世界を繋げる通信機
ハルは少しだけ息を吸って、胸の内のわくわくを隠しきれない声で言った。
「ひとつは、ぼくらの世界。
もうひとつは……健太さんに持っていってもらうのはどうかな、って」
その提案に、最初に反応したのはリュカだった。
「お!? なにそれ、めちゃくちゃ面白ぇじゃんか!」
瞳が一気にきらめき、まるで宝物を見つけた子どものように身を乗り出す。
クロも負けじと身を震わせ、丸い体をぽよんと揺らした。
「それは……男のロマンが詰まっているでござる……!
世界を越える通信……聞いただけで胸が踊るでござる!」
そんなふたりの反応に押されつつ、健太はそろりと手を挙げた。
「あ、あの……でも、それだと……
もし私が無事に元の世界に帰れたら……こちらとの通信は
機能しなくなる可能性が高いと思うんですが……それでもいいんですか?」
どこか申し訳なさそうな声音。
それでも、どこか希望も混じっていた。
ハルはにこっと笑った。
その笑顔は、まるで曇った空に光を刺すような明るさだった。
「もし、みんながいいなら……試してみたいんだ。
世界を越えてやり取りできたら……すっごく楽しいと思うし」
言いながら、ひとりひとりの顔を見る。
その目には、不安よりも期待の色が濃い。
仲間たちは——うん、うん、と
まるで呼吸を合わせるように頷いていった。
ロザがそっと目を細め、あたたかい声を落とす。
「私は大賛成よ。
健太さんが本当に元の世界に帰れたか……ちゃんと確かめたいもの。
もし……帰れなかったとしても、連絡が取れれば——」
ちらりと仲間たちを見回し、微笑んだ。
「迎えに行けるかもしれないし、ね?」
その言葉は、静かに胸の奥へ染みていくようなやさしさを帯びていて。
健太の目がわずかに潤む。
「——じゃあ! そういうことでいいな?」
カイルがぱん、と手を鳴らして皆を見回す。
その声には、仲間を包むような朗らかさがあった。
「うん」「うむ」「異議なしでござる」「私も賛成です」
それぞれの返事が重なり、場の空気が一気に明るくなる。
「では……早速、交換しますね」
健太がそっと手をかざすと、光の粒子が集まり、ぽんと音を立てて小さなノートのようなものが出現した。
「……あれ? スマホのはずなんですが……」
戸惑いを顔いっぱいに浮かべながら、健太はそれを持ち上げた。
「ぼくの世界のスマホはですね……もっと、こう、板みたいな……機械なんですけど……これは……本?」
差し出されたノートをハルが受け取る。
ぱらりと開いた瞬間、仲間たちが思わず息をのむ。
左側には、整然と並ぶ小さなボタンと文字盤。
ペンのような器具が挟み込まれており、右側には真っ白な光の画面が広がっている。
「……これは何でしょう」
サイルが興味深げに、後ろから覗き込む。
「なるほど……この世界に“ある素材”で作られたのかもしれませんね」
健太がぽつりと呟き、ハルに手を伸ばす。
「あの、一冊……貸してもらっていいですか?」
ハルが素直に差し出すと、途端に、文字盤が「見たこともない記号」に変化し、全員が目を見張る。
「うおっ……なんだこれ!」
リュカが素で声をあげる。
健太は苦笑しながら説明した。
「これは……僕の世界の文字です。
どうやら、このスマホ……
手にした人が一番慣れている文字に変わる仕組みみたいですね」
健太は文字盤に指を置き、器用に打ち始めた。
パチン、と最後のキーを押すと——
ぴろん。
小さな電子音が、静かな空間にひときわ鮮やかに響いた。
「ハルさんの方に……届きましたか?」
ハルが手の中のスマホを慌てて開く。
すると白い画面に、淡い光とともに文字が現れた。
テスト送信
「おおおおーー!!」
驚きが爆発し、皆が一斉に声をあげる。
「じゃあ、この画面に直接書くと……」
健太がペンを取り、白い画面にすらすらと線を走らせる。
“ぐるぐる渦巻き”のような図形が描かれる。
送信。
次の瞬間、ハルのノートにも同じ図がふわりと描き出された。
「こりゃ……便利だな……」
カイルが感心したように呟く。
ロザは微笑みながら、そっと画面に目をやった。
「本を複製する魔法に、少し似ているわね。
でもこれは……もっと自由で、もっと速いわ」
その後しばらく、場の空気は一変した。
全員が子どものように目を輝かせながら、スマホの機能を次々と試し始めた。
まず最初に分かったのは、文字と絵がそのまま送れることだった。
ペンで書いた図が送信されるたび、クロは「おおっ」と全身で跳ねて歓声をあげる。
さらに、文字盤が手に持つ者の言語に変化することも判明した。
しかも届いたメッセージは——
すべて相手の読める言語に自動翻訳されて表示される。
また、しばらくいじっているうちに、ロック機能も見つかった。
ロック中はただのメモ帳にしか見えず、
解除には事前登録した魔力を流す必要があるらしい。
「私は魔力がないので……パターン認証……みたいです……」
と、健太は自分の画面を見ながら、苦笑いしていた。
そこからはもう、誰も止まらなかった。
「よーし、俺も登録してみる!」
リュカが勢いよく魔力を流すと、画面にふわりと炎の紋が浮かび上がる。
続いてクロ。
ぴょん、と跳ねながら魔力を送り込むと、画面に可愛らしい丸模様。
「うむ! 良い感じでござる!」
後ろでアオミネが肩を震わせて笑っている。
ロザの魔力は繊細で、雪の結晶のような模様を刻み、
サイルは波形をきっちりと揃え、満足げに「……完璧です」と頷いた。
カイルはというと——
「ほう、これは便利そうだな……」
と感心しながら、健太へ次々と質問を送りつけ、
そのたびに健太の方で「ぴろん」と可愛らしい音が響く。
ハルは受信画面を後ろから眺めながら、何度も笑った。
「わぁ……全部ちゃんと届いてる……!」
その明るい声に釣られるように、
ダンジョンの空気はどんどん柔らかく、温かく満ちていった。
ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日と金曜日の23時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
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