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過去と未来をつなぐ石

 ハルはポシェットの中に手を差し入れた。奥の方に、大事にしまっておいた布袋がある。それをそっと引き出し、口を開く。


 「……あっ」


 袋の中から取り出されたのは、もはや“ひとつの石”ではなかった。


 いくつにも砕けた小さな破片が、布の上にこぼれ落ちる。欠片の一つひとつは、まるで細かな硝子のように透き通り、今もなお、かすかに淡い光を放っていた。よく見ると、それぞれの表面には、微かに魔法陣のような模様が刻まれている。


 「……割れてる。というより、粉々だ……やっぱり、これが僕を連れてきてくれたんだと思う」


 ハルはそう呟きながら、掌に広げた破片を、そっと父に差し出した。


 カイルは息を呑んで、それをじっと見つめた。


 「……これが、ポシェットに入ってたっていう“守り石”か。……すごいな、まるでここに来る代わりに砕けたみたいだ」


 手のひらで転がすように破片を見ながら、首を傾げる。


 「でも……不思議だな。俺はこんな石、作った覚えはない。模様も、これは俺の書く魔法陣とは少し違う」


 そう言いながらも、カイルの視線は釘付けだった。


 割れてなお、輝きを失わない石の欠片たちが、ふたりの間に沈黙の余韻を残していた。


  カイルは、それらをしばらく眺めていたが——やがて、ふっと目を細めて口を開いた。


 「……よし。仮にこの“守り石”が、ハルをこの時代に連れてきたとしよう」


 ゆっくりと、確信を噛みしめるように言葉を紡ぐ。


 「でも……見たところ、こいつは使い切りだな。ひびが入ったとかいうレベルじゃない。完全に力を使い果たしてる。つまり、元の世界に“帰る”には、同じか、それ以上の力を持った石を新たに手に入れる必要があるってことだ」


 ハルはごくりと喉を鳴らしながら、砕けた破片を見つめた。


 「そんな……この石、どこで手に入れたんだろう……」


 カイルは腕を組み、少し考えるように天井を見上げた。


 「俺には、どうにも見覚えがないんだ。模様も素材も、初めて見る系統だ。ハル、お前は……なにか思い当たることはあるか? この石、誰かからもらったとか——」


 そう言って、彼は穏やかに、だが真剣な目でハルを見た。


 ハルはその視線を受け止めながら、しばらく無言で考え込んだ。


 (時を超える石なんて、聞いたことがない……。僕の持ってる魔石は、たしかにほとんど普通の魔石のはず。でも……)


 思考が迷路を彷徨うように巡り、その中で——ふと、ひとつの記憶にたどり着いた。


 (——忘れ谷、第三階層。そうだ!)


 ハルは急に顔を上げると、ポシェットの中を勢いよく探り始めた。


 「……あった! これ……この石!」


 ガサゴソと音を立てながら、底の方から取り出した布袋をほどき、中からそっと四つの石を取り出す。


 テーブルの上に並べられたそれは、どれも同じ形をしていた。


 滑らかな表面に、淡く透き通るような輝き。どこか温かみを感じさせるその光は、見る角度によってほんのりと色を変える、不思議な石だった。


 カイルがひとつを手に取り、じっと観察する。


 「……これは……普通の魔石じゃないな。波動が一定じゃない。まるで——」


 彼は視線を石に落としたまま、低く呟いた。


 「……生きてるみたいだな」


 ハルはその言葉に、思わず息をのんだ。


 そして、手元の石と、割れた守り石の欠片とを交互に見つめ——


 「父さん、これ! ほら、そっくりだと思うんだ!」


 興奮気味に、不思議な石をカイルの前に差し出す。


 机の上に広げられた石の破片と、ハルが取り出した光を帯びた石。大きさ、色、質感——すべてが、あまりに似ていた。


 カイルも、片方の眉を上げながら石を手に取り、じっくりと眺めた。


 「……ほんとだ。こりゃ、そっくりどころか……」


 彼は破片と石を並べ、光に透かす。


 「間違いない。きっと、この石だ。こいつが“鍵”なんだろうな」


 ハルの方を見て、真剣な声で問いかける。


 「ハル、この石……どこで手に入れた?」


  カイルの問いかけに、ハルは少し目を伏せてから、ゆっくりと答えた。


 「この石は、ロザさんたちと行ったダンジョンの報酬で手に入れたんだ」


 その言葉に、カイルの眉がわずかに動く。ハルは続けた。


 「そのダンジョンのマスターは、転移者だった。元の世界に帰ろうとしていて……だから、もしかしたら、この石もそのために作られたものなんじゃないかって思ってる」


 淡く光を放つ石を見つめながら、ハルの声には確信がにじんでいた。


 「だとすると、この石——“時空を移動できる石”なのかもしれないよね」


 カイルは驚いたように目を見開き、口を閉ざしたまま、石を見つめ直す。その視線には、冒険者としての好奇心と、父親としての慎重さが入り混じっていた。


 「……ただ、この石には魔法陣が刻まれてなかったから……たぶん、魔法陣は自分たちで刻まないと、ダメだと思う」


 ハルの言葉に、カイルはゆっくりと頷いた。


 「なるほどな……素材はあるが、起動装置は自分で用意しろってことか。……やっぱり、お前の勘は侮れないな」


 軽く笑ったその目の奥には、もう次の段階を見据えた光が灯っていた。

明日も23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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