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僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
閑話 琥珀色の晶樹液

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久しぶりの帰省

 カムニア町の空は、森よりも少し開けていて、夕暮れの色が屋根の上に滲みはじめていた。


 木漏れ日の森から抜けたハルは、道の分かれ角でふと足を止める。

 肩にかけたポシェットの中には、しっかりと栓をした晶樹液の小瓶がいくつも収まっている。


 (……今日は、寄っていこう)


 決めたように道を曲がり、見慣れた屋根へと向かった。

 玄関の前に立つと、木の扉の向こうからは、スープの香りがほのかに漂っていた。


 「ただいまー」


 軽くノックをすると、すぐに扉が開いた。


 「まぁ、ハル!」


 エプロン姿のままの母――ミナが顔を出し、目を細めるように笑った。


 「今日はPOTENハウスに泊まるって言ってなかった?? どうしたの、何かあったの?」


 「森に行ってたんだ。晶樹液を取りに。ツムギお姉ちゃんたち、また透輝液を使うから」


 「そうだったのね。ちょうどいいところに帰ってきてくれたわ。おかず、多めに作ってあるの」


 玄関に招かれて家に上がると、そこには懐かしい木の匂いと、温かい空気があった。

 どこか張りつめていた心が、ふっと緩んでいく。


 「お茶、淹れるね。ちょっと待ってて」


 ミナが台所へ向かおうとしたとき、ハルは声をかけた。


 「……ねえ、母さん。ヒール、ちょっとだけかけてみてもいい?」


 ミナが振り返り、やわらかく微笑む。


 「まぁ!ヒールなんて使えるようになったの? お母さんびっくりだわ」


 そう言いながら、椅子に腰かけたミナの前に立ち、ハルはそっと手をかざした。


 「……ヒール」


 手のひらに光が灯り、やさしくミナを包む。

 けれど……

 ハルの目には、ミナの瞳の奥に、うっすらとした黒いモヤが残っているのが見えていた。

 それは前と同じ。

 どれだけ魔力を込めても、祈るように唱えても――


 「……変わらない、か」


 小さく呟いた声に、ミナは首を傾げる。


 「ん? でも、すごくあたたかかったわよ。ありがとう。少し良くなった気がするわ」


 ハルを気遣い言ったその言葉に、少しだけ苦笑した。


 (お母さんの目は、多分普通のヒールじゃ治らない……。これは“病気”じゃないんだ。たぶん、もっと別の理由がある)


 もう一度、ミナの目をじっと見つめる。

 見えない何かを探すように。

 黒いモヤの中に、何かがちらりと揺れたような気がした。——でも、それが何かは、まだわからない。


 (もっと僕が“見る力”を鍛えたら、何か他のものも見えてくるかも……POTENのみんなみたいに、失敗を恐れずに、色々と試してみるのもいいのかもしれないな……)


 「母さん。僕……ちゃんと調べてみるよ。もっと光属性の魔法を鍛えて、母さんの目の原因を突き止める方法、探してみる」


 ミナは一瞬驚いたように目を見開いたあと、

 すぐにふわっと笑って、ハルの髪にそっと手を伸ばした。


 「そう。じゃあ、お母さんも楽しみにしてるわ。ハルが見つけてくれる未来を」


 その言葉に、ハルの胸の奥がじんわりと温かくなる。


 「……うん!」


 そのあとは、温かいお茶を飲みながら、夕食の支度の手伝いをしつつ、

 森で見た不思議な木のこと、ダンジョンのがらくたの話、ツムギたちのものづくりのこと……

 ハルは、手伝いながらぽつりぽつりと話を続けた。気づけばミナは、笑いながら何度も頷いていた。


 *****


 ハルの帰った後、台所で湯気の立つポットを持ちながら、ミナは静かに息をついた。


 ハルが、笑っていた。


 あの子が、こんなに楽しそうに話すようになったのは、いつからだろう。

 ダンジョンの話。創舎のみんなのこと。

 話すたびに、言葉の端々がきらきらと光っていた。


 “見る力を鍛える”なんて、ちょっと格好つけすぎなくらいで。

 でも、あの子が自分でそう言ったことが、何よりうれしかった。


 ほんの少し前までは、いつもどこか自分を責めているような顔をしていた。 私の目が見えなくなっていくのも、ごめんねと言いながら、いつも悲しそうな顔をして見ていた……


 (……よかった)


 そっと、そっと手を胸に当てた。少しずつ子供らしく、けれど大人になっていくハルの成長を見て、心に灯がともるような一日になった。


 だからこそ、ふと思ってしまう。


 (……あなたも、そばにいてくれたらよかったのに)


 窓の外に目をやると、夕暮れの光が町を淡く染めていた。


 (ハルはこんなにカッコよく成長したのよ。 きっと、あなたが見たら……笑って、頭をわしゃわしゃに撫でてるわ)


 くすっと笑ってから、目を細める。


 (まったく……何年も、どこで道草食ってるのかしら。もう、すっかり私も年をとってしまったわ)


 でも、責めるような気持ちはなかった。

 胸にあるのは、ただ、再会への願いだった。


 (いつか、あなたが帰ってきたら、きっと驚くわ。

  あの子、ちゃんと前を向いて、歩きはじめてるのよ)


 ポットの湯気が、カップの上でゆらゆらと揺れた。

 そのあたたかさに、ミナはそっと目を伏せる。


 (……いつか、みんなで笑って話せたらいいわね)

明日も23時時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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