お守り袋の作成
次の日、ハルは久しぶりに学院へ向かった。
中庭にいるリュカを見つけると、迷わず駆け寄る。
「リュカ!」
ハルの声に気づき、リュカが顔を上げた。
「おお、ハル! どうだった? ツムギさんたち、喜んでくれたか?」
駆け寄るなり、リュカはハルの肩をがしっと掴み、ぐいぐいと揺さぶった。
「あれだけ魔石あれば足りるだろうとは思うけど、足りてなかったら、すぐにでもまた採取しに行こうぜ!」
ハルは少し照れながらも、ポシェットをぎゅっと抱きしめた。
「うん。みんな、すごく喜んでくれたよ。いまの所、魔石は余りそうなくらいだから十分だよ! 本当にありがとう、リュカ!」
リュカは「へへっ」と嬉しそうに笑い、胸を張った。
「まあな! けど、ハルが頑張ったからだぜ!」
ハルも笑い返し、そして一呼吸置いてから続けた。
「それで……」
ハルは一呼吸置いてから、続けた。
「今、POTENハウスの納品がちょっと立て込んでるんだ。だから、落ち着いたら——第二層、また挑戦しよう」
リュカはぱっと顔を輝かせ、拳をぎゅっと握りしめた。
「よっしゃ! そんじゃ、それまでに俺も依頼いっぱい受けて、レベルアップしてやるからなー!」
そう言って、リュカはいつもの屈託のない笑顔で、がっつりと親指を立ててみせた。
ハルも笑って、リュカと固く握手を交わした。
(次は、もっとしっかりやれるように。俺も、がんばらないと)
そして、ふと思い出したように口を開いた。
「そうだ、リュカ。魔石のこと……ちゃんとエリアスさんに相談してきたよ」
リュカがきょとんと首をかしげる。
「エリアスさんがね、今度ちゃんと正式に契約書を結ぼうって。だから、また手続きするときはよろしく!」
「おう、任せとけ!」
リュカはニカッと笑い、力強く親指を立てた。
「なんか、正式な取引先って感じで、かっこいいじゃん!」
ハルも、つられて笑う。
それからしばらく、ハルは学院とPOTENハウスを行き来する日々を送ることになった。
職人ギルドへの「お守り袋」の納品作業が本格的に始まったのだ。
魔石の整形、魔法陣透輝液パーツの作成、袋の縫製——それぞれの作業に、POTENの仲間たちが忙しく立ち回っていた。
ハルは、できることを精一杯手伝った。
透輝液を流し込んだ型から、風魔法で気泡を抜く技を覚えたり、
スライス魔石に細かくヤスリをかけて、透輝液の魔法陣パーツがしっかりと接着するようにしたり……
ぽてと一緒に、小さな作業台に並んで、集中して手を動かす日々だった。
もちろん、難しい作業や魔法陣の刻印までは手伝うことはできないけれど、
「自分にできること」を、きちんと積み重ねる。
それが、誰かの力になると、ハルは信じていた。
POTENハウスに流れる、ものづくりの静かな熱気の中で、
ハルもまた、少しずつ、自分の歩幅で前に進んでいた。
そして……職人ギルドへの納品を目前に控えたこの夜、POTENハウスの灯りは、夜になっても消えなかった。
ハルたちは最後の作業——“袋詰め”に取りかかっている。
作業台には、完成した小さな守り石たちがずらりと並び、
ナギが仕立てたお守り袋がその横に、丁寧に重ねられている。
「じゃあ、順番に入れていこうか」
ツムギが静かに声をかけると、
ハルもぽても、こくんと頷き、そっと手を伸ばした。
守り石をひとつ手に取り、袋の中にそっと収める。
袋越しに透ける魔法陣が、ふわりと淡い光を放った。
ひとつ、またひとつ。
目の前の作業に、みんなが静かに集中していた。
(あったかいな……)
ハルはふと思った。
部屋の中を満たしているのは、魔法の光だけじゃない。
ひとつひとつの手仕事が、誰かを想って紡がれている。
そんな温かさが、POTENハウスを静かに包み込んでいた。
ジンは袋の口を留める細工を担当していて、
エドは最終チェックのために、魔法陣透輝液パーツの仕上がりをひとつひとつ確認している。
バルドも、エリアスやリナと一緒に納品書を書き込みながら、出来上がっていく袋たちを見守り、たまにぽつりとアドバイスを落とした。
ぽては、ハルの隣で小さな袋を抱えて、「ぽへぽへ」と鼻歌のようにご機嫌な声を漏らしていた。
気泡抜きやヤスリがけ——
小さな作業しかできないけれど、
それでもハルは、ここにいて、自分の手で完成を支えていることが、何より嬉しかった。
そして、ふと隣を見ると、ツムギとナギがお守り袋を眺めながら微笑んでいた。
——きっと、誰かの“守り”になる。
ハルもそっと袋に手を添えた。
(うん、大丈夫。きっと、ちゃんと届く)
夜は更けていたけれど、誰も文句を言う者はいなかった。
POTENハウスの小さな工房には、
眠気よりも、ものづくりの静かな熱と、優しい未来への期待が、ゆっくりと広がっていた。
明日も23時時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜
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