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ハルを支える職人達

 そっと顔を上げると、テーブルの上には、ハルが持ち帰った色とりどりの魔石たちが並んでいた。

 淡い青、深い緑、きらめく金……さまざまな色のかけらが、まるで小さな星座のように光を反射している。


 驚きと感嘆の入り混じった空気が、POTENハウスに満ちていた。


 ジンは腕を組み、目を細めて魔石たちを見下ろす。

 その表情には、静かな驚きと、ほんの少しの誇らしさがにじんでいた。


 「想像以上だな……こんなにたくさん、よく集めたもんだ」


 ぽつりとこぼれたその声に、エドもうなずく。


 「さすがハルだな。これなら、しばらく魔石には困らなそうだ」


 ツムギはそっと手を胸に当てながら、目を輝かせていた。

 ふだんは穏やかな彼女が、子どものように目を輝かせるのは珍しい。


 「わぁ……こんなに綺麗な魔石、初めて見たかも……!」


 ぽても釣られるようにぴょんっと跳ね、小さな声で歓声を上げる。

 バルドはじいっと魔石たちを見渡し、低く喉を鳴らした。


 「見事だな。……立派な素材係になったわい」


 そして、壁際で様子を見ていたエリアスも、感心したように肩をすくめた。


 「まさかここまでとはな。素直にすごいよ、ハル」


 けれどその声色には、どこか心配そうな響きも混じっていた。

 エリアスはすっと真面目な顔に戻り、手帳を取り出しながら続ける。


 「それで……次の探索に向けて、必要な装備や道具、ざっと教えてくれないか?」


 ハルがきょとんとするのを見て、エリアスは笑いながら片目をつむった。


 「ほら、ハルがいなくなったら、うちは素材が手に入らなくなってしまうからな。

  しっかりできる準備はして、安全に冒険に行ってもらわないと!」


 冗談めかしたその言葉に、みんながふっと笑った。

 けれどその根底には、確かにハルを大切に思う気持ちがにじんでいる。


 ハルの胸には、あたたかな光のようなものが灯っていた。

 その思いに応えるように、POTENの仲間たちが、それぞれのやり方で動き出していく。


 とりあえずの装備は、バルドが自ら付き添って選ぶことになった。

 「今あるものの中で、できるだけ良いやつを選ぶぞ」と、頼もしく言ってくれる。


 費用面はエリアスがすでに帳簿を開き、「特別会計として計上しておくから、遠慮なく必要なものを揃えてくれ」と落ち着いた声で請け負った。


 エドとジンは道具類の準備を担当することになり、

 「野営用のギミックも、あると役立つかもしれません」とエドが考え込み、

 ジンは腕を組みながら「使いやすくて軽いやつをな」とうなずいた。


 ツムギは、ハルを守るための魔法陣について、再びバルドと真剣に意見を交わし始めている。


 それぞれが、ハルのために、自然に動き出していた。

 それは「心配」ではなく、「信頼」から始まる準備だった。


 照れくさそうに頬をかきながら、ハルがみんなの様子を眺めていたそのとき、

 バルドがふいに思いついたように口を開いた。


 「そうじゃな……それなら、まずはいっそ一度、みんなで簡単なダンジョンに行ってみるのはどうじゃ?

  実際に潜ってみた方が、必要なものも確かめやすかろう」


 思いもよらない提案に、ハルは目を丸くした。


 「え、えっと……でも、ダンジョンって、冒険者登録をしてないと入れないから……」


 申し訳なさそうにそう言うと、バルドはどこか得意げに鼻を鳴らした。


 「ふふん、甘く見るでない。わしはのう、若い頃、冒険者として素材を集めにダンジョンに潜ったりしておったんじゃ」


 「えっ!?」


 ハルも、ツムギたちも思わず声を上げた。


 バルドは懐かしそうに目を細め、ゆったりと話し始めた。


 「あの頃は、今みたいに材料も潤沢じゃなかったからの。欲しいものは自分で取りに行くしかなかった。

  命がけでな……まあ、そのおかげで今があるんじゃが」


 誇らしげでもなく、どこか淡々と語るその口調に、積み重ねた年月の重みが滲んでいた。


 「だから、登録証くらいはまだ持っとるわい。……多分、期限は更新してあるはずじゃ」


 と、バルドが顎をさすりながら呟いたとき、

 エドがぱっと顔を上げた。


 「それなら、僕もついていきますよ!」


 元気な声に、みんながふっと笑う。


 「僕も一応、登録は済ませてますから。

  それに、こういうの、すごく勉強になりそうですし!」


 その言葉に、バルドもにやりと笑みを浮かべた。


 「よし、なら決まりじゃな。

  簡単なダンジョンで、みっちり体験してくるとしようか」


 ふわりと広がる期待と、少しの緊張。

 ハルは胸の奥にわきあがるわくわくを感じながら、

 力いっぱい、うなずいた。


 その後、バルド、エド、ハルの三人は、どんなダンジョンを選ぶかを相談し始めた。

 探索しやすくて、危険が少なく、それでいて素材の種類が多い場所……

 地図や記録を見ながら頭を突き合わせるその様子は、すでに小さな遠足の準備のようだった。


 そんな中、ふと思い出したように、ハルがぽんとポシェットを叩いた。


 「そうだ……! これ、今回のダンジョンで拾ったんです!」


 そう言って取り出したのは、謎解きの部屋で見つけた機械仕掛けのドロップだった。

 錆びた歯車、魔力を通す金属片、歪んだ魔導回路のかけら。


 ただのガラクタに見えるそのかけらを、テーブルに並べた瞬間だった。

 エドの目が、ぱっと見開かれた。


 「……これ、すごい仕組みかも。回路の流れが普通と違う……!」


 バルドも眼鏡を持ち上げ、覗き込む。


 「ふむ……おお、こりゃ面白いぞ。中の構造が……ほう、そうなっとるのか……!」


 ふたりはまるで少年のような目をして、夢中になってかけらを調べ始めた。

 そこにツムギとジンも加わり、次々と意見を交わし始める。


 「もしかして、きちんと繋げば……」

 「何か、動く仕掛けが作れるんじゃ……?」

 「いや、むしろこれは、魔力伝導の応用になるかも……!」


 いつのまにかテーブルは小さな研究会になり、道具やスケッチ、古い設計図まで持ち出されて、まるで大騒ぎだ。


 「とりあえず、職人ギルドの納品は先に片づけてしまおう!

  それが終わったら、みんなで研究に集中できる!」


 誰かがそう言うと、全員が勢いよくうなずき、目を輝かせた。


 ——その様子を、ハルは少し離れたところから、静かに見つめていた。


 彼が忘れ谷で集めてきた“がらくた”を、こんなにも真剣に見てくれる仲間たち。

 目を輝かせ、知恵を絞り、何かを生み出そうとするその背中に、ハルは胸がじんと熱くなるのを感じた。


 (僕の拾ってきた素材が……みんなの手で、こんなふうに輝くなんて)


 それは、ただの“素材集め”ではない。

 誰かの夢の“はじまり”を、そっと運んでくる仕事。


 ——なんて、楽しい役目なんだろう。


 ハルはそっとポシェットを抱え直し、静かに微笑んだ。

明日も23時時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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