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恋の成就も、ネコしだい?  作者: 朝姫 夢
第四章 力を合わせて

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8.ずっと垂れたまま

『あれ? 珍しいね』


 ビアンカが外の空気に少しでも触れられるように、寝室の窓はいつもちょっと開けてるんだってフィリベルトが前に言ってた。だからボクは、そこから毎回部屋の中に入ってるんだけど。


『あら、ルシェ。いらっしゃい』


 いつもボクがここに来る時、今までビアンカは必ず隣の部屋にいたのに。今日は初めて、ベッドの上で丸くなってる姿を見た。

 しかもその場所って、きっとフィリベルトが寝てるとこだと思うんだよね。


(ってことは……)


 もしかして、本格的に寂しくなってきちゃったのかな?

 きっと夜は、いつもこの場所で寝てると思うんだけど。昼間もここにいたくなっちゃうくらい、フィリベルトと会えない時間がつらいんだろうな。

 まさかセレーナに会いに行ってあげてって言われたその日に、ビアンカのこんな姿を見ることになるとは思ってなくて。逆にセレーナの勘がよすぎて、ちょっとビックリ。


『え、っと……ボクもベッドの上に乗るのは……』

『ダメに決まっているでしょう。今日はここにいたい気分だっただけ。ほら、行くわよ』


 伸びとあくびをしたビアンカに、念のため問いかけてみれば。当然、却下されて。

 しかもなんか、当然のように隣の部屋に向かって歩き出したんだけど。

 ベッドから飛び降りて、扉のすき間の向こう側へ消えてくビアンカ。その足取りは、ちょっとだけ重くて。


(尻尾も、全然上がってない)


 なんだかんだ、フィリベルトと一緒の時はピンと上がってたり、ゆらゆら揺れてたり。普段は感情表現が豊かな尻尾なんだけど。


(なんか、セレーナとおんなじ感じ)


 きっと、一番寂しくなるのは夜なんだろうな。特にビアンカは、ここで寝てるんだし。

 昼間はフィリベルトがいない時間のほうが多いから、まだ我慢できてるんだろうけど。本来なら、夜はずっと一緒にいられるはずなんだもんね。


『ルシェ? なにをしているの? 来ないの?』

『あ、ううん。今行く』


 ビアンカがどんなふうに過ごしてるのかを考えてたら、なんだか切なくなっちゃって。でもそんなボクの様子に気づかないまま、ビアンカが向こうの部屋から呼ぶから。


(せめて少しでも、気が紛れるといいな)


 なんて思いながら、ボクも扉のすき間を通り抜けた。


 それが、五日前のこと。


『……え? ごめんビアンカ、もう一回言って』

『だから! 本当なら、昨日の夕方までには戻ってくる予定だったの!』


 確かにフィリベルトは、十日以内には戻ってくる予定だったはずで。そして言われてみれば、その十日は昨日で過ぎてた。


『連絡もないのに予定日数で帰ってこなかったことなんて、今までなかったのに……』


 不安と心配で、昨日の夜からあんまりごはんが食べられなかったらしいんだけど。そんなビアンカを見かねて、この部屋に出入りしてるニンゲンが「必ずお戻りになられるから大丈夫」って言ってきたんだって。

 そのニンゲンはきっと、ビアンカを安心させようとしてくれたんだろうね。でもそれが逆に、彼女の不安感をあおったらしくて。


『遅れる時は、ちゃんと連絡があるはずなの。それだって、毎回ワタシにちゃんと伝えてくれるのに』

『今回は、それもなかったんだ』


 ボクの言葉に頷くビアンカの尻尾は、もうずっと垂れたまま動かない。


『ねぇ、ルシェは外にたくさんの友達がいるんでしょう? だったら、フィリベルトが今どうしているのか情報だけでも手に入れることはできないの?』

『う~ん……』


 やろうと思えば、できるのかもしれない。でもそれって、ニンゲンがその情報を持ってたら、の話なんだよね。

 ただ、こんなに心配そうなビアンカを前にして、そんなことをわざわざ口に出す必要もないし。それよりも。


『分かった。ちょっと調べてみるね』

『ありがとう』


 今は少しでも安心してもらって、ちゃんとごはんを食べてもらわないと。

 だって、もしこれで明日にでもフィリベルトが帰ってきたら、今度はビアンカが心配されちゃうんだから。


(とりあえず、まずは小鳥たちに協力をお願いしようかな)


 それと、ボクも色んなニンゲンのいる場所をまわってみよう。特に、フィリベルトがよく行ってた場所を中心に。

 そう決めて部屋をあとにしたボクは、フィリベルトの今の状況を探るため、情報収集に向かったんだ。



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