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僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
父との日々

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閑話 ぽての瞳の秘密

 「その子、可愛いでしょ」


 不意に背後から声がして、ハルの体がびくりと震えた。

 慌ててマフラーを口元まで引き上げ、ゆっくりと振り向く。


 そこには、穏やかな笑みを浮かべたツムギが立っていた。

 袖を少しまくり、手には修繕用の針と糸。仕事の合間に軽く話しかけただけのような、ごく自然な調子だった。


 「……はい。とっても可愛いなって思ってました。

 でも……片目が取れていたので、ちょっと気になって」


 ツムギは小さく頷き、視線をぽてへ向けた。

 「そうなの、この間うっかり落としちゃってね。ガラス球だったから、片方にヒビが入っちゃったの」

 指先でそっと片目をつまみ上げながら、どこか名残惜しそうに微笑む。


 「だから、もう両方とも変えなきゃいけなくて……。

 でもこのガラスボタン、気に入ってたんだ。最後の一組だったのに」


 ツムギの声は、少しだけ寂しげだった。


  ハルは「なるほど」と小さく頷いたあと、手の中の小さな琥珀色の塊を見つめた。

 それを軽く握りしめると、迷うことなくツムギのほうへ差し出す。


 「僕、素材を集めるのが好きで……いろんなものを集めてるんです。

 この素材、ガラス球みたいに透き通ってて綺麗なんですけど、落としても割れないんですよ。

 もしよかったら、この子に使ってください。目の色はちょっと変わっちゃうけど」


 差し出された掌の上で、ふたつの琥珀の光が柔らかく揺れる。


 「わぁ……」

 ツムギは思わず声を漏らした。

 「とっても綺麗ね。

 でも……本当にいいの? これ、大切なものなんじゃない?」


 ハルは首を横に振り、照れくさそうに笑った。

 「いえ、森に行ったときに拾ったもので。

 また探せばいくらでも見つかりますから」


 その言葉に、ツムギの表情がふわりと和らぐ。

 ハルはぽてを見つめながら、優しく続けた。


 「それにしても、この子……本当に可愛いですね」


 ツムギは笑いながら、両手でぽてを抱き上げる。

 「でしょ? この子、私の相棒なんだ」


 彼女の指先の動きに合わせて、琥珀色の透輝液が淡く光を返した。


 ツムギはその光を見つめながら、ハルの手から透輝液パーツを受け取る。

 「……ありがとう。大切に使うね」

 そう言って微笑んだあと、ふいに「あっ」と小さく声を上げた。


 「ちょっと待ってて!」


 何かを思い出したようにくるりと背を向け、軽い足取りで工房の奥へと駆けていく。

 道具や素材の並ぶ棚の向こうで、何かを探すような音がかすかに聞こえた。


 「……あった、あった!」


ツムギが戻ってきたとき、その手には小さな布のポーチが握られていた。

 黒と灰色、そして白の布で丁寧に縫い合わされたそれは、丸みを帯びた柔らかな形をしている。

 短い翼のような飾りが左右にちょこんと伸び、丸い顔にはつぶらな瞳が二つ。

 ふわふわとした雰囲気をまとい、まるで雪の上をよちよち歩く小さな雛鳥のようだった。


 ハルは首をかしげた。

 (……なんだろう、この生き物。鳥……なのかな?)


 けれど、その愛らしさに思わず頬がゆるむ。


 ツムギはその様子を見て、ふっと笑った。

 「よかったら、お礼にこの子、もらってくれる? ポーチになってるから、飴玉くらいは入ると思うの。

 名前は“コウテイくん”っていうんだけど……好きに変えてくれてもいいから」


 「……コウテイくん?」

 聞き慣れない響きを繰り返しながら、ハルは不思議そうにポーチを見つめた。

 でもすぐに顔をほころばせ、両手で大事そうに受け取る。


 「すごく可愛いです。ありがとうございます」


 その言葉に、ツムギの瞳がやわらかく光った。

 「喜んでもらえてよかった」


 ふたりの間に、ほんのり甘い空気が流れる。

 琥珀の光がきらめくカウンターの上で、ぽてが静かに見守っているようだった。


 やがてハルは、ポーチを抱え直して微笑んだ。

 「じゃあ、僕はこれで。……今度、何か壊れたときは、よろしくお願いします」


 「うん、いつでもおいで」

 ツムギは頷きながら、にこりと笑って手を振る。


 ハルも軽く手を上げて応え、扉へと向かった。

 カラン、と小さな鈴の音が鳴る。

 その音を背に受けながら、ハルは静かに継ぎ屋を後にした。


 外に出ると、風がやわらかく頬を撫でた。

 ハルは立ち止まり、手の中にある小さな布のポーチを見つめる。

 黒と灰と白――どこかツムギらしい、可愛らしい色合いだ。


 「ツムギお姉ちゃんらしいな……」

 思わず口元がほころぶ。


 指先でコウテイ君の丸い体を撫でながら、ハルはふっと考えた。

 (帰ったら……守り石をこれに入れ替えよう。

 ツムギお姉ちゃんのポーチなら、きっと少しくらいは――守り石も元気を取り戻してくれるかもしれない)


 そんな思いを胸に、ポシェットを軽く撫でる。

 「……無理しないで。いつか、きっと治すから」


 その声に応えるように、ポシェットがかすかに震えた。

 弱々しくも確かに伝わる、そのぬくもりにハルは目を細めた。


 夕陽が町を包み、影が長く伸びていく。

 小さな約束が、胸の奥にそっと灯った。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日と金曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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