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やることリスト

 「それにしても……ハル。三年ちょっとで成長しすぎなんじゃないか?」


 カイルは、苦笑を浮かべながらハルの顔をまじまじと見つめた。


 「……なんでまた、“記憶を吸う”なんて発想になるんだよ。お前、昔は基礎から外れることには慎重だっただろ? あえてそんな無茶を考えるようになるなんて、驚いたよ」


 照れたようにハルは笑って、少しだけ視線を落とした。


 父さんがいなくなってから——。

 その始まりを、ゆっくりと語るように、言葉が自然と紡がれていった。


 ポシェットが壊れて、創術屋のツムギに修繕してもらったこと。

 それがきっかけで、ツムギが立ち上げた“創舎そうしゃ”に加えてもらえたこと。

 アイデアにあふれた仲間たちと出会って、視野が広がったこと。

 風のように自由で、時に厳しく、でも誰より温かく見守ってくれる人たちが、そばにいてくれたこと——。


 ハルは、まるで宝物を並べるように、一つひとつを語った。


 「……それでね、僕は素材担当になったんだ。魔道具は作れないけど、素材を持ち帰ると、みんなすごく喜んでくれるんだよ。役に立ててるって思えるのが、すごく嬉しくてさ」


 そう言って笑ったその顔には、ほんの少し、誇らしさがにじんでいた。


 「でも、僕がちょっとでも危ない場所に行こうとすると、みんな過保護すぎてさ……いや、嬉しいんだけどね。ちょっと困るくらい」


 笑い混じりのその言葉の奥に、仲間たちへの深い愛情が滲んでいた。


 「ロザさんやアオミネさん、クロやサイルさんにもいっぱい教えてもらった。魔法のことも、戦い方も、心の持ち方も……。あの人たちがいなかったら、僕……たぶん、途中で折れてたかもしれない」


 それは、静かだけど確かな実感を伴った言葉だった。


 カイルはしばらく何も言わず、ハルを見つめていた。

 その瞳に宿るのは、驚きでも、戸惑いでもなく——深い、深い感謝だった。


 「……なるほどな。そいつらに鍛えられて、ハルはここまで来たんだな」


 小さくうなずき、ぽつりとつぶやく。


 「ロザたちにも……感謝しないとな。俺がいなくても、ちゃんとお前を見てくれて……守ってくれてたんだな」


 その声は、どこか遠くを見つめているようだった。

 その後、カイルはゆっくりと立ち上がり、腕を組んだ。


 「よし、ハル。ここまででわかったことを整理しようか。これから何をするべきか、はっきりさせておきたい」


 「うん、ちょっと待って」


 ハルはポシェットの中から、小さなアークノートを取り出す。見慣れた手つきでページをめくり、一本のペンを構えると、目の前の現実を、カイルと相談しながら、丁寧に言葉にしていく。



《やることリスト》

① 元の時間軸に戻る方法を探す

・ダンジョンで手に入れた“四つの石”が鍵になるかもしれない

・ただし、石には魔法陣が刻まれていなかった→自分たちで起動用の魔法陣を刻む必要がある

・目標は四つ作る:

 - 二つはハルとカイルがハルの時間軸へ向かう用

 - 一つはカイルがこの時間軸に戻る用

 - 最後は“チビハル”のポシェットに縫い込む


② アザルに勝つ手段を見つける

・アザルの弱点は「記憶」

・風魔法で記憶を吸えることが判明(※要極秘)

・ハルひとりでは吸収しきれない→父と一緒に“記憶を扱う訓練”を開始する

・ただし、“風魔法で記憶が吸える”ことは絶対に外部に漏らさないこと

 →悪用の可能性が高いため、情報は厳重に管理する



 「……こんな感じかな」


 ハルがノートを見せながら言うと、カイルは満足そうにうなずいた。


 「上出来だ。お前、こういうのまとめるの、得意だったっけ?」


 「えへへ。創舎のメンバーはメモ魔が多くて、みんなメモをとるんだ。すっごく細かくてね、紙の山ができるくらい!」

「だから僕も真似して、いろんなこと、忘れないようにメモするようになったんだ」


 「そうか……頼もしいな」


 そう呟いたカイルの声は、小さく笑みを含んでいた。


 「魔法陣の方は……何か当てはあるか?」


 ふと真剣な目でハルを見やりながら、カイルが問いかける。


 「もし無いなら、とりあえず、粉々になっちまった守り石を修復して……読み取れる部分があるか試してみよう。俺も何冊か、魔法陣の本を持ってる。照らし合わせてみれば、何か参考になるかもしれないしな」


 「うん……!」

 ハルは素直に頷いたあと、少し考えるように視線を落とす。


 「……魔法陣はね、バルドさんっていう人が、すごく詳しいんだ。創舎のメンバーなんだけど……でも、僕は会いに行かない方がいいよね?」


 その問いに、カイルは一拍置いてから、小さく首を振る。


 「そうだな……未来に影響を与えそうな相手には、できるだけ接触しない方がいい。バルドって人が重要なら、なおさらだ」


 「……わかった」


 ほんのわずかに唇を噛んだハルだったが、すぐに切り替えるように顔を上げた。


 「じゃあ、僕……冒険者ギルドに行って、父さんに指名依頼を出した方がいいかな? 未来をなるべくなぞるって意味では、その方が自然かもしれないし……」


 カイルは思わず吹き出すように笑った。


 「なるほどな、頭が回るようになったじゃねぇか。……ああ、それはしておいた方が良さそうだ。だが——偽名にしとけよ? 本名だとややこしいことになりかねん」


 「うん、分かった! 今日のうちに、出しておくね!」


 元気よく頷いたハルの瞳には、もう次の行動へと向かう決意が宿っていた。

明日も23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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