22.真っ黒な青毛
「なるほど。それで、単騎で急いで出てきたわけか」
「急を要する事態だと、主が判断いたしました」
「そうか。さすがルミノーソ侯爵、正しい判断だ」
なんかよく分かんないけど、一応の理解はしてもらえたみたい。たぶんその、フィリベルトからの手紙のおかげなんだろうけど。
『で、いつフィリベルトのとこに行くの?』
ただ正直、ずっとここにいられても困るし。ボクは早くフィリベルトの無事を確認して、セレーナとビアンカを安心させてあげたいんだけどなー。
「む? なぜ猫が?」
「え~~……。話すと長くなりますので、それは後ほどでもよろしいでしょうか?」
「ふむ……そうだな。今は殿下をお救いするのが先決だ」
そのままおっきいニンゲンは、少し待っていろと偉そうに言って、後ろを振り返って。
「全体、よく聞け! 殿下の居場所がつかめた! 今から救出に向かう! ついてこい!」
急におっきな声でそう叫んだから、思わずボクもマルツィオも耳を思いっきり後ろに向けて倒したんだ。クロなんて、怯えて小さくなっちゃってるし。
もうちょっとさぁ、ボクたちのことも考えてほしいよね。これだから体のおっきなニンゲンのオスはイヤなんだ。いっつもおっきな声ばっか出すから。
「さて。では案内してもらおうか」
「いえ、その……スプレンドーレ公爵様……」
「どうした?」
「先ほどお話ししました通り、案内役はそちらの犬でして……」
マルツィオの背中に一緒に乗ってるニンゲンが説明して初めて、青毛に乗ってるおっきなニンゲンはクロが怯えてることに気づいたみたい。
ねぇちょっと、遅くない?
「……まさか、今ので?」
「野良の犬ですから、訓練など当然されておりませんので」
ニンゲン! 苦笑してる場合じゃないでしょ!
『クロ、大丈夫?』
『……ルシェ、怖いよ~』
ボクが話しかけてみても、情けない声を出しながらひたすら縮こまっちゃってて、全然動けそうにないクロ。
ボクたちのやり取りを見て、ようやくおっきなニンゲンは自分のしたことが間違ってたってことを理解したみたいだった。
ねぇだから、遅いって。
「す、すまないっ……。そういうつもりではっ……!」
『どういうつもりとか、どうでもいいから。早くクロに謝って。ちゃんと自分でお願いして』
「うっ……」
ボクの言葉が理解できてるとは思えないけど、責められてるってことだけは分かったんだろうね。青毛から降りて、そっとクロに近づくおっきなニンゲン。
なんとかって名前らしいけど、ボクは覚えてなんてあげないから。クロを怯えさせるようなニンゲンなんて、知らないもん。
ほら、イヌとの挨拶の仕方も知らないし。正面から近づくとか、なに考えてるの。
『ルシェ~……!』
『ちょっと! そこの青毛! ニンゲンに挨拶の仕方ぐらい教えてあげなよ!』
『……すまない。我が主は、どうにも不器用で』
そう言いながらも、ちゃんとクロとおっきなニンゲンの間に入って、クロの視界から一回おっきなニンゲンを隠してくれた。
ニンゲンと違って、青毛は話せば分かるからいいね!
『主よ、彼らのような種と対話する場合には、まずはこうして横に並んでだな……』
「どうした? その犬の横に行けばいいのか?」
青毛とおっきなニンゲンのやり取りがゆっくりすぎて、どんどんニンゲンたちが集まってきちゃってるけど。正直そんなことは、今はどうでもよくて。
そもそもフィリベルトの居場所を知ってるのは、この中でクロだけなのに。おっきなニンゲンのせいで身動き取れなくなっちゃったんだから、どうにかしてもらわないと困るんだよね。
『そうだ。そうして、こう……手を鼻先に持っていってやって』
「む? こう、か?」
まだ怯えて動けそうにないクロの横に並んで、ゆっくりしゃがみ込んで。青毛に誘導されながら、ようやくクロの前に手を差し出したおっきなニンゲン。
いやもう、長いって。そんなに時間かけられないんだから、早くしてよ。
(って、本心では思っちゃうんだけどね)
今それを言ってもしょうがないし、文句はあとでも言えるから。
そんなことより、今はクロを安心させてあげるのがボクの役目だからね。
『クロ、大丈夫だよ。そのおっきなニンゲン、かなり配慮が足りてないだけで、怖いだけじゃないっぽいから』
『……そう、なの?』
『……随分と主をコケにされているような気もするが、今回は事実なので認めざるを得ないな』
不安そうなクロと、ちょっと不服そうな青毛だけど。
『青毛、苦労してるね』
『……否定はしない』
同情も込めたボクの言葉に、真っ黒な青毛はフフンとため息をついた。うん、やっぱり苦労してるんだね。
けど、そんなボクたちのやり取りを見てたクロが、ちょっとだけおかしそうに笑ってくれたから。きっともう、大丈夫な気がするな。だってほら、ちゃんとおっきなニンゲンの手のニオイを嗅いでるし。
『……うん、挨拶した。もう大丈夫』
『我が主が、失礼した』
『僕のほうこそ、ごめんね』
正直、今回クロは全くなにも悪くなかったとボクは思うんだけど。せっかくまとまりそうな感じなのに、それを壊すのもイヤだったから。
『クロ、いけそう?』
このままの流れで、フィリベルトのとこまで向かっちゃおうと思って声をかけたんだ。
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