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ギルドへの報告

 ロザは並べられた魔石と金属片を一通り見渡すと、ふと口元に小さな笑みを浮かべた。


 「……なるほどね。そのポシェット……そうね、きっとその特別なポシェットが心配だったのね。その事については、誰にも言わないわ。安心してね。

 それにしても、なかなか面白いものが出たわね。もしかしたら、鉱山そのものがダンジョン化したのかもしれないわ。あの辺り、昔は機械を使って採掘していた記録もあるし……」


 そう言いながら、彼女は金属片のひとつをそっと持ち上げ、光にかざして眺める。


 「ねえ、よかったら……これらのサンプルを少しずつ預からせてもらってもいいかしら? もしかしたら、珍しい金属が混ざってるかもしれないし……もちろん、結論が出たらちゃんと報告するわ」


 ハルとリュカは顔を見合わせると、同時に頷いた。


 「はい、もちろんです!」


 ロザはにっこりと頷き、次の話題へと移る。


 「それじゃ、報酬の分配についてだけど……金属のほうはまだ価値が分からないけれど、魔石の方は——数も種類も揃ってるし、かなりの金額になると思うわ。どうする? 二人で折半する?」


 ハルは少し考えてから、口を開いた。


 「謎解きに使った魔石の残りは、また別の階層で使う可能性があるので……僕達の方で取っておきたいです。魔石だまりで採れたものは、公平に半分ずつでお願いしたいです。金属の方は……調べてからで、構いません」


 そう言ってリュカの方を見ると、リュカはむしろ待ってましたとばかりに手を振った。


 「ハル!今回はお前が全部もらってくれよ!俺はいいって!ツムギさんに“すっごいの採ってきたね!”って言わせるチャンスだぞ!ちゃんと喜ばせてこいよ!」


 「えっ……そ、それはだめだよ!リュカも一緒に戦って、採ったんだし!」


 「いやいや、俺はツムギさんのために頑張るハルを応援する為に行ったし、ダンジョンだって楽しかったしさ!」


 「それとこれとは別だよ……!」


 お互いに譲らない様子で軽く言い合いになるふたりを、ロザはふっと目を細めて見つめた。ふたりの距離感があまりに自然で、思わず口元が緩む。


 そして、タイミングを見計らって、微笑みながら言葉を挟んだ。


 「こういうことって、私が口を挟むものじゃないって分かってるんだけど——」


 少し肩をすくめてから、穏やかな口調で続ける。


 「一応、ギルドの受付として“一般的な分配”についてだけ、話しておくわね」


 リュカとハルがぴたりとやり取りを止め、真剣な表情でロザに目を向ける。


 「通常、パーティーを組んでダンジョンに潜った場合、基本のルールは“等分”が原則。ただし、事前に話し合って役割分担や装備の負担が大きい人がいれば、調整することもあるわ」


 「ここからは……私の経験からのアドバイスになるんだけどね」


 ロザは書類の手をそっと止めて、二人に向き直った。声の調子は変わらず穏やかで、けれど言葉の奥にはしっかりとした重みがある。


 「分配に関しては、どんなやり方を選ぶにしても——“フェアであること”が一番大事なの」


 ふたりは自然と背筋を伸ばし、静かに耳を傾ける。


 「少なく分けられた側が不満を抱くのは、まあ当然よね。でもね、多く受け取った側だって……案外、重たくなってしまうことがあるのよ」


 ロザは優しく目を細めて続けた。


 「恩を受け取るって、嬉しいことでもあるけれど、それが積み重なっていくと、“対等な関係”でいることが難しくなることもあるの。何も悪くないのに、引け目を感じたり、気を遣いすぎてしまったり……それで、かえって距離ができてしまうケースも、たくさん見てきたわ」


 リュカは、はっとしたように目を見開く。


 「……そっか。親切なつもりが、裏目に出ることもあるんだな」


 「そう。だから、仲良くいたいなら、ちゃんと話し合って、お互いが納得できる分け方をしておくこと。気持ちの面でも、実際の分配でもね」


 ロザはにこりと微笑んで、再び書類に目を戻した。


 「ふたりなら、きっと大丈夫だと思うけど——私のお節介、聞いてくれてありがとう」


ロザが微笑むと、ハルとリュカは同時に小さく頷いた。ふたりの間に、一瞬だけ静かな空気が流れる。


 その沈黙を破ったのは、リュカの弾けるような声だった。


 「決めた!」


 ぱっと顔を上げたリュカは、真剣な表情でハルを見つめる。


 「だったら、半分こしよう。ちゃんと平等にな!」


 ハルが少し嬉しそうに顔を上げると、リュカはニッと笑って続けた。


 「で、俺の分の半分は——POTEN創舎に売るってことでどうだ? 支払いは、その魔石を使って作ったアイテムが売れてからでもいいし、身内価格でいいからさ!」


 「……えっ、ほんとに? いいの?」


 「もちろんだって!ツムギさんのためだろ? 俺も一緒に作った気分になりたいしな!」


 その言葉に、ハルの胸がじんわりとあたたかくなる。


 「……ありがとう、リュカ。でも、ちゃんとエリアスさんに頼んで、契約書は作るね」


リュカは一瞬きょとんとした後、ぽりぽりと頬をかいて苦笑した。


 「そっか、そう来るか〜。……いや、まあ、そういうとこ、ハルらしいよな」


 それから少しだけ真剣な顔になって、うなずいた。


 「……わかった。ちゃんと“POTENの取引先”として扱ってくれよ? 俺も胸張って納品するからさ」


 ふたりがそんなやり取りで盛り上がっていると、ロザはにこにこと紅茶を飲みながら、「うんうん、それでこそ健全な分配ね」と小さく頷いていた。


 「分配の件は、うまくいきそうでよかったわ」


 ロザはそう言いながら、手元の書類をめくり、目を細める。


 「さて、次に決めていただきたいのは……そうね、これね」


 ぱらりと書類の端を整えながら、彼女はハルとリュカを見た。


 「今回みたいに、既存のダンジョン内で“新しいルート”を発見した場合は、冒険者ギルドの規定に基づいて、ふたつの選択肢が与えられるの。ひとつは“すぐに公開して、そのルートに関するすべてのドロップから10%の利益分配を受ける権利”。もうひとつは、“半年間、そのルートを独占して利用できる権利”」


 「ふたりが選ぶのは、どちら?」


 リュカとハルは、ほとんど同時に目を合わせ、にこっと笑った。


 「半年間の独占でお願いします!」

 「独占でお願いします!」


 息ぴったりの返答に、ロザは思わず笑みを漏らす。


 「ふふっ、即答だったわね。了解よ。じゃあそのように登録しておくわ」


 そう言って書類にさらさらとペンを走らせていると、ハルが少し身を乗り出して言った。


 「あの……それで、ちょっとご相談があるのですが……」


 ロザが手を止め、顔を上げる。ハルは、慎重に言葉を選びながら続けた。


 「第1層を探索したとき、2人でも行けましたが、正直けっこうギリギリでした。もし、次の探索で一緒に行ってくれる方がいたら……その……どこかに、そういう人を募集したいのですが……」


 するとロザは少しだけ考えるように視線を落とし、指先で机をとんとん、と軽く叩いた。


 「そうね……本来、新しいルートが発見された場合は、その危険度を確かめるために、ギルドから“調査員”が入るのが通例なの。それに、今回のようにルート自体が独立した構造を持つなら、もはや“新しいダンジョン”として扱う可能性もある……」


 そこでロザはふっと顔を上げると、ふたりに向かって穏やかに微笑んだ。


 「よかったら、その調査員たちと一緒に行くのはどうかしら? 人柄は保証するわ。腕も確かだし、きっとふたりの助けになってくれると思う」


 リュカは「おっ、それ助かる!」と目を輝かせ、ハルもほっとしたように頷いた。

明日も23時時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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