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カイルとハルの朝ごはん

 ぐっすり眠った翌朝——まだ外がほんのり明るくなり始めたころ、ドアを叩く元気な音が響く。


 「おーい、ハルー! 来たぞー!」

 聞き慣れた声に、ハルはぱちりと目を開けた。慌てて布団から飛び出し、ドアを開けると、そこには笑顔のカイルが立っている。


 「おはよう! 朝ごはん、食べにいくぞ!」

 そう言われ、ハル達は宿の食堂へと向かったた。二人並んで席につき、ミナ——ハルの母が作ってくれた朝ごはんを広げる。


 さらに、昨日街で買ってきたパンも袋から出して皿に並べると、カイルの目がぱっと輝いた。

 手に取った瞬間、ふわりと甘い香りが漂う。カイルはためらいなく大きくかぶりつき、もっちりとした生地を噛みしめる。口の端が少しだけ上がり、しっかりと味わってから、ごくりと飲み込んだ。


 「……これ、美味いな! どこで買ったんだ?」

 「これはね、いつも行くパン屋さんなんだ」

 「そうだったな……ハルは未来じゃ城下町で暮らしてるんだったな」


 嬉しそうに頷きながら、ハルは言葉を続けた。


 「うん。みんなと一緒に住んでて、いつも誰かが帰ってきて……家の主みたいな、バルドさんっていう人がいるんだよ」

 「ほぉ……」


  カイルはゆったりと相槌を打ち、目を細める。その表情は、聞いているだけで満たされるような温かさを帯びていた。

 ふと、眉をわずかに寄せて心配そうにハルを見やる。


 「そういえばお前、パンを買うお金はどうしたんだ? 持ってるか? 大丈夫か?」


 ハルは思わずくすっと笑い、胸を張った。

 「未来でね、大人気になった商品の共同開発者にしてもらったんだ。それでロイヤリティがいっぱい入ってきて、お金には全然困らなくなったの。だから心配しないで。それに、今所属してる創舎からも、ちゃんとお給料もらってるんだよ」


 「……はぁぁ?」

 カイルは目を丸くして、しばし絶句する。やがて肩を揺らして笑いながら言った。

 「たった三年で……あのチビハルがこうなるとはな。子どもの成長ってのは、ほんと驚かされるぜ」


 少し真剣な声になり、カイルは続けた。

 「……本当に、俺がいなくなった後、お前の周りにいてくれた全ての人に感謝だな。未来で会えることがあったら、ちゃんと挨拶しねぇとな」


 ハルはにっこり笑い、すぐさま言った。

 「もちろん、ロザさん達にもだよ!」

 「ちげえねぇ!」


 二人は声を合わせて笑い、食堂の温かな空気に包まれながら、ゆったりと朝を過ごしていった。

  朝食を食べ終えた二人は、さっそくハルの部屋へ戻った。

 「よし、じゃあ……守り石の魔法陣、見てみようか」

 カイルが腰を下ろすのを待って、ハルは机の引き出しからアークノートを取り出した。


 「これ、ボロボロだったから、ちょっと直してみたんだ」

 そう言いながら、ハルは机の上に守り石の残骸をそっと置く。欠片同士を透輝液で繋いだ部分が、光を受けてかすかにきらりと光った。

 「そしたら、半分くらい魔法陣が読み取れたから、このノートに写してみたよ」


 アークノートを開き、ハルはカイルに見せる。

 「こっちが、そのまま写したやつ。で、こっちが……魔法陣の図鑑とか見ながら、似てる部分を書き込んでみたやつなんだけど……」

 ページの余白には「はね反対」「まんなか同じ/外ちがう」といった短いメモが並び、いかにも真剣に観察した跡が残っている。


 「僕にはさっぱりで……父さんなら、何か気がつくかなって」

 ハルは少し期待を込めた眼差しで、カイルの反応を待った。


  カイルは、机の上に置かれた守り石を手に取り、欠片の継ぎ目や表面の刻印をじっと見つめる。それから、アークノートのページに視線を移し、写し取られた魔法陣と、余白に書かれた短いメモを何度も行き来させるように見比べた。しばらく沈黙が流れた後、ふっと口元を緩める。


 「……ハル、すごいな。こんなことも出来るようになったのか。しかも、すごくわかりやすい」


 思わぬ褒め言葉に、ハルは少し照れくさそうに頬をかき、視線をノートに落とした。

 「ぜんぶ、人から教えてもらったんだよ。創舎のみんなって、すっごいメモ魔なんだ。それに、この前サイルさんがマッピングのやり方とかも教えてくれてさ……すごく分かりやすかったから、それをちょっと応用してみたんだ」


 話すうちに、声の端々に誇らしさがにじむ。それでもどこか、褒められ慣れていないせいか、言葉の最後は少し小さくなった。


 「サイルは、人に教える才能があるからな」

 カイルは感心したようにうなずく。

 「俺もよく、あいつにいろんなことを教えてもらってるんだ。ほんと物知りだよな。……それに、ハルのことを、しっかり育ててやろうとしてくれてるんだな」


 その声には、静かな感謝と嬉しさが滲んでいた。

 カイルは一度守り石をそっと机に置き、椅子に腰を深く預ける。だが次の瞬間には、再び身を乗り出して、アークノートのページを凝視した。指先で、魔法陣の外周や交差部分をなぞり、何かを思案するように眉間に皺を寄せる。


 「……なるほどな」

 低くつぶやき、今度は守り石の表面を光にかざして角度を変えながら眺めた。その目つきは、冒険者として幾多の仕掛けを見抜いてきた者のものに変わっていた。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日と金曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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