巡回職員、サイルと申します。ここは今月、“冒険者ギルドおすすめルート”に選ばれているため、現在はセーフティゾーンに職員が常駐しています」


 にこやかにそう言いながら、三人を順に見渡す。


 「お三方。ケガや体調の異常はありませんか?」


 ハルは思わず、左右を振り返る。


 バルドは腰に手を当てて「問題ないぞ」と頷き、エドは軽く肩をまわしながら「元気です」と笑う。


 その様子を見て、ハルも小さく笑って言った。


 「大丈夫です! ……たぶん、三人とも!」


 サイルは目を細め、くすりと笑う。


 「安心しました。それでは、どうぞごゆっくりお過ごしください。こちらには帰還陣と、次の階層への転送陣もございますので、状況に応じてお使いくださいね」


その言葉を受けてホッとした空気が広がったそのとき、ふよふよと浮かんでいたホシマルが、くるりと一回転して声を上げた。


 「ボクはここでお別れなんだ〜!」


 三人がそちらを振り向くと、ホシマルは満面の笑みでくるくると宙を舞っていた。


 「でもね、君たちがすっごく楽しそうに問題を解いてくれて、ボクもほんと〜に嬉しかったんだよ!」


 星のかけらのようなきらきらとした光を振りまきながら、ホシマルは空中で一礼する。


 「またどこかで会えるといいね! そのときはもっと難しい問題を用意しちゃおっかな〜?」


 ぴょこん、と軽く跳ねたかと思うと、ホシマルの体はふわりと淡い光に包まれ、ゆっくりと空中へと上がっていく。そして、先ほどまでホシマルがいた魔法陣の中央にすいと吸い込まれるように姿を消す。


 「ありがとう! バイバ〜イ!」


 最後の声が残響のように広間に響いたあと、魔法陣の淡い輝きが静かに消えた。


 カシャン——


 背後の扉が音を立てて閉じ、ふたたび静けさが広がる。

明日も23時時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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