12.一番は
とはいえ、フィリベルトが行方不明かもしれない事実は変わらないわけで。
お家に帰ってきたボクは、とりあえずお昼ごはんを食べてから、そのことはゆっくり考えることにして。まずは部屋の中にある紐を引っ張った。
それが、お昼寝する前のこと。
結局色々疲れちゃって、しかもお腹もいっぱいで眠くなっちゃって。もうこれはガマンできないなって思ったボクはセレーナのとこにも行かずに、部屋の中のクッションの上で寝ちゃってた。
たぶん雨が降るからっていうのもあったんだと思う。ちょっと体が重く感じてたし。実際、目が覚めた時はすでに外は暗くなり始めてて、耳をすませてみれば、水が地面にあたる音がしてたから。
『とりあえず、セレーナのとこに行こうかなー』
う~んと上半身を伸ばして、次に下半身を伸ばして足を伸ばして。最後にあくびを一つしてから、ボクはクッションの上から飛び降りて、寝る前と同じように紐を引っ張った。
この部屋から出るにはニンゲンを呼ばなきゃいけないから、仕方ないんだけどさ。外と部屋の出入りが自由な分、ちょっと面倒くさいよね、待ち時間があるっていうのが。
「どうしました?」
ボクのことが大好きなニンゲンが、優しい声と顔で扉を開けてくれる。その隙を見逃さずサッと部屋の外に出て、その足に頭をこすりつけた。
これでもう、このニンゲンはボクのお願いならなんでも聞いてくれる。
「あぁ~……! 可愛いですっ、ありがとうございますっ……!」
嬉しそうにしてる姿に、満足してるだろうから大丈夫だろうなって判断して、ボクはセレーナの部屋に向かって歩き出す。そうすると、すかさずニンゲンがボクの後ろをついてきて。
「お嬢様のお部屋に行きたかったんですね! 分かりました! お供します!」
こうやって、ちゃんとボクがなにしたいかを理解してくれるんだ。
これがなにも理解できないニンゲンだと、道中ずーっとどこに行きたいのかって聞いてくるんだよ。答えても理解できないのに、面倒くさいでしょ?
その分、理解が早いニンゲンだとホントに楽。時折後ろから「可愛いなぁ」とか「賢いなぁ」とか聞こえてくるけど、それだけだし。ホントのことだから、全然問題ないし。
なにより楽なのがね、一番大事だからね。
「お嬢様、ルシェがお部屋に入りたいそうです」
こうやってセレーナの部屋が近くなってきたタイミングで、ボクより先に部屋の前に行って確認してくれる。これがホントに、すごくいいの!
(やっぱり、セレーナの次にボクのことを理解してくれてるのは、このニンゲンのメスだよね)
ボクのためにって色々やってくれたから、そのお礼にもう一度足に頭をこすりつけてあげれば、嬉しそうに小声で「ありがとうございますっ……!」って答えてくれる。これだけ喜んでくれれば、ボクとしても嬉しいよ。
「お帰りなさい、ルシェ」
『ただいまー!』
でもボクの一番は、やっぱりセレーナなんだけどね。
両手を広げて優しい声で迎え入れてくれるから、ボクは当然なんの迷いもなくセレーナの腕の中に飛び込む。そのまま頭を撫でてくれる、声と同じくらい優しい手。
「今日は大冒険だったのかしら? それとも雨の前だから、お友達にご挨拶に行っていたのかしら? ルシェがこの時間までお部屋で眠っているなんて、珍しいものね」
ある意味間違ってないセレーナの言葉に、でもボクはなにも答えられなくて。
だって……! セレーナがアゴ下を撫でてくれてるから……! 気持ちよすぎて喉が鳴っちゃうし……!
(まだもうちょっと、そこ撫でててほしいもん……!)
だから、今日ボクが外でなにをしてたのかは、またあとで教えるね。




