表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
エドとバルドの参観日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/163

星霊 ホシマル

 広間の中央には、星々を繋ぐような魔法陣が淡く輝いていた。

 漆黒の床に浮かぶその紋は、静かな脈動を繰り返し、まるで空の深奥が、ここに写し取られているかのようだった。


 そして——


 「……よいしょっと!」


 間の抜けた声とともに、魔法陣の中心がふわりと光を放ち、そこから、小さな影が浮かび上がった。


 それは、ふよふよと宙に漂う、丸いなにか。

 星屑を散りばめたような身体に、もふもふの耳と、くるんとしたしっぽ。

 まるでぬいぐるみが命を得たような、不思議な存在だった。


 「……えっ、かわいい……」


 思わず、ハルがぽつりと呟く。


 「いきなり、何が出てくるかと思ったら……」

 エドが吹き出しかけ、慌てて口元を手で覆った。


 だが、ふわふわのそれは、ひときわ大きく体を揺らし——


 「ボクの名はホシマル! 星の門を守護する、超・重要な存在なのだ!」


 妙に張り切った口調とは裏腹に、声は裏返り、しっぽはぴょんと跳ねる。

 気合いは感じるが、威厳は感じられない。


 「……お、おう」

 思わず出たバルドの声は、軽く引き気味だった。


 けれど、その瞳は確かに輝いていた。

 浮かぶ魔法陣の光を反射しながら、ホシマルはぐるりと一回転し、楽しげに続ける。


 「星を継ぐ者たちよ。我が問いに答えよ!

  五つの問いを解けば、光の道は開かれる!」


 声の響きだけは、どこか神聖で、澄んでいた。


 「……なんだか、見た目と中身の落差がすごいね」

 エドがひそひそと笑いながら言うと、ハルもつられて笑った。


 「あの子可愛すぎるよね……でも、試練なんだとしたら ……めちゃくちゃ強いのかな……」


 そう言って、ハルはひとつ息を整えた。


 ホシマルはふわりと浮き上がると、きらきらと輝く星の尾を引きながら宙をくるくると旋回した。


 「それでは、第一の問いいくよ〜〜〜!」


 ぴたっと止まり、くるんと一回転。まるで空に光の印を描くように、広間に星の粒が舞い始めた。


 「——聞け!」


 途端に声色が変わり、空気が引き締まる。


 


 「地にあれば毒を宿し、

  空に昇れば赤く輝く。

  尾に隠すは猛き針。

  神すらも恐れたその姿、

  星となった名を、答えよ。」


 


 広間に響くその詠唱のような問いかけに、星の光がほんのり明滅する。

 先ほどまでのおとぼけた様子が嘘のように、ホシマルの瞳は真っ直ぐに三人を見つめていた。


星霊・ホシマルの問いが静かに広間を包む。


 「……毒、赤く光る、猛き針……?」


 エドが呟きながら、腕を組んで考え込む。


 「地上では毒を持ち、空に昇れば赤……ふむ。星になった、ということは……星座かのう」


 バルドがぼそりと呟き、額に手を当てる。


 「猛き針って、たぶん、武器とかじゃなくて……動物の一部、かな」


 ハルが星天ドームを見上げながらぽつりとこぼした。


 「尾に隠すっていうのがヒントだよね。毒を持ってて、尾の先に針があって……赤い……」


 一度黙ったハルの目が、ふと見開かれる。


 「……あっ!」


 二人が振り返る。


 「……蠍だ。さそり!」


 「蠍……!」


 バルドが目を細める。「なるほど、確かにあれは毒を持ち、尾に針を持つ。神話でも恐れられた存在……」


 エドが頷いた。「空では赤く光るって、アンタレスのことだ……蠍座の心臓にある、赤い星」


 「うん、きっとそれだと思う!」


 ハルはまっすぐホシマルを見上げた。


 「答えは——蠍座!」


ハルの声が響いた瞬間、広間の空気がふわりと揺れた。


 星霊・ホシマルの体がくるんと一回転し、星のきらめきがその身体からぱっと散る。


 「……ピンポーン! せいかいーっ!」


 ぴょんっと空中で跳ねながら、ホシマルが嬉しそうに笑う。


 「蠍の毒と、赤い光。星空の狩人を仕留めたその姿、星となってもなお恐れられる……その名は、蠍座! いや〜〜よく見抜いたね!」


 ホシマルはふわふわと宙を舞いながら、三人を見渡す。


 「では、つぎの問いにいくよー!」


 そう言うと、ホシマルの体が再びきらきらと輝きをまとい、宙に浮かぶ魔法陣の中央に、小さな星のような光が集まりはじめた。


 やがて、星明かりが言葉の形を結び、次の謎が紡がれる——


 「では、つぎの問いにいくよー!」


 ホシマルの体が、再びきらきらとした光をまとい始める。先ほどと同じように、小さな星の粒が集まり、魔法陣の中央にふわりと浮かび上がる。


 途端に、空気が静かに張り詰めた。ホシマルの笑顔はふっと消え、その声はやはりどこか神秘的な響きを帯びていた。


 


 「地上では影、空では女神。

  太陽の道を追い、夜にだけ語られる。

  その名に、時を測る術が込められている。

  これは、何のこと?」


 


 星々が瞬くように、魔法陣の周囲で淡い光がまたたく。


 ホシマルの瞳は、ふたたび真剣な光をたたえ、三人を見つめていた。


 しんと静まりかえった広間に、再び星の問いが落ちた。


 「……また星座かな?」


 エドがぽつりとつぶやくと、ハルも小さく頷いた。


 「“空では女神”って言ってたし……女神の星座……乙女座とか?」


 「ふむ、乙女座なら収穫の女神と結びつけられることもあるが……“太陽の道を追う”というのは少々違和感があるのう」


 バルドが腕を組んで唸る。


 「“夜にだけ語られる”っていうのも気になるよね。昼間は見えないもの……うーん、星座って夜しか見えないけど、星座の名前に“時を測る術”なんてあったっけ……?」


 エドが眉をひそめて、魔法陣の文字を見返した。


 「“時を測る術”って、暦とか、時間とか、そういう意味?」


 ハルがぽつりと口にすると、バルドの表情がわずかに動いた。


 「それだ。星座ではなく、“時を測るもの”としての存在。夜に語られ、空にある……太陽の道を追う……」


 三人の間に、静かな気づきの光が差しはじめていた——

明日も23時時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

https://ncode.syosetu.com/n3980kc/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ