魔石に願いを込めて
その後、ハルは再び床に並べた魔石へと視線を戻し、再度ノートを取り出して広げた。
「プレートの真ん中に、太陽の紋章が刻まれてたよね……ってことは、やっぱり“太陽”がヒントなのかも……」
ハルは小さく呟きながら、視線を上げてリュカを見た。
「ねえ、リュカ。太陽の色って言ったら、何色が思い浮かぶ?」
「太陽? んー……赤とか、橙とか……あとは金とか黄色か?」
「……なるほど。じゃあ、試しにその4つを入れてみる?」
「よし、やってみようぜ!」
ふたりは慎重に魔石を選び、順番に——黄色、金、赤、橙の順でスロットへと差し込んでいく。
カチリと収まりきった瞬間——
「……きた!」
再び、壁の奥から重たい駆動音。ガガガッと響く音と共に、小型の機械モンスターが二体、床の奥から這い出してくる。
「よっしゃ、今度は二体だけか。慣れたもんだな!」
リュカがにっと笑い、剣を構えて飛び出す。
ハルもすぐに風を巻き上げ、魔法で援護。すでに関節が弱点だとわかっているため、動きに迷いはない。
数分と経たず、モンスターは火花を散らして沈黙した。
「ふぅ……でも、こういうの、なんかちょっと楽しくなってきたかも」
ハルのそんな言葉に、リュカは爽やかに笑って拳を軽く突き出す。
「だろ? ダンジョンってやっぱワクワクするよな!……なあ、ハル……なんでさっきは四体出たのに、今度は二体だけなんだ? どっちも間違いだったら、同じ数出てきてもおかしくないだろ?」
リュカが剣を肩に乗せながら、首を傾げた。
「……あ」
ハルは小さく目を見開き、床に散らばる魔石に再び視線を落とした。
「もしかして、今の……正解が混じってたのかも……! 2つだけ合ってて、2つが間違ってたから、2体出てきた……?」
そう呟きながら、ハルはポシェットから再びノートを取り出し、さっきの組み合わせと今のを並べてメモしていく。
「えっと、最初が橙・緑・紫・白……で、今回は黄色・金・赤・橙……
あれ……プレートにあった言葉……!」
ハルはページの端に書き写していた刻文を指でなぞる。
《白き始まり、金の頂き、茜に染まりし刻、漆黒に沈みて、光は巡る》
「……もしかして……この言葉そのままが、正しい順番になってるんじゃ……?」
顔を上げたハルの目が、ぴたりとリュカをとらえた。
「白、金、赤、黒……この順番で入れるんだよ!」
「それだ!!」
リュカは勢いよく叫び、魔石の中から白・金・赤・黒の四つを素早く選び取ると、テンポよくスロットへ差し込んでいった。
カチリ、カチリ……と、金属がはまり込む音が連続して響いたその直後——
すべての魔石が、淡く輝き始めた。
「……っ、光った……!」
ハルは目を見開いて、その光をじっと見つめた。
淡く輝く四つの魔石。
白、金、赤、黒——それぞれがスロットにはまり、確かな反応を示した。
ハルとリュカは並んで、それをじっと見つめる。
……が。
「……え、動かない?」
光はたしかに灯っているのに、扉はぴくりとも反応を見せない。
「なぁ……なんか足りないんじゃねぇか?」
ぽつりと呟いたリュカの言葉に、ハルも思わず肩を落とした。
「……だよね。これだけじゃ、まだダメみたい……」
ハルは再びノートを取り出し、プレートに刻まれていた言葉と太陽の紋章を見直す。
——《汝、四つの光より正しきひとつを選べ。天の頂に願いを込めたその時、影は消え、真なる道は開かれん。
白き始まり、金の頂き、茜に染まりし刻、漆黒に沈みて、光は巡る》
「……このプレートの太陽、きっと“光の巡り”を表してるんだと思う。夜が明けて、白く澄んだ空——朝のはじまり。やがて陽は昇り、頭上に差しかかる真昼の輝き。そして夕暮れには、空が茜色に染まり、最後は闇に沈む……
“天の頂”ってきっと、太陽が空のいちばん高みにある——“昼”のことだよね」
金色の魔石を見つめながら、ハルは呟いた。
「“願いを込めたその時”って……つまり、ただ入れるだけじゃなくて、何か……魔力とか?」
「ハル、試してみるか? 一緒に」
リュカが横に並び、金色の魔石の上に手をかざす。
「うん……!」
ハルも手を重ねるように金色の魔石に触れ、そっと目を閉じた。
(——子供達が喜んでくれるようなお守り袋を作れますように)
魔力を込めるというよりも、気持ちを乗せるように。そっと、ゆっくりと。
すると。
カチリ、と音が鳴った。
金色の魔石がわずかに沈み込み、それと同時に——
ごぉぉん……!
重たく低い音が、部屋に響き渡った。目の前の扉がゆっくりと、まるで深呼吸するかのように開きはじめる。
「開いた……!」
「やったな!」
二人は目を見合わせ、思わず笑みを浮かべた。
明日も23時時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜
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