表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜  作者: 花村しずく
父との日々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

150/164

閑話 ハルの休日2

申し訳ありません。1時間ほど投稿が遅れました

 やがてハルは、ツムギの父――ジンが営む継ぎ屋の前にたどり着いた。

 看板の木文字が夕陽を受けて、柔らかく金に染まっている。


 外から中を覗くと、店内は思った以上に賑わっていた。

 客たちは並べられた商品を手に取り、ジンは笑顔で応対している。

 その奥ではツムギが、壊れた箒を手に受付台の裏で修繕の段取りをしていた。

 彼女の横顔は真剣で、髪の先がかすかに光を帯びて揺れている。


 視線を少し動かすと、カウンターの上――そこに、小さな影。

 まるまるとした毛玉のような存在が、丸くなって座っていた。


 「……いた。ぽて」

 ハルの口元がゆるむ。


 (今なら……ぽてに会うくらいなら、大丈夫かな)

 そんな思いが胸に浮かび、マフラーを深く巻き直す。


 お客の一人に紛れ、ハルはそっと店の中へ足を踏み入れた。

 金具の鳴る音、布が擦れる音、客たちの笑い声――騒がしい店内に紛れるように、彼は軽やかに歩を進める。


 変装用のマフラーに顔を半分隠したハルに、誰も気づく者はいない。

 そのことをいいことに、彼はカウンターへとまっすぐ向かい、そっと身を寄せた。


  「……ぽて、ぽて!」

 小声で呼びかける。


 けれど、カウンターの上のぬいぐるみはぴくりとも動かない。

 ふわふわの毛並みの中に、風がひとつ流れただけ。


 「……え?」

 ハルは瞬きをした。


 たしかに、形も大きさも、あのぽてと同じだ。

 丸い体も、小さな耳も、見間違えるはずがない。

 なのに――そこには、息づくような魔力の気配がまったくなかった。


 胸の奥がひやりと冷える。

 ハルはそっと手をカウンターに添え、もう少し近くで覗き込んだ。


 そのとき、目に入ったのは違和感。

 (……目の色が……違う?)


 以前のぽての瞳は、柔らかな琥珀色だったはずだ。

 けれど今、そのガラス玉は静かな青を湛えている。

 光を映しながらも、どこか遠く、冷たい印象を与えていた。


 さらによく見ると、もう片方の目が――ない。

 右目のあった場所には、細い縫い目の跡が残っているだけだった。

 そしてカウンターの端に、小さな丸いガラスの“片目”が布の上に置かれている。

 ツムギが作業の途中で外し、修繕しようとしていたのだろう。

 まるで、大切に守られているように、ぽつんとそこにあった。


 「……ぽて……?」


 声はほとんど息のようにかすれていた。

 動かないぬいぐるみを見つめながら、ハルはようやく理解する。

 ――今のぽては、まだ“生きていない”。


 ツムギと結び合うその日を待ちながら、

 静かに、ここで眠っているのだ。


  ふと、ハルの脳裏にひとつの疑問が浮かぶ。

 ――ぽての目が琥珀色になったのは、いつからだっただろう。


 初めて出会った時から、ぽての瞳は確かに琥珀色に輝いていた。

 けれど今こうして見てみると、あの優しい光がまるで“途中から灯ったもの”のようにも思えてくる。


 (ツムギお姉ちゃん……たしか、言ってたよな)

 ぽては、お気に入りのものを繋ぎ合わせて、小さな頃から少しずつ“バージョンアップ”させてきたんだって。

 布を替え、糸を新しくし、時には中の綿を入れ替え――形を変えながら長い時間をツムギと共に過ごしてきた。


 じゃあ、目の色が変わったのはいつなんだろう。

 ツムギが新しい素材を見つけて付け替えたのか、それとも――あの琥珀の光は、別の“何か”の証なのか。


 それに、ぽてはまだ動き出していない。

 ツムギのそばにいながら、どうして“目覚めて”いないのだろう。

 何か、きっかけがあったはずだ。


 けれどその理由を、ハルは知らない。


 静かな店内のざわめきの中で、ハルはただ、ぽてを見つめたまま立ち尽くしていた。

 琥珀の記憶と、青い今。その間に流れる時間の意味を、静かに思い描きながら。


  静かな店内のざわめきの中で、ハルはただ、ぽてを見つめたまま立ち尽くしていた。

 琥珀の記憶と、青い今――その間に流れる時間の意味を、静かに思い描きながら。


 青い目をじっと見つめていると、ふと脳裏にひらめく。

 (……ぽての目って、もしかして)


 その思いつきが、胸の奥で小さく弾けた。

 ハルはポシェットの留め具にそっと手を伸ばし、静かに開く。


 「ねぇ、ロザさんにあげたパーツを作ったとき、ついでに作った“あれ”、どこに入ってる?」

 まるで話しかけるように、ポシェットへ囁く。


 その瞬間、ポシェットの中で何かが小さく光を放った。

 次の瞬間、まるで返事をするかのように、ハルの指先に冷たい感触が触れる。


 「……あった」

 ハルの掌の上に転がったのは、透きとおるような丸い塊。

 ロザのパーツを作ったとき、余った晶樹液を固めておいた透輝液のかたまりだった。


 淡い光を宿したその素材には、“ものを進化させる”力があることがわかっている。

 ハルは指先でそっと撫で、息を整えた。


 「……試してみよう」


 慎重に塊を割り、その中から、ぽての目に似た小さな粒を取り出す。

 それを掌の上で転がしながら、片目の外れたぽてを見つめた。


 店内の喧騒が、急に遠のいて聞こえる。

 ハルはそっとその小さな光を、ぽての失われた右目の位置に重ねた。


 柔らかな光が、ふわりと滲む。

 淡い金の色がほんのりと灯る。


 ――やっぱり、これだったんだ。

 ぽての目が琥珀色になった理由。

 そして、ぽてが“動く”ことの辻褄も、これでようやくつながった。


 まるで、青い瞳が――琥珀へと戻る予感を含んで、瞬きを待っているかのようだった。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日と金曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

https://ncode.syosetu.com/N0693KH/

⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

https://ncode.syosetu.com/n3980kc/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ