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魔法陣実験スタート

 しばらくの間、本の図とアークノートの写し、そして守り石の破片を交互に見比べながら、二人は黙々と睨めっこを続けた。


 静かな部屋に響くのは、ページをめくる音と、時折カイルが低く唸る声だけだ。

 やがて、カイルが組んでいた腕を解き、短く息を吐いた。


 「……うん。この魔法陣自体、この状態であれば、そんなに危ないもんじゃないな。やはり、魔力を放出させる類のものだと思う」


 言いながら、カイルはノートに描かれた線の一部を指でなぞった。


 「試しに、この魔法陣の上に小さい魔石を置いてみよう。もし暴走しても大したことにはならないはずだ……そうだな、水の魔石のかけらなんかが安全でいい」


 その言葉を聞くなり、ハルは「まかせて!」とばかりにポシェットをもぞもぞと漁り始めた。

 「えっと、これとか、これとか……」

 机の上に並べられていくのは、掌大から拳ほどの大きさの魔石ばかり。淡い青や黄緑に光る石たちが、ごろごろと音を立てて転がる。


 カイルは一瞬絶句したあと、思わず苦笑を浮かべる。


 「……いや、ハル。これは……でかすぎるだろう」


 呆れ混じりの声に、ハルは「えっ」ときょとんとする。


 「もっと小さいやつでいいんだ。紙の上に置くんだからな。できるだけ平らな破片の方がいい」


 「あっ!」

 ハルは手をぽんと打った。脳裏に浮かんだのは、POTENの仲間たちの姿だ。


 「そういえば……ジンさんとエドさんが、魔石スライスの試作品を見せてくれたときに、サンプルを少し分けてもらったんだ!」


 ポシェットの底を探ると、薄い板状にカットされた色とりどりの魔石が、包み紙にくるまれて出てきた。光を受けて透けるように輝くその欠片は、宝石のスライスのように美しい。

 ハルは得意げに差し出しながら言った。


 「父さん! これなら、ちょうどいいんじゃないかな!」


 ハルが差し出したのは、色とりどりに透ける薄い板状の魔石だった。光を受けるたびに宝石のようにきらめき、机の上で淡い輝きを放っている。


 カイルは思わず眉を上げ、手に取った一枚を光に透かした。

 「……これはまた……宝石みたいに綺麗だな」


 指先でなぞると、驚くほど滑らかで、切断面に凹凸がまるでない。光がすうっと通り抜ける様子に、思わず唸り声が漏れた。


 「大きさも丁度いいし、平たさも完璧だ。……だが、こんなものを試しに使ってしまっていいのか? もったいなくないか?」


 するとハルは、少し誇らしげに胸を張った。


 「これはね、僕の所属してる創舎のメンバーが作った“機械”でスライスした魔石なんだ。サンプルとして少し分けてもらったんだよ。元の時間に戻れば、また沢山もらえるから大丈夫! それに、元の魔石だって僕が取ってきたものだから、父さんは心配しないで使って」


 カイルはその言葉を聞いてしばし呆然とした表情を浮かべた。宝石のように整ったスライス魔石を見下ろしながら、低くつぶやく。


 「……たった三年で、技術がここまで進化してるのか。魔石をこんなに真っ直ぐ、均一に切れるなんて……信じられん。今は、いくら腕のいい職人でも、ここまで滑らかにはできないはずだ。これじゃまるで……宝飾品だな」


 目を細め、ぽつぽつと独り言のように続ける。

 「ハルの創舎……もしかしてとんでもない技術力を持ってるんじゃないのか? いや、そもそも新人冒険者が、こんな立派な魔石を自分で採ってこれること自体が異常だし……。三年でここまで環境が変わるもんなのか……」


 ぶつぶつと考え込む父の横顔を、ハルは少し得意げに見上げた。自分の努力や仲間の成果を、父に認めてもらえることがただ嬉しい。


 やがてカイルは肩をすくめて苦笑し、頭を軽く振った。


 「……ま、まあいい。とにかくそういうことなら——勿体ないが、このスライス魔石を使わせてもらおうか」


 その声には、確かな期待と、息子の成長を誇る気配が滲んでいた。


 「……よし、じゃあ早速試してみるか」

 カイルが立ち上がり、机の脇にあった大きなタライを引き寄せた。しっかりした厚みのある器は、実験にはうってつけだった。


 「水が溢れてもいいように、これを使おう」

 そう言って、カイルは慎重に机の上にタライを置くと、ハルに目配せをした。


 「じゃあ、この上に……」

 ハルは頷き、写し取った魔法陣の紙を取り出す。


 「次は魔石だな」

 カイルの低い声に導かれ、ハルはポシェットからスライスした水の魔石を取り出した。薄い板のようなそれは、透き通った青を帯びており、まるで湖面の切片を閉じ込めたようだ。


 「……置くよ」

 小さく呟き、ハルは両手で魔石をそっと持ち上げ、紙の中心に置いた。


 瞬間——


 「うわっ!」

 蛇口をひねったように、勢いよく水が噴き出した。その勢いは尋常ではない。タライの中に水が激しく叩きつけられ、細かな飛沫が二人の腕に冷たくかかる。

 思わずハルは身を引いたが、水流はすぐに収束した。時間にして三秒ほどの短い間だったが、タライの中には半分ほどの水が溜まっていた。


 中心に置いた魔石の輝きは弱まり、今では淡いガラス片のように見えている。

 「……魔力を使い切った、ってところだな」

 カイルが小さく呟き、水滴を払う。


  ハルは、輝きを失った魔石をじっと見つめた。ほんのわずかな時間で、一気に魔力を吐き出してしまったのだ。

 (……やっぱり、父さんの言った通りだ……この魔法陣は“放出”なんだ)

 輝きを失った水の魔石を見つめながら、ハルは胸の奥でそう呟いた。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日と金曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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