1.小鳥たち
『ちょっと聞いてよー!』
セレーナが『しゃこうかいでびゅー』に出かけて行った、翌日。ボクはあまりのショックに、庭に遊びに来る小鳥たちに話を聞いてもらいにきてた。
『あらあら、どうしたのー?』
『なにかお困りごとー?』
普段は、好き勝手におしゃべりだけして帰っていくこともあるペアだけど。彼女たちは自由にあっちこっち行ける分、本当にたくさんの情報を持ってる。
だからきっと、知ってると思ったんだ。
『ボクのセレーナが、ニンゲンのオスに恋しちゃったんだよー!』
そう、あれは確実に恋だった。
思い出すたびに柔らかい笑顔を浮かべて、とろけちゃいそうな目をしてるのが、恋ではなくてなんだっていうのか!
『あらあら! ステキー!』
『ニンゲンのメスだもの。ニンゲンのオスに恋するのは、普通のことよー』
『そうかもしれないけど!』
『それでー?』
『あなたのセレーナは、どうしてそのオスに恋したのー?』
聞かれるがままに答えるボクは、セレーナが話してくれた内容をかいつまんで説明した。
どうやら初めての場所で、緊張してたせいで道が分からなくなって迷子になってたところを、そのオスが助けてくれたらしい。しかもそのあとも、色々と質問されて困ってたところを助けられたりしたんだって。
そんな話を、他のニンゲンがいない空間で聞かされたボクの気持ちたるや!
あの時間はいつも、ボクとセレーナだけの幸せな空間になってるのに……!
『まぁまぁ! ステキなニンゲンじゃないのー!』
『それのなにが不満なのー?』
『だって、おうたいしさま? なんて昨日会ったばっかりの、全然知らないニンゲンのオスなんだよ!?』
セレーナが言うには「淡く優しいブルーの瞳をお持ちの、腰ほどまである長いプラチナブロンドの髪を、リボンを使って後ろの低い位置で一つにまとめているお方」なんだとか。
恥ずかしくて自分からは話しかけられなかったらしいし、「大勢の方に囲まれていたの」って言ってたから、優秀なオスなのかもしれないけどさ……!
『あらー!』
『王太子様って、フィリベルト・ディ・パーチェのことよねー?』
『フィリベルト……?』
『知らないのー?』
『この国の王子様よー?』
小鳥たちの話では、どうやらセレーナが恋した相手はこのあたりの縄張りの中で、将来ボスになることが決定してるニンゲンのオスなんだって。
そう言われて、逆にセレーナは見る目があるんだなってちょっと感心しちゃったけど。
『確か、他国の王女様との婚約話があったはずなのよねー?』
『でも相手に問題があって、話自体がなかったことになっちゃったのよねー』
『だから、今はフリーじゃないー?』
『そうねそうねー! 今が狙い目よねー!』
ようするに、セレーナが恋するオスとしては問題ないってことでいいのかな?
彼女たちだけでピーチクパーチク楽しそうに盛り上がってるけど、ボクにとって一番大事なのはそこだから。
セレーナはニンゲンのメスだから、ニンゲンのオスに惹かれるのは仕方がない。これは、ボクだって納得してる。
でも本当にいきなりだったから、ビックリしちゃったんだよ! しかも昨日初めて会ったばっかりの、少ししか話したことのない相手に!
(こうなったら……)
ボクがこの目で、実際に確かめに行こう。
小鳥たちの話を疑ってるわけじゃないけど、本当にセレーナに相応しいのかどうかは、きっと彼女たちだけじゃ分からないはずだから。
『ルミノーソ侯爵家の令嬢なら、王子様とお似合いじゃないー?』
『そうよねー! 身分も問題ないしー!』
まだ楽しそうに話してる彼女たちならきっと、どこに行けば会えるのか知ってるはず。
『ねぇ』
『なぁにー?』
『どうしたのー?』
そう思って声をかけたボクに、面白そうだからと案内役を名乗り出てくれた小鳥たちだったけど。道中もずーっと楽しそうにおしゃべりを続けてたのには、さすがのボクもちょっと困る時があったよ。
途中で追い出されるようなことはなかったけど、何度かニンゲンたちに見つかっちゃったからね。もう少しでいいから、ボクが見つからないように気をつけてほしかったなって思った。