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恋の成就も、ネコしだい?  作者: 朝姫 夢
第一章 ルシェとセレーナ
3/68

3.ネズミ

「それでね、そのレースの模様がとっても素敵だったのよ」


 撫でる手は止めないまま、一生懸命ボクに話しかけてくれるセレーナの最近のお気に入りは、新しいドレスの話題だった。

 なんでも、もう少しで『でびゅたんと』らしいんだけど、ボクにはよく分からないんだよね。ごめんね、セレーナ。

 それでも楽しそうに話す言葉に、撫でられてうっとりしながら目を閉じて耳だけ傾けてたら、部屋の前に誰かが立った気配がして。


「お嬢様、準備が整いました」

「まぁ、ありがとう。今から向かうわ」


 扉をノックして入ってきたニンゲンが、セレーナにそう告げた。

 その瞬間、優しく撫でてくれる手が止まったことに、ちょっと不機嫌になりかけたけど。


「今日はあたたかいから、ガゼボでアフタヌーンティーにするの。ルシェも一緒にどうかしら?」


 覗き込んでくる視線の優しさと言葉に、ボクの機嫌は持ち直して。


「んなぁん」


 セレーナの腕の中で、そっと手にすり寄った。

 それだけで、『行くー』と答えた意思はちゃんと伝わる。だって小さく笑ったセレーナが、ボクを腕に抱いたまま立ち上がったから。


「それじゃあ、行きましょうか」


 しかも今日は、セレーナが運んでくれるみたい。そうじゃない時は、別のニンゲンがボクを抱いて庭まで行くからね。


(このまま外でお昼寝かな~)


 あったかいし、それもいいかもと思うと、つい尻尾がユラユラと動いちゃう。

 だって大好きなセレーナと一緒だし、嬉しくないわけがないよね!


「ルシェのおやつも用意しなきゃダメよね」

「なぁん」

「うふふ。そうよね」


 「おやつ」という言葉に『やったぁ』と反応したボクに、嬉しそうに笑うセレーナ。


(セレーナのそばでおやつと昼寝つきなんて、最高だよ!)


 あんまりにも嬉しくて、たくさん頭をこすりつけてたら、いつの間にか目的地に到着してたみたい。

 本当だったら、このままセレーナの膝の上にいたいところなんだけど。こういう時はジャマにならないように、ちゃんと横にオスワリするのが大事。

 だってほら、そうすれば。


「まぁまぁ! ルシェったら、本当にお利口さんね!」

「ぅなん」


 ほらね。こうやって褒めてくれるし、撫でてくれる。

 食事の時にはジャマにならないように、ちゃんとおとなしくしてるとか。そういう細かい気遣いをすることで、もっともっとボクのことを好きになってもらえるんだ。

 それにこうしておけば、お家の中にいる時は基本どこにだって連れて行ってくれるし、ついていっても怒られないからね。

 だからセレーナの言葉にも、『もちろんだよ』って返すんだ。


「それじゃあ、いただきましょうか」


 でも。

 嬉しそうなセレーナの言葉に、返事をしようとした、その瞬間。ボクは、見てしまった。

 キレイに整えられた花壇から、別の花壇へと移動しようとしている、黒い影を。


「ルシェ!?」


 ソレ(・・)を見つけてしまったら、動かないわけにはいかない。

 突然走り出したボクに驚いたのか、セレーナが声を上げたけど。それすら気にせず、ボクは目の前の黒い影に飛びついた。

 前足でしっかりと押さえつけて、力の限り牙を立てる。そうすれば体の下のソレは、少しだけ甲高い声で鳴いて。でも次の瞬間には、動かなくなった。


(仕留めた!)


 それでも念には念を入れて、しっかりと首の骨を折って。

 そうしてボクは、ようやくソレを解放した。完全に息絶えて、目も口も開いた状態のネズミを。


「きゃあぁ!」

「誰か!」


 セレーナの周りにいたニンゲンたちは、ボクの下から出てきたネズミに驚いてるけど。セレーナだけは両手を口に当てて、ボクのことをじっと見つめてた。

 そのまま、ボクも同じように見つめていれば。


「ルシェっ……」


 小さく、ボクの名前を呟くセレーナ。

 その声は本当に小さくて、周りの騒がしさに消えてしまいそうなほどだったけど。ボクにはちゃんと、聞こえてた。

 だから。


「なぁん」


 ボクも小さく『なぁに』と返事をしてみせれば、潤んだ瞳がキュッと細められて。

 そうして、次の瞬間。


「すごいわルシェ! 偉いわルシェ! ネズミを退治してくれたのね!」


 ものすごく嬉しそうに、ボクのことを褒めてくれた。

 そのままボクのところまで駆け寄ってこようとしてたのを、周りのニンゲンたちに止められてたけど。

 たぶんあの感じだと、きっと周りが大騒ぎして慌ててたことに気づいてなかったんじゃないかな。セレーナって、そういうトコがあるから。


(ボクがカワイイから、つい夢中になっちゃうのは分かるんだけどね!)


 でもそれ以上に、セレーナはネズミが苦手なんだよね。昔、大事にしてたウサギのぬいぐるみの耳をかじられちゃったんだって。

 けど、安心して。ボクがそばにいる以上、ネズミは全部ボクが仕留めてあげるから。


「にゃぅん」

「うふふ」


 足や口周りをしっかりと拭かれてから、ようやくセレーナのそばに行くことができたボクが、『ほめてー』と頭をこすりつけて甘えれば。嬉しそうに頭を撫でてくれるセレーナ。

 ネズミを見ると、ついつい追いかけて仕留めずにはいられなくなっちゃうボクだけど。だからこそボクたちの相性は、最高なんだよね。

 ね、セレーナ。



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