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僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
父との日々

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戦いの終わり

 光の中で、ハルはふらつく身体を支えながら、ポシェットに手を伸ばした。

 中から取り出したのは、ツムギに貰ったコウテイくんのポーチ。

 中には、砕け散った守り石の欠片が入っていて、そのせいか、布地の奥から淡い光がこぼれていた。


 「……無理しないで…」


 ハルは震える両手で、そのポーチをアザルの腕に押し当てる。

 砕けた石の光と、ポーチの内に残る魔力が共鳴し、まるで心臓の鼓動のように脈打ちはじめた。


 カイルもまた、最後の力を振り絞って隣で魔力を放つ。

 ふたりの魔力が重なり、空気がうねる。

 光が奔流となって、アザルの身体を包み込んだ。


 「う……あ、ああ……!」

 アザルが苦悶の声を上げる。

 その身体は再び薄れ、光と共に崩れ落ちていく。

 やがて、細い手足が形を失い——残ったのは、頭ほどの大きさの、透明な流動体だった。


 水滴のように、ゆらゆらと揺れる。

 それはまるで、命の名残のようでもあった。


 そのとき、ハルとカイルの脳裏に、やわらかな映像が流れ込んでくる。


 ——山の奥の、小さな家。

 そこには、ひとりの老女と、透明なスライムのような存在がいた。

 老女はその小さな体を撫で、笑いながら、炊事の手を止めてご飯を分け与える。

 スライムは嬉しそうに揺れ、老女の足元を転がりながら、小さく音を立てて笑った。

 畑に咲く花、揺れる陽の光、湯気の立つスープの匂い——

 どの記憶も、穏やかで、優しかった。


 「……ばあちゃん……」


 溶けかけた流動体が、小さく呟いた。

 その声は震えていて、泣いているようでもあった。


 そして、ぽたり。


 一滴の雫が、コウテイくんのポーチに落ちる。

 それは淡い光を帯びながら、布の中へと静かに染み込んでいった。


 次の瞬間、アザルの姿は完全に霧散した。

 光の粒がふわりと浮かび、風に乗って消えていく。


 戦場に残ったのは、ハルとカイル、そして——

 ほんのりと温もりを宿した、コウテイくんのポーチだけだった。



 空間を満たしていた瘴気はもうなく、光は静かに溶けていく。


 「……終わったね」

 ハルが息を整えながら呟くと、隣のカイルが微笑んだ。


 「よくやったな、ハル」


 その声に、ハルは小さく笑みを返す。

 その瞬間——


 「——ハルッ!!!」


 耳をつんざくような声が、響いた。

 次の瞬間、轟音とともに五つの影が一斉に降り立った。


 「リュカ!?」


 驚くハルの目の前に、リュカが転がるように着地した。

 勢いそのままに駆け寄り、ハルの両肩をがしっと掴む。


 「おいおいおいっ! なんでお前、戻ってきてんだよ!」

 息を荒げながら、リュカは顔を覗き込むようにして怒鳴った。

 「帰還石で逃げたはずだろ!? っていうか、アザルは!? 体は……っ、怪我してねぇか!?」


 質問が一度に畳みかけられ、ハルは思わずたじろぐ。

 その目は怒っているというより、心配で今にも泣き出しそうだった。


 「だ、大丈夫。無事だよ」


 そう答えると、リュカはようやく肩の力を抜いた。

 「マジかよ……どんだけ心配させるんだよ、まったく……」


 安堵の息を吐きながら、リュカはハルの全身をくまなく見回す。

 何度も確認してから、もう一度大きく息を吐いた。


 「……無事、なんだな」

 その声には、怒りよりも温かさが滲んでいた。


 ハルは少し照れたように笑う。

 「うん。もう全部終わったんだ。アザルも……倒したよ」


 「やっぱりか……」


 リュカが瞬きをした。

 その視線がふと、ゆっくりとハルの隣に立つ男へと向かう。


 ロザが息を呑み、サイルが静かに一歩前へ出る。

 クロはぽよんと跳ね、アオミネは剣を構えたまま、ただその姿を見つめた。


 「……カイル……なのか……?」


 アオミネの声が、静かな余韻に溶けた。

 信じられないというように、声が震える。

 ロザが息を呑み、サイルが眼鏡を押し上げながら前へ出た。


 「……三年ぶり、ね」

 ロザの声はかすかに掠れ、微笑みと涙が混じっていた。

 「貴方……いったい今までどこにいたのよ」


 カイルはぽりぽりと頬をかき、少し困ったように笑った。

 「そうなるよな。俺の方じゃ、数日くらいしか過ぎてないんだがな」


 その飄々とした答えに、一瞬誰も言葉を返せなかった。


 アオミネは額を押さえ、苦笑を漏らす。

 「おいおい……カイルが目の前にいるのも信じられねぇのに、

  よく分からねぇぞ。ハルは帰還したはずなのに、

  カイルを連れて戻ってきて……そのうえ、二人でアザルを倒したってのか?」


 ハルはこくりと頷いた。

 「うん。僕が帰還石で戻ったと思いましたよね。 ……あの時、いろいろな要素が加わって過去に行くことができたんです」


 「はあ!? 過去!?」

 リュカが素っ頓狂な声を上げる。


 ハルは少しだけ照れたように笑った。

 「そこで三年前の父さんに会って、一緒に準備して……それで、ここに戻ってきたんです」


 静まり返った空間に、仲間たちの息づかいだけが響く。

 ロザがゆっくりと息を吐き、微笑んだ。

 「まさか……そんな奇跡みたいなことが」


 「けど、現にアザルが消えてる。……本当のことなんだろうな」

 アオミネが呟き、剣を鞘に戻す。


 クロがぽよんと跳ね、ふわりとハルの肩に乗った。

 「父と子、時を越えて悪魔を討つ……いやぁ、見事でござる!」


 サイルは腕を組み、静かに微笑む。

 「時間的な整合性は……まぁ、あとで考えましょう。今は、ただ喜ぶべきです」


 リュカはしばらく黙ったあと、ゆっくりと息を吐いた。

 そして、嬉しそうに笑う。

 「……ハル! カイルさんに、会えたんだな」


 ハルはその言葉に、ぱっと顔を明るくした。

 「うん! ちゃんと会えたよ」


 その笑顔は、戦いの緊張を溶かすように、やわらかく広がった。


 焦げた床を吹き抜ける風が、どこか優しい。

 アザルの気配はもうない。

 長い戦いのあとに訪れた静けさが、まるで夢のように感じられた。


 ロザが小さく息を吐き、柔らかく笑う。

 「……いい風ね」


 ハルはその言葉に、ふっと微笑んだ。

 空間を満たす光はもう穏やかで、

 戦いの跡を包みこむように——ただ静かに、広間を照らしていた。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日と金曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

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