表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/146

カイルの作戦

 「……よし、作戦名は――“偶然を装ってバルド様とお近づきになろう大作戦”だ!」

 カイルは胸を張り、誇らしげに宣言した。


 「……ながっ!」

 思わずハルが突っ込みを入れる。だが父は気にする様子もなく、どこか楽しそうに笑みを浮かべている。


 「いいか、あの本屋の前にはカフェがあるだろう?そのテラス席で張るんだ。バルド様はあの本屋はいきつけの店なんだとしたら、必ずいつか顔を出す。その時に本屋に行って“偶然居合わせる”。これで自然に接点が作れる!」


 勢いよく語る父の姿に、ハルは小さく肩を落とした。


 「……でも僕は一緒に本屋には入れないよね?未来を変えない為にも、できるだけ関わらない方がいいんでしょ?」


 「そうだ、ハルは入らない」


 カイルは力強く頷き、さらに身を乗り出す。


 「お前は外の席に座って待ってろ。俺が一人で本屋に入って声をかける。他人のふりをしてろ」


 「……偶然って、そんなに都合よくいくかなあ……」


 唇を尖らせてぼやくハルに、カイルはにやりと笑った。


 「偶然は作るもんだ、ハル」


 その言葉に、ハルは半ば呆れつつも笑いをこらえきれなかった。父の無茶苦茶な発想は、時に心強く、時に不安で、そしていつも不思議と頼もしい。


 「父さん! でも偶然を装うなら、もっといい方法があるよ」


 笑いを含ませながら口にすると、カイルはすぐさま反応した。


 「ん? なんだ、いい方法ってのは」


 カイルは腕を組み直し、まるで仲間から新しい戦術を聞き出そうとする時のように、真剣な顔を向けてくる。


 ハルは得意げにノートを取り出し、修復途中の魔法陣が描かれたページをひらひらと見せながら言った。


 「バルドさんって、魔道具とか魔法陣が本当に好きなんだ。だからね……父さんが本屋に入ったあと、魔法陣とか魔道具のコーナーで、この魔法陣を見ながらブツブツ言ってたら、きっと声をかけてくると思うんだ」


 口を尖らせ、実際に呟く仕草までしてみせるハル。「この線は外に伸ばすべきか、それとも中心に寄せるべきか……」

 その真剣さと芝居がかった様子に、カイルは目を瞬かせたあと、大きく笑った。


 「ははっ……なるほどな! 確かにバルド様は、そんな場面を黙って見過ごすわけがないってことか」


 だがすぐに顔を引き締め、にやりと口角を上げる。


 「よし決まりだ。だが、ハル――父さんがバルド様と接触するのを確認したら、お前はすぐに町に戻れ。うっかり一緒にいるところを見られたら、すぐバレちまうからな」


 「……そっか」

 名残惜しそうに頷いたハルだったが、その表情には無理に明るさを宿す笑みが浮かんでいた。


 その後、二人はバルドと接触した時のために、細かな進め方をあれこれと話し合い始めた。


 机の上にはノートと紙片が広げられ、幾重にも線を引かれた魔法陣の写しや、条件式のメモが散らばっている。カイルが指先でそれらを押さえながら言った。


 「まずは魔法陣の準備だな。話していい内容と、絶対に伏せておくラインをしっかり決めておく。最終的に作りたいのは“条件付きの石の力を最大限に引き出す方法”……そこだけはぶれないようにしておこう」


 「……うん」

 ハルは真剣に頷き、ペンを手に取って余白に線を走らせる。だが次の瞬間、不安げに顔を上げた。


 「ねえ父さん。その条件の内容は、バルドさんに話してもいいのかな?」


 その言葉に、カイルは一瞬言葉を飲み込んだ。低く息を吐き出し、しばし考え込む。そして腕を組み、視線を落としたままゆっくりと答える。


 「そうだな……そこが肝心なんだ。息子を守るために――“心臓止まった時”あるいは“帰還石を使った時”に、石が発動するような仕組みにするのが一番自然だろう。そうすれば、もしもの時に“バリアを張る”“回復魔法を最大限に起動させる”といった形で説明がつく」


 「……なるほど」

 ハルは小さく呟き、紙の余白に走り書きした。


 「回復とかバリアっていうのは、本当の仕組みを隠すための“建前”ってことだよね」


 「そういうことだ」

 カイルは淡々と答えるが、その横顔には確かな決意がにじんでいた。


 「よし!じゃあ最終確認をしよう。作戦はこうだな。俺が本屋でバルド様と接触する。そのときに、魔法陣をチラ見せして、興味を持ってもらう。もし興味を持ってくださったら相談する。お前は接触した時点で町に帰る……父さんが心配だからって、残ったりするなよ」


 「わかってるよ」


 そう答えながらも、ハルの胸の奥には「本当は一緒にバルドと話したい」という思いが疼いていた。それでも――今は任された役割を果たすしかない。


 父と息子の作戦会議は夜更けまで続き、紙の上には何重もの矢印や条件文が書き込まれていった。まるで二人の思考そのものが線となり、未来への道を描き出しているかのようだった。


 こうして二人の“偶然を装う作戦”は、ひそかに始動しようとしていた。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日と金曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

https://ncode.syosetu.com/N0693KH/

⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

https://ncode.syosetu.com/n3980kc/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ