4.しゃこうかいでびゅー
ボクとセレーナは、ずっと一緒。
そう、思ってたのに……。
『なんで!? もう夜だよ!? これからどっか行くの!?』
ここ最近、お家の中が色々と忙しそうなのには気づいてたけど。今日は朝からずっと、セレーナの周りはバタバタしてて。
それでもボクが出かける前までは、セレーナはいつも通りだったのに。
『ボクのこと、置いてくの……? なんで一緒に行っちゃダメなの……?』
帰ってきたら、すごく忙しそうにしてて。
全然かまってもらえないまま、いつの間にかキレイなドレスに着替えたセレーナが出かける気配を感じ取って、ボクは焦ってた。
「今日はよく鳴いていますね」
「きっと置いていかれると理解しているのね。賢い子だから」
どこか自慢気なセレーナが、そう答えてたけど。今はその言葉に喜んでる場合じゃない。
なんとかして出かけないようにしてもらうか、ボクも連れて行ってもらえるようにしないと。
セレーナがいないお家でお留守番なんて、絶対ヤダ!
『ねー、セレーナー。ボクいい子にしてるから、一緒に連れてってよー』
「ルシェ。私は今日、社交界デビューをするの。だからおとなしく待っていて?」
『……しゃこうかいでびゅーって、なぁに?』
足元にすり寄ろうとするボクを、いつも色々とお世話してくれるニンゲンが抱き上げるから。仕方なく鳴いてお願いすれば、セレーナからは知らない言葉が返ってくる。
意味は分からないけど、たぶんその『しゃこうかいでびゅー』のせいで、ボクは置いてかれそうになってるってことでしょ?
『じゃあ、それやめようよー。ボクと一緒にいてよー』
「ルシェは賢い子だから、分かるでしょう? ちゃんと帰ってくるから、いい子にしていてね?」
『わかんないよぉ』
必死に訴えかけるけど、諭すようにセレーナに言われて、頭を撫でられる。
ボクは知ってるんだ。こうなると、どんなに一生懸命鳴いたところで、要求は聞いてもらえないんだってこと。
「それじゃあ、行ってくるわ」
「行ってらっしゃいませ」
『セレーナー!』
案の定、ボクの必死の叫びは完全になかったことにされて。そのままセレーナは部屋の外に出ていっちゃった。
『うぅ……。セレーナ……』
「大丈夫ですよ。お嬢様は、ちゃんと帰ってきますから」
『……でも、全然かまってもらえなかった』
そのことが悲しくて、せめてセレーナの匂いだけでも感じたくて、ボクは下ろしてもらうために腕の中で体をひねる。
「あぁっ。危ないので、少し待ってください……!」
ボクの要求を理解して、そっと床の上におろしてくれたから。そのまま一目散にセレーナのベッドに向かって走り出して、ぴょんとその上に飛び乗る。
このくらいの高さなら、ボクにとってはあってないようなもの。
「あらあら。もう寂しくなっちゃったんですか?」
その言葉には答えずに、ボクはいつもセレーナが枕にしてるクッションの上で、真剣に寝床を作ってた。
前足でしっかりと踏みしめて、形を作って。ある程度満足したら、その場で丸くなる。
だってこうなったら、ふて寝するしかないんだもん!
「ふふ。ご自身の枕でフミフミして丸くなって寝ていたと知ったら、お嬢様はきっと喜びますね」
「ルシェはお嬢様に溺愛されているものね」
どこか微笑ましそうな声で、そんな会話が繰り広げられていたけど。ボクにはそんなこと、関係ない。
いや、まぁ、セレーナが喜んでくれるんだったら、いくらでもやるけど。
でもやっぱり、一人じゃ意味ないもん。
(セレーナ、早く帰ってこないかなぁ)
寂しくて、ふて寝を決め込んだボクは。まさかセレーナが、ニンゲンのオスに心を奪われて帰ってくるなんて、想像もしてなくて。
目覚めてすぐに盛大なショックを受けることになるなんて、夢にも思ってなかった。
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