冒険者ギルド
通されたのは、ギルドの奥にある静かな応接室だった。大きなテーブルと椅子が並び、壁には地図や魔物の資料が整然と並んでいる。窓からは午後の光が差し込み、部屋全体に柔らかな影を落としていた。
「どうぞ、座って」
受付の女性に促され、ハルとリュカは並んで椅子に腰掛けた。緊張で肩がこわばるハルに気づいたのか、女性はふっと微笑む。
「そんなに緊張しなくていいのよ。報告は、ちゃんと聞かせてもらうけれど……あなたたちは、よく無事に帰ってきた。それが一番大事なことだから」
そう言って、手元の書類を広げながら、ふわりとした口調で続けた。
「改めまして、今回調査と対応を担当させてもらうわ。ロザです。よろしくね」
「……はい!よろしくお願いします」
ハルが少しだけ姿勢を正して頭を下げると、ロザは穏やかに頷いた。
「じゃあ、教えてもらえるかしら? 忘れ谷で、あなたたちが見つけた“新しいルート”について、順を追って聞かせてほしいの」
ハルは深く息を吸い、小さく頷いた。
忘れ谷の奥で見つけた、朽ちた門柱とそこに浮かんだ魔法陣。
その先に広がっていた、古びた遺構のような空間。
機械仕掛けの魔物、仕掛け扉と謎解き、そして——
最奥部に眠っていた、色とりどりの魔石が埋まる「魔石だまり」。
ハルは、丁寧に、順序立てて、ひとつひとつの出来事を語っていった。
言葉を選びながらも、目はどこか嬉しそうに輝いていて。
隣でそれを聞いていたリュカも、ときどき相槌を打ち、思い出したようにに笑っていた。
すべての話を聞き終えたロザは、書類に軽くメモを取りながら、ひと息ついて微笑んだ。
「……ふふ、まるで一冊の冒険記みたいね。大冒険だったわね、本当に」
ハルとリュカは、ちょっと照れくさそうに顔を見合わせた。
「さて、それじゃあ……」
ロザは優しく視線を向けながら言った。
「ダンジョンの傾向や性質がわかるかもしれないから、可能なら“ドロップ品”を見せてもらえるかしら?」
ハルとリュカは、ふたり同時にぴたりと動きを止めた。
「……どうする?」
「うーん、見せるしかないとは思うけど……ポシェットが……」
(……これを、見せていいんだろうか)
見た目はただの肩掛け袋。でも中身は——どう考えても“普通じゃない”。
もはやアイテムボックスといってもおかしくない、創術の力で進化した、特別な道具。
ハルが言葉を選びあぐねていると、それを察したように、ロザがふわりと微笑んだ。
「もし、事情があるなら言ってくれて構わないわ。私はギルドの職員として、報告内容と、個人情報の守秘義務をきちんと守る立場にあるの。だから安心して、見せられる範囲で大丈夫」
その言葉に、ハルとリュカはふたたび顔を見合わせ、小さく頷き合った。
「……ありがとうございます。じゃあ、少しだけ」
ハルはそっとポシェットを肩から外し、膝の上に置いた。そして、片手を差し入れると、机の上にゆっくりと魔石を並べ始めた。
最初に出したのは、ダンジョンの謎解きで使わなかった魔石たち。
青、緑、橙、紫、銀、茶——全部で六つ。形も大きさも揃っていて、色ごとに異なる魔力の波動をほんのりと感じる。どれもあの時、扉の横に並んだ穴に収めようとして、結局使わなかった“残り”の魔石たちだ。
そしてその隣に、さらに別の魔石をいくつも並べていく。
それは、最奥の“魔石だまり”から慎重に掘り出してきたものだった。
色とりどりの魔石が、拳の半分ほどのサイズで、青白い光をふわりと反射しながら机の上に静かに並ぶ。金、紫、碧緑、深紅、琥珀……どれも自然のままの形で、美しく結晶化している。
「……こっちが、“謎解きの部屋”で使わなかった方……で、こっちが“魔石だまり”で見つけたものです」
ハルがそう言って手を止めると、机の上には大小あわせて十数個の魔石が並んでいた。
続いて、ハルは戦闘で手に入れた金属のガラクタ——錆びかけた歯車や、曲がったパイプ、小さな機械部品のようなものも、ひとつずつ丁寧にテーブルへ置いていった。
隣で見ていたリュカが、ちょっと得意げに言う。
「ハルのポシェットだから、大きめの金属も持って帰ってこられたんです!」
「え、いや、そんな大したことじゃ……」
ハルは少し照れくさそうに笑いながら、すべてを並べ終えてから、そっとロザのほうへ目を向けた。
「……バラバラですが、扉の奥の部屋で、こういう“機械仕掛けの魔物”が出ました」
ロザはその言葉を受けて、机の上にずらりと並んだ部品たちを興味深そうに見つめ、静かに頷いた。
明日も23時時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜
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