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守り石の修繕と魔法陣

 そう呟きながら、ハルはポシェットの中をがさごそと探り始めた。

 「……ん? なんか、収納ちょっと減ってない?」

 指先に伝わる感触が、いつもよりわずかに狭い気がする。しかも最近、ほんの少し重くなったような……。気のせいかもしれないが、ポシェットの様子が少し心配になり、具合を確かめるように中をゆっくり探った。


 やがて指先が触れたのは、掌ほどの小瓶。取り出すと、中には透明に近い淡い輝きを帯びた液体——特別な晶樹液が揺れていた。

 これを透輝液に加工すれば、ツムギたちが作った魔導通信機のように、不思議な変化を見せてくれることもある。もっとも、自分にはツムギのような創術魔法は使えないから、そこまでの特別な変化は起きないだろう。


 それでも——これは大切な守り石だ。ならば、できるだけ良いもので修復してあげたい。そう思い、ハルは小瓶をしっかり握りしめた。


 まずは、大きめに砕けた守り石から手をつける。月影石の粉と晶樹液を混ぜた透輝液を筆の先にすくい、ひびの断面へ慎重に塗り込んでいく。ライト魔法をかざすと、液がきらりと光を返しながら固まり、欠片同士が少しずつつながっていった。


 細かい破片になると、手元がぐらつき、思わず落としそうになる。何度もやり直しながらも、ハルはツムギやエドが作業していた光景を思い出し、一つひとつ息を詰めて合わせていく。


 ライト魔法の光を当てながら、ふと心の中でつぶやく。

 ——やっぱり透輝液ってすごい。コーティングにも、接着剤にも、新しい形を作るのにも使える。本当に、何にでも使えるんだな……。


 修復できるところはすべて手を入れ、ようやく守り石は元の形の半分ほどを取り戻した。欠片を合わせた面には、魔法陣の一部がくっきりと浮かび上がっている。線のつながりや模様の切れ端を目で追うと、なんとか半分くらいは図案として読めそうだ。


 「……よし、今のうちに写しとこう」

 ハルはアークノートをぱらりと開き、ペンを握った。魔法陣の意味なんて、今の自分には意味不明だ。それでも、線の角度やカーブの深さ浅さ、わずかな歪みまで、できる限り正確に写し取っていく。


 左右対称に見える部分も、よく見ると微妙に違っていたり、線が途中で膨らんでいたりする。見た目に惑わされないよう、何度も目を往復させて確かめながら、ひたすら描き写す。


 ペン先が紙の上をすべる音だけが、部屋に静かに響いていた。気がつけば息をするのも忘れそうになるくらい集中していて、ハルはふっと息を吐き、手首を回して力を抜いた。

 「……よし、これで大体は写せた」

 小さく呟いたその声には、静かな達成感が滲んでいた。


  念のため、同じ図案をもう一枚、少し余白を広く取って写しておく。何か気づいたことを書き込めるようにするためだ。二枚目を描き終えると、ハルは机の端に置いてあった、バルドからもらった分厚い図鑑のような本を手に取った。


 「えっと……似てるの、ないかな……」

 ページをめくるたびに、大小さまざまな魔法陣の図案が目に飛び込んでくる。円の数が多いもの、幾何学模様が組み合わされたもの、シンプルな線だけで構成されたもの……どれも見ているだけで面白く、つい見入ってしまう。


 「あ、これ……外側の模様、ちょっと似てるかも」

 写しを横に置き、ページの端を押さえて見比べる。確かに外周の刻み方は似ているが、内側の線は違っている。

 「こっちは……はね方が反対だな……」

 ペンを手に取り、写しの余白に「外にてる/中ちがう」「はね反対」などと短く書き込む。


 次のページをめくると、中心部分の形が守り石の魔法陣とほぼ同じものを見つけた。

 「おお……ここはそっくりだ。外の線は全然違うけど……」

 また余白に「まんなか同じ/外ちがう」と書き足す。


 似ている部分を見つけるたび、少しずつパズルのピースが揃っていくような気がして、ハルの表情は自然と明るくなっていった。


 そんな作業を繰り返していくうちに、気がつけば、写し取った魔法陣の紙は矢印や丸囲み、メモ書きでいっぱいになっていた。外周の線が似ていても中心部が違ったり、同じようなカーブなのに角度が微妙に変わっていたり——ぱっと見そっくりでも、比べると意外と違う。


 「……やっぱり、時間転移の魔法陣って、めちゃくちゃ複雑なんだな」

 独りごちる声は、どこか感心とわくわくが混ざっている。少しずつ、謎の輪郭が見えてきたような気もするし、逆に霧が濃くなったような気もする。不思議な感覚だ。


 ペンを握る手はいつの間にかインクの匂いに染まり、魔導ランプの光が紙面を柔らかく照らしている。気づけば外はすっかり暗く、宿の廊下もひっそりと静まり返っていた。


 「……まずい、こんな時間か」

 明日また父さんと一緒に考えよう。きっと、二人ならもう少し答えに近づけるはずだ。


 ハルは写しと本をそっと閉じ、ペンを机の上に置く。魔導ランプの灯りをふっと消すと、部屋の中に夜の静けさが広がった。ポシェットをベッド脇に置き、布団に潜り込む。少し冷たいシーツが心地よくて、目を閉じると、魔法陣の線とバルドの笑顔が、夢の入り口に溶けていった。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日と金曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

https://ncode.syosetu.com/N0693KH/

⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

https://ncode.syosetu.com/n3980kc/

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