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僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
父との日々

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忘れ谷ダンジョンの終焉

 しばらくして、健太は思いついたように、残っていたポイントをすべて交換し始めた。

 次々とポーション、魔石、さまざまな素材が姿を現し、それらを丁寧に集めてロザたちへ差し出す。


 「こんなに……いいの?」

 ロザは驚いたように目を瞬き、それから静かに微笑んだ。

 「本当にありがとう、健太さん」


 健太は首を横に振り、照れたように笑う。

 「いえ……僕が持っていても仕方がありませんから。

 誰かの役に立つなら、それが一番嬉しいんです」


 手のひらにのる宝物たちを眺めながら、アオミネがぼそっと呟く。

 「……おぉ、この辺の素材で、ガウスに剣でも作ってもらうか」


 「そうでござるな。ハル殿のあの小刀、なかなか格好良かったでござる」

 クロが思い出したように言うと、ハルは照れたように笑い、アオミネは「だろ?」と鼻を鳴らす。


 そんな穏やかなやり取りを、健太はどこか懐かしむような眼差しで見つめていた。

 その表情は、暗い檻の中には決してなかった柔らかさを宿していた。


 そこへ、カイルとハルが歩み寄る。


 ハルは両手で小さく握りしめていた石をそっと差し出した。

 「健太さん、これ……守り石です。

 キーワードは“元の世界へ”に変えておきました。

 帰りたい場所や人、匂い……できるだけ細かく思い出すと、成功しやすいかもしれません」


 言葉を選びながら、それでも真っ直ぐに。

 その姿に、健太の目がわずかに揺れた。


 続いてカイルが、懐から一枚の紙を取り出して握らせる。

 「万が一だ……もし戻れなかったら、どうにかして俺たちに連絡してこい。

 絶対に迎えに行ってやるからな」


 その声には、まだ若い健太を思いやるような力強い約束が宿っていた。


 健太は震えそうになる掌をぎゅっと握り、笑う。

 「……ありがとうございます。

 知り合って間もない僕なんかのために、ここまでしてくれるなんて……」


 ぽつりと冗談めかして続けた。

 「なんだか……ここに残るのも悪くない気がしてきちゃいましたよ」


 その言葉に、場の空気がふわりと和らぐ。

 仲間たちが同時に、くすっと笑みをこぼした。


 健太はそんな皆を見渡し、そっと息を整えると——静かに告げた。


 「……私は、最後のダンジョンマスターです。

 恐らく、僕がこの世界から出た瞬間に、このダンジョンの崩壊が始まるでしょう。

 どうか……先に、帰還ポータルから脱出してください」


 その声音は、覚悟に満ちていたが、不思議と柔らかかった。

 長い孤独の中で錆びついていた言葉が、ようやく自由を得て響いているようだった。


 サイルが頷き、冷静に言う。

 「そうですね。崩壊が始まれば制御不能でしょう。早い方が安全です」


 仲間たちはそれぞれ表情を引き締めて立ち上がる。

 ひとり、またひとりと健太の前に歩み寄り、短く感謝を告げていく。

 別れの言葉は簡潔なのに、どれも温かくて、健太の胸にそっと灯をともしていった。


 そして最後に——


 「ハル、リュカ。あなたたちは先に行きなさい」

 ロザとカイルが優しく背を押す。


 ハルは少し迷ったように目を伏せ、そして上を向いた。

 「健太さん……またスマホで会いましょう!」


 「おう。絶対な」

 リュカも笑い、その肩を軽く小突く。


 二人は帰還ポータルに足を踏み入れる。

 光がふわりと揺れ、空気が反転したような感覚とともに——景色が変わった。



 次の瞬間、二人は忘れ谷のダンジョン手前へと戻っていた。

 乾いた風が頬をなで、遠くで鳥の声が聞こえる。

 すぐ後からロザとカイルも光とともに現れ、全員が無事にそろった。


 ハルは胸に手を当てて、小さく呟く。

 「……無事、帰れるといいな」


 リュカが隣で、肩越しに空を見上げた。

 「ほんとにな。あいつ、いいやつだったし……」


 ハルは深く息を吸い、スマホを開いた。

 指先で文字を打つ。


 《全員脱出しました》


 「ぴろん」と控えめな音が響く。


 届いた返事の文字は震えるほど真っ直ぐだった。


 《了解しました。今から帰還します。

 本当にありがとうございました。

 ……また会えますように》


 画面の光が、夕暮れの影にふわりと溶けていく。


 その瞬間だった。


 大地が、微かに震えた。

 ダンジョンの奥から、石がきしむ音が響き、崩れ落ちるような低い轟きがゆっくりと広がり始める。


 ——忘れ谷ダンジョンの崩壊が、静かにはじまった。


 地面の奥で石が砕けるような低い響きが続き、谷全体がわずかに震えた。

 誰も言葉を発さず、その音をただ胸の奥で受け止める。


 しばらくして揺れが収まり、風がふっと流れ込む。

 土煙が薄れ、谷の景色がゆっくりと姿を戻していく。


 ハルたちがダンジョンの入り口があった場所へ目を向けると——

 そこには、何もなかった。

 崩れた跡すら残らず、ただ静かな忘れ谷の景色だけが広がっていた。


 「……結局、健太さんのダンジョンは忘れ谷の内部にできたダンジョンだったのね」

 ロザが風に髪を揺らしながら呟く。


 隣でサイルが眼鏡を押し上げる。

 「はい。自然発生ではなく、外来の管理者が構築したダンジョン……非常に珍しい例でしょう」


 どこか感慨深い声だった。


 一方その少し後ろで——

 リュカとハルは、肩を寄せ合うようにしてスマホを見つめていた。

 画面の向こうから届くはずのメッセージを、今かいまかと待ち続けていた。その時——


 ぴろん。


 スマホが軽い音を奏でた。

 ハルとリュカが同時に画面をのぞき込み、その表情が一瞬で明るく染まる。


 《無事日本に着きました。

 ありがとう!

 充電が切れそうなので、また後で連絡します 健太》


 リュカは思わず声を上げる。

 「健太さん……! 本当に、自分の国に帰れたみたいだ!」


 その声は嬉しさで震えていた。

 仲間たちも顔を見合わせ、同時に安堵の息をこぼす。


 「良かった……」

 ロザが胸に手を当てる。

 クロはぴょんと跳ね、

 アオミネは「……やれやれ」と肩を下ろした。


 「……にしても、“じゅうでん”ってなんだろうな?」

 カイルが首をかしげる。


 リュカが腕を組んで唸る。

 「たぶん、あれ動かす魔力のことじゃないですか? 当たってるかわかんねぇけど」


 ハルはくすっと笑った。


 ロザはふわりとスカートを揺らし、仲間たちをゆっくり見渡す。

 「さて……私たちも、そろそろ町へ帰りましょう。

 みんな、長い冒険だったわ」


 その声に、全員がうなずく。

 緊張がふっと解け、足取りは軽くなる。

 それぞれの背中にはこれまでの疲労と、確かな達成感があった。


 こうして彼らは、静かに城下町へ歩き出した。その背中を追いかけるように、ぽよんと跳ねる音がひとつ。


 「いやぁ……アザルの奴隷、ギリギリ回避でござったな」


 クロのぼそりとした一言に、

 アオミネは吹き出しそうになりながら肩をすくめ、ハルとリュカは思わず顔を見合わせて笑った。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日と金曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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