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僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
エドとバルドの参観日

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いざ、星詠の遺跡へ

 魔導列車がゆるやかに減速し、ブレーキの音とともに、目的地の小さな駅に到着した。


 扉が開くと、澄んだ空気がふわりと車内に流れ込んでくる。

 駅の外には、まるで時間がゆっくりと流れているかのような、穏やかな風景が広がっていた。


 三人が降り立ったのは、街から少し離れた丘陵地帯にある小さな集落のような場所だった。

 ホームのすぐそばには木造の案内板が立っており、《星詠の遺跡》と刻まれた看板が風に揺れている。


 遺跡は、そこから少し離れた高台にあるらしかった。


 見上げると、ゆるやかな坂の上に、石造りの構造物がちらりと見えた。

 白く風化した石の輪郭。低く連なる壁。その奥には、天を見上げるようにそびえる円柱の影。


 あたりには、人工物らしさと自然の穏やかさが不思議と共存していた。

 草の間に咲く小さな花々、鳥のさえずり、そして空には昼の月がうっすらと浮かんでいる。


 「……あれが、星詠の遺跡……」


 ハルが思わずつぶやいた。


 足元の道は、古びた石畳がところどころ苔むしていて、歩くたびにカリリと小さな音が鳴る。

 整備はされているものの、どこか“昔のもの”としての重みと静けさが漂っていた。


 バルドが立ち止まり、風の向こうに目を細める。


 「ほう……想像していたより、風情があるのう。あれは……観測台の跡かもしれん」


 エドも小さくうなずきながら、壁面の構造や接合の仕方を興味深そうに眺めている。


 「石の加工……精度が高いですね。魔力で整形された跡もある……これはかなり古い遺跡かも」


 ハルはポシェットを握りしめながら、

 胸の奥で何かが静かに高鳴るのを感じていた。


 風が、遺跡の方から吹いてくる。

 空の下、星を詠む者たちが残したという場所――

 その扉の前に、今、自分たちは立っているのだ。


 遺跡の手前には、控えめな布張りのテントが設営されていた。

 その前に立っていたのは、ギルド所属の案内係らしき人物だった。

 落ち着いた装備に、腕章のついた制服姿。明るい茶髪を後ろで束ねた中年の男性で、三人に気づくと手を上げて声をかけてくる。


 「お、こんにちは。星詠の遺跡への探索ですね?」


 バルドが軽くうなずき、代表して前に出る。


 「うむ、そうじゃ。三人での探索になる。依頼はすでに受けておる」


 「確認してます。どうぞ、気をつけて」


 男性は笑みを浮かべながら、簡単な説明を続けた。


 「今のところ、今日は誰も入っていません。探索状況はクリアです」


 「ふむ、それはありがたい」


 「それと、この遺跡……ご存じかもしれませんが、中は入るたびに構造や謎解きが変化します。

 星の巡りと連動しているらしくて、地形そのものが組み換わるんです」


 「……やっぱり、そんな仕組みなんですね」


 ハルが小さくつぶやくと、案内係は頷いた。


 「はい。ただし、各階層には必ず“帰還ゲート”が設置されます。危なくなったら、無理をせず帰ってきてください。

 新米の方には、第一階層を越えたら一度戻るくらいのつもりでいてもらえると助かります」


 「心得た」


 バルドが短く答え、エドとハルもそれに続いて頭を下げる。


 三人は案内係に見送られながら、遺跡の正面へと進んでいった。


 苔むした石段を数段のぼると、そこには半円状に開けた広場のような入口があった。

 中央には低い石柱がいくつか並び、その奥にぽっかりと空いたアーチ状の門。

 門の向こう側には、微かに光がまたたいている。


 まるで、星の残光がその先に続いているかのように。


 ハルは一歩、足を踏み出した。

 風が背中を押してくる。


 (行こう)


 目の奥で、光が静かに揺れた。


 ——そして三人は、星詠の遺跡の中へと、静かに歩みを進めた。




 遺跡の中に一歩足を踏み入れると、空気が変わった。


 しんと静まり返った空間。

 天井ははるか高く、見上げると、まるで満点の星空が広がっていた。

 しかし、それは本当の空ではない。

 漆黒の天井に、魔力によって投影された星々がまたたき、淡い光が瞬いている。


 壁面には、星座のような紋様が淡く浮かび上がっていた。

 ところどころ、淡い緑や青の光が流れ、オーロラのようにゆっくりと揺れている。


 幻想的で、どこか神殿のような厳かな雰囲気。

 だが、それでもダンジョンであることに変わりはなかった。


 「……すごい……」


 ハルは足を止めて見上げた。

 あまりに綺麗で、思わず息を飲んでしまう。


 けれど、すぐに気を引き締めて、腰につけた小さなノートを取り出した。

 薄暗さに目を慣らしつつ、歩きながら周囲を見回す。

 石畳の幅、分岐の位置、目印になる柱や装飾の形。

 迷わず進むために、ハルは一つ一つを正確に記録していく。


 「お、しっかりしてるじゃないか」


 背後から、エドの声が聞こえた。

 いつもの柔らかな笑い声ではあるが、その中には安心感がにじんでいる。


 「ふむ。地図を残す者がいると、探索というものはずいぶんやりやすくなるもんじゃ」


 バルドも頷きながら、ハルの手元をちらりと見る。


 ハルは頷き返すと、ノートに“北側の壁面に星座模様、分岐左”と書き込みながら先へ進んだ。


 


 足音だけが響く静寂の中。


 その時だった。


 ふわりと、空気が変わった。


 ハルが立ち止まり、眉をひそめる。


 「……何か、いる」


 目を凝らすと、遠くの薄暗がりに、ゆらりと浮かぶ影があった。


 丸くて、羽根のようなものがちらちらと揺れている。

 まるで綿毛のように軽く、空中を漂っている何か——


 その気配が、じわりとこちらに近づいてきていた。

明日も23時時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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