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負傷と古びたプレート

 「……終わった、よね?」


 「終わった。動く気配もねぇ。けど、ちょっとしくじったな」


 リュカは剣を下ろしながら、ちらりと自分の腕を見る。服が裂け、うっすらと赤い痕が滲んでいた。


 「リュカ!やっぱり傷、できてる……!ポーション飲もう?」


 ハルが駆け寄ると、リュカは苦笑しながら首を横に振った。


 「やめとけ、ハル。この奥で何が起きるか分かんないだろ?今は温存しとこうぜ。だいたい……」


 彼はじっとハルを見つめて、少し眉をひそめた。


 「お前こそ、ポーション飲めよ。腕、切れてるぞ。血も出てんじゃん」


 「僕のは……大したことないよっ!」


 「はぁ?俺のも大したことねぇよ!」


 二人して譲らず、しばし真剣な(でもどこか子どもっぽい)言い合いが続いた。


 「……じゃあ、ちょっと試してみてもいい?」


 ハルがふっと息をついて言った。

 「この間、講習で教わった回復魔法、まだ一度も成功してないんだけど、もしかしたら、回復もできるかもしれないから」


 リュカは驚いたように目を見開いたが、すぐにいつもの調子に戻って「いいぜ。お前がやってみたいなら、任せる」と腕を差し出した。


 ハルは自分の魔力を意識しながら目を細め、リュカの傷を見つめる。

 指先に、魔力の流れを集中させて——静かに、傷に手をかざした。


 「……ヒール」


 淡い光が滲むようにハルの指先から溢れ、リュカの腕に触れた瞬間、傷の縁が少しずつ塞がっていく。出血が止まった。


 「うわ……すげぇ。止まった……少し痛みも消えたような気がする」


 リュカが思わず声を漏らし、ハルも目を丸くする。


 「本当に……できた……!?いや、ちょっとだけだけしか治らなかったけど!」


 「ちょっとどころか、十分ありがたいって!なんだよ、ハル……お前、いつの間にそんなことまでできるようになったんだ?」


「この間の講習受けてから、毎日ちょっとずつ練習してて……でも、実際に使えたのは初めてだよ。それに、まだ一度しか使えないみたい」


 ハルが照れくさそうに笑うと、リュカも「そっか」と優しく頷いた。


 二人は顔を見合わせ、どちらからともなく小さく笑いあった。


 傷を治せたことにホッとしたのも束の間、ふわりと軽い眩暈が押し寄せた。

 MPがごそっと減ったような感覚に、ハルはポシェットをごそごそと漁り、この間採取してケースに入れておいた魔力果を取り出し、口に運んだ。


 甘くて、すこしすっぱい味が、疲れた体に優しく染み込んでいく。


 「……よし、ひとまず回復完了!」


 小さく気合いを入れたハルが立ち上がると、目の前にはバトル後に散らばったロボットたちの残骸がいくつも転がっていた。焦げた金属、外れたボルト、歪んだアームパーツ……いかにも「ガラクタ」だ。


 その中に、ひときわ目を引く光がある。


 「……あれ? これ……魔石?」


 足元に転がっていたのは、手のひらにすっぽり収まるほどの小さな魔石のかけら。よく見ると、それぞれ色が違うものが十個——赤、青、緑、金、紫、白……どれも淡い光を放ち、形も驚くほど均一だ。おそらく、機体の“コア”として組み込まれていたのだろう。


 「わっ、魔石……! しかも、いろんな色!」


 「やったな、ハル! これなら成果としては申し分ねえ!」


 リュカは自分のことのように嬉しそうに笑っている。そんな姿に、ハルも自然と頬をゆるめた。

 ひとつひとつ、色とりどりの魔石を拾い上げながら、ハルは丁寧にポシェットへと収めていく。


 その手がふと止まり、近くに転がっていた金属片へと視線が移った。


 「……こっちはガラクタっぽいけど、一応……持ってく?」


 「ツムギさんなら、こういうの見たら目の色変えそうだよな」


 「いや、それよりギミックマニアのエドさんって人がいてさ……ツムギお姉ちゃんもすごいけど、その人は“仕組み”に目がないんだ」


 冗談を交わしながら、ハルが金属片を拾い上げ、いつものようにポシェットの口を開けて、すぽんと入れる。


 「って、おい。絶対おかしいだろそれ!ポーチの口、拳くらいしかないのに、なんでその鉄板入るんだよ!」


 「えへへ……たぶん、なんか、伸びるんだと思う。うん。たぶん……ね?」


 「たぶんて!」


 リュカが呆れ半分に突っ込みながらも、ふたりは自然と部屋の奥を見回し始める。そして、ふと——


 「……あれ、扉?」


 壁の一角に、先ほどとはまた違う材質の古びた扉があった。重そうな金属製で、中央に魔法陣のような模様がかすかに浮かび上がっている。


 「……今度こそ、ボス部屋とかじゃないよね?」


 緊張を含んだ声で呟くハルに、リュカも黙って頷いた。


  扉のすぐ横には、手のひらほどの大きさのプレートが埋め込まれていた。表面は時を経て古びているが、そこにはうっすらと文字が刻まれており、中央には太陽をかたどったような紋章が浮かんでいた。


 その下には、丸い穴が四つ、横一列に並んでいる。


 ハルは一歩近づいて、プレートに刻まれた文字をそっと読み上げる。


 ——《汝、四つの光より正しきひとつを選べ。天の頂に願いを込めたその時、影は消え、真なる道は開かれん。》

《白き始まり、金の頂き、茜に染まりし刻、漆黒に沈みて、光は巡る》


明日も23時時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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