素材を集める理由
申し訳ありません。寝落ちしてしまい更新が遅れました。
エドはそっと息をつきながら、数歩前に出た。
「……ハル、すごかった。あの風、僕らをちゃんと守るように調整してたんだね」
その目は、尊敬と少しの驚きを湛えていた。
「敵がばらけないように光で集めて、範囲魔法で一掃……。僕だったら、きっと思いつかなかったよ」
隣でそれを聞いていたバルドが、ふうと息をついた。
「……ハル、わしはな……ちょっと泣きそうじゃ」
「えっ?」
「いや、お前があんなふうに、一人で状況を見て、判断して、戦って……。」
目元をこすりながら、バルドは照れくさそうに笑った。
「油断は禁物じゃが、もう立派な冒険者じゃ。あんなに冷静に魔法を工夫して使えるとはのう。想像力があるというのは、冒険者として何よりの力じゃ」
そして、少し目を細めて、ぽんとハルの肩を軽く叩く。
「今度は、わしと一緒に色んな魔物と戦うときのアイデアも考えてみるかの? ハルなら、きっと面白い戦いが出来るようになるぞ」
ハルは思わず笑って、こくんと頷いた。
バルドがふう、と肩をすくめて笑う。
「……わしらより、ハルの方がよっぽど強いのう。これじゃあ、足手まといはわしらの方じゃな」
「そ、そんなこと……」
ハルが慌てて手を振ると、今度はエドが少し困ったような笑みを浮かべた。
「でも、正直に思っちゃったよ。……こんなに強くて、冷静で……僕たちを守るために、あんな風に戦ってくれるなんて」
小さな声で続ける。
「……もしかして、いつもこんな風に素材を集めてきてくれてたのかな。僕らのために、無茶してたんじゃないかって、ちょっと心配だった。でも……こんなに強いなんて……」
バルドが目を細め、そっとエドの背を軽く叩いた。
「だからこそ、わしらも頑張らにゃならんのう。ハルが安心して戦えるように、色々なアイテムを作って後ろからしっかり支えてやるんじゃ」
エドも、ゆっくりと頷いた。
「ねえ、ねえハル! ドロップ、見てもいい!?」
魔物が消えたあと、真っ先にそう言って地面に駆け寄ったのは、エドだった。目を輝かせながら、落ちている素材をひとつずつ拾い上げていく。
「これ……毒晶針だ! 見て、この色。魔力を帯びた結晶になってる……すごい、毒属性の素材がこんなに綺麗になるなんて!」
「おお、これが噂の毒晶針か。わしも現物は初めてじゃが……ふむ、加工次第では武器にも魔導具にも応用できそうじゃな。毒の保持率が高い……これは珍しいのう」
バルドも目を細めながら素材を観察し、うなり声を上げる。
「こっちは……微光羽片だね。うわ……ほら、触ると光るよ」
エドが手のひらで羽片を転がすと、淡い光がふわりと漏れ、オーロラのような彩りを映した。
「瓶詰めにして飾りたいなぁ……インテリアに使えそう。光魔法の触媒としても使えるんだっけ?」
「そうじゃな、わずかとはいえ魔力反応がある。穏やかな光を保てるなら、癒しや誘導灯の素材にもなるじゃろう。夜光ランプの芯にも応用できそうじゃ」
バルドとエドは、素材の周囲にしゃがみこんでわいわいと話を弾ませる。
そんな二人を、ハルは少し離れたところで、楽しそうに見つめていた。
(ほんとに楽しそうだな……)
自分が集めた素材が、こんなふうにわくわくされている。その光景が、ハルにとって何より嬉しかった。
「……ねえ。毒晶針って、風魔法と組み合わせたら、飛ばしたり……毒を飛沫にしたり、できるかな?」
ふと呟くように言ったハルの言葉に、バルドとエドがぱっと顔を上げる。
「おお! それは面白い発想じゃ! 風の流れに乗せて毒の飛沫をばら撒く……つまり“毒の霧”を作る道具にできるかもしれん!」
「うわ、それ最高だよ! 魔法で風圧を調節できたら、霧の濃度や範囲も変えられるよね!」
「ほうほう……それなら噴霧機構がいるのう。素材の特性を活かして、持続毒じゃなくて一撃で効くやつ……いや、逆にじわじわ効くのも——」
創舎の職人たちは、すでに試作の構想へと頭をめぐらせはじめていた。
ハルはそんな二人の姿を見ながら、小さく笑った。
(きっと、またすごいのができるんだろうな……)
*****
その後も、遺跡の中をしばらく進むと、また先ほどと同じような羽音が聞こえ始めた。
ふわふわと浮かびながら、毒針を光らせる小さな魔物たち。数もそれほど多くはなく、最初の群れほどの脅威ではなかったが、それでも油断はできない。
ハルは二人を守りながら、風の魔法を巧みに操り、時にライトで敵の動きを誘導しつつ、その度に、確実に仕留めていった。
魔物が現れては、倒す。立ち止まっては、地図に記録をつける。
そうして遺跡を進むうちに、魔物との戦闘は三度、四度と続いたが、バルドとエドのサポートもあり、特に大きな危険はなかった。
そして——
長い回廊を抜けた先、ふいに視界が開ける。
そこには、天井が高く、壁面に星の紋が刻まれた広大な空間が広がっていた。
「……大広間、か」
星の光を思わせる魔力灯が、ほのかに空間を照らしていた。
明日(本日)23時時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜
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