大木との戦闘開始!
「アオミネ!」
ロザの鋭い声が響く。視線はすでに戦況の次の一手を見据えていた。
「ダークホールで、あの根元、潰せるかしら?」
「了解!」
アオミネはリュカをそっと地面に下ろしながら、背後へひとつ跳び下がる。
「——《ダークホール》!」
その詠唱とともに、地面の一角が闇に引きずり込まれるように歪み、木の魔物の根元を飲み込もうと重力が収束していく。
その一瞬の隙を縫うように、サイルが音もなくリュカのそばに寄った。
「そのまま、じっとしててください」
手のひらをそっとリュカの胸元にかざし、淡い緑の光がふわりと舞い上がる。
「——《ヒール》」
包み込むような回復魔法が、リュカの身体に柔らかく染み渡っていく。
「……もう、大丈夫です」
小さく微笑みながら、サイルがみんなへと向き直る。
「リュカくん、軽い打撲と擦り傷だけです。致命傷はありません」
「ありがとうございます!助かりました」
リュカが照れ笑いを浮かべると、ハルとロザの肩がわずかに緩んだ。
戦場の空気が、わずかに整い直す。
だが——その束の間の静けさを打ち破るように、
「——っ!?」
アオミネの放った《ダークホール》が、大木の幹に触れた瞬間、闇の重力場が歪み、弾かれるようにして拡散した。土が爆ぜ、枝葉が舞い上がる。
「跳ね返された……っ!?」
アオミネが思わず眉をしかめ、地を蹴って後退する。
「……やっぱり、足止めくらいにしかならないわね……」
ロザが小さく息を吐き、戦況を素早く読み取る。
「私の水魔法も、木には相性が悪い……下手すれば、逆に回復されかねないわ」
そして、すっとリュカのほうへ視線を移す。
「——リュカくん。いけるかしら?」
「待ってましたぁっ!」
リュカが満面の笑みを浮かべ、勢いよく剣を振る。
「火属性で攻撃を!」
ロザが即座に指示を飛ばす。
リュカは頷くと、すばやく詠唱に入る。
「——《ファイヤーアロー》!」
赤い矢がいくつも生まれ、大木の表面に向かって正確に撃ち込まれる。乾いた音とともに、木の表皮が焼け、細かな煙が立ち上る。
さらに——
「《フレイムエッジ》!」
リュカの剣が炎を纏い、燃え立つ。その剣を構えながら、彼はまっすぐに木の魔物へと駆け出した。軽やかで、迷いのない動き。
「よし、俺もいく!」
アオミネがすかさず走り出し、リュカの側面を取る。
「拙者も支援に入るでござる!」
クロが軽やかに跳ね、反対側から迎撃体勢を取る。
火と斬撃、機動力のある二人に、クロの援護が加わる。
炎の剣を構え、突き進むリュカの姿は、戦場の中心へとまっすぐに飛び込んでいった。
大木の幹がごうんと軋む音を立て、無数の蔓がリュカを阻むようにうねり出す。
「来るぞ!」
アオミネが声を上げ、斜めから迫る太い蔓を一閃、鋭く断ち切った。
「リュカ殿の進路は——拙者が守るでござる!」
クロが素早く跳躍し、上方から降ってくるもう一本の蔓を見事に斬り払う。風を切る音とともに、枝が地面に落ち、リュカの道が開けた。
「ありがとう、師匠! アオミネさん!」
リュカはその隙を逃さず、地を蹴って一気に跳躍する。体を軽くひねりながら幹を駆け上り——
「——これで、終わりだああああっ!」
炎を纏った剣を大きく振りかぶり、大木のてっぺんに向かって斬りつける。
炎が走り、葉が燃え上がる。ボウッ、と一瞬で視界が明るくなるほどの火が樹冠に広がり、枝葉の間から煙が立ちのぼる。
一同が思わず目を細めて、その光景を見上げた。
——終わったか。
だが次の瞬間、パチ、パチ……と火の燃える音に混じって、何かがくすぶるような音がした。
「……あれ?」
ハルが静かに呟く。
幹の表皮は焦げて黒くなり、葉の多くは焼かれたが——幹の中心までは、炎が届いていなかった。
燃えていたはずの炎は、湿った木の芯に阻まれ、煙を上げながらプスプスと音を立てて、徐々に鎮まっていく。
「……だめだ。表面だけしか焼けてねぇ」
アオミネが低く呟いた。
「ちっ……芯の部分、なにかで守られてる可能性もあるでござるな」
クロが警戒を解かず、枝の影を見回していた。
リュカは剣を構え直すと、悔しそうに歯を食いしばった。
「くそっ……もう少しだったのに……!」
その間も、大木の反撃は止むことなく続いていた。枝のような太い蔓が何本も空を裂き、三人の戦士に向かってうねりをあげる。
「くっ、しつこいな……!」
アオミネが素早く地を滑るように動き、一本を切り払いながら低く唸る。
「左、もう一本来てる!」
クロが高く跳躍し、頭上から迫る別の蔓を一閃。葉をまき散らしながら、地面に落ちていった。
「はい! ここから先は通しません!任せて下さい!」
リュカが叫びながら、剣を構え直し、再び立ち上がる。
その間に、後方ではロザ・サイル・ハルの三人が並び立ち、大木の様子を冷静に見つめていた。
「確実に効いてはいるわ。もう一度、さっきの攻撃が入れば……倒しきれるかもしれない」
ロザが眉を寄せ、戦場を鋭く見つめながら口を開いた。
「ふむ……ですが、あの蔓が厄介です。削るより、耐える方が難しくなってきていますね」
サイルは目を細め、軽く顎に指をあてて考え込む。
「それに……なぜ葉は燃えたのに、幹も、蔓も、あれほどの火で焼かれなかったのか」
ハルは、前線で次々と蔓をはらう三人の動きを目で追っていた。リュカの振るう炎の剣。アオミネの重撃。クロの軽やかな斬撃。それでもなお、次々に迫ってくる蔓を見て——
(そういえば、ロザさん、水魔法だと“回復される”って言ってた……)
ハルの中で、点と点が線になる。ぱっと顔を上げ、思わずロザの方を向いた。
「ロザさん、水魔法で回復しちゃうって……やっぱり、“水を与える”から、なんですよね?」
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます。
みなさまのおかげで、このたび注目度ランキングに入ることができました。
小説を書き始めた頃から、「いつかランキングに載れたら…」と思っていたので、本当に嬉しく思っています。
せっかくいただいたこのチャンスを大切にしたくて、今日はいつもより早めの時間に投稿させていただきました。
夜までに、もう一話投稿できるように、これから執筆も頑張ってみようと思います。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
なお、もし本日中にもう一話の投稿が間に合わなかった場合も、
明日はいつも通り、23時ごろまでに1話投稿させていただく予定です。
同じ世界のお話です
⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜
https://ncode.syosetu.com/n3980kc/