表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋の成就も、ネコしだい?  作者: 朝姫 夢
第三章 恋文くわえて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/68

4.違う雰囲気

『そっかー』

『確かに迷子を送り届けたこと、何回かあるかもー』

『え!? そんなことあるんだ!?』


 ちょっとした冒険のつもりが、遠くまで行きすぎて帰れなくなっちゃうことがあるんだって。

 普通は縄張りの外に行こうとすることって、なかなかないんだけどね。そういうネコが、時折いるらしいんだ。


『そっかー。だから名前入りなんだね』

『ニンゲンが迷子札って言ってるのも聞いたことあるよー』

『ねー』

『迷子……』


 それはちょっと、不名誉な呼ばれ方だなとは思うけど。そういうネコがいる以上は、仕方がないのかも。


『あ、ルシェあそこー』

『え?』


 首輪のことを話してたはずなのに、唐突に立ち止まってボクとは反対側に首を向けられたから、思わずその視線の先を追って。


「その件は、先日ようやく終了したばかりだ。さすがに今すぐにというのは、急ぎすぎだろう」

「ですが……」

「そもそも、こんなところで話すべき内容ではないはずだが?」

「っ……。失礼、いたしました」


 ビアンカと一緒の時とは全然違う雰囲気の、キリッとしたフィリベルトの姿を見つけた。

 ボクが知ってるのは、あんなに真剣で真面目な表情のカッコイイフィリベルトじゃなくて、もっとだらしない顔をしてる状態だけだから。これだけ見ると知らないニンゲンみたいで、ちょっとビックリする。


『お仕事中なのかなー』

『ねー』


 でも小鳥たちの会話に、そっかこれがセレーナが好きになったフィリベルトの姿なんだって、ちょっと納得しちゃった。

 結局そのまま、向こうはこっちに気づかなかったし、ボクも声をかけなかったから、建物の中に消えてっちゃったんだけど。


『なんか、意外』


 もしかしたらニンゲンからすると、今のフィリベルトの姿のほうが見慣れてるのかも。

 ボクにとっての普段のフィリベルトって、どうしてもビアンカと一緒の時のあの姿だから、今までちょっとどうなんだろうって思う部分もあったけど。今の感じなら、セレーナのこと任せても大丈夫かもしれないって、初めて思えたよ。


『ルシェー?』

『行かないのー?』


 フィリベルトがいなくなったあともその場所を見続けてたら、先に進み始めてた小鳥たちに呼ばれちゃった。ちょっと考えごとに集中しすぎてたみたい。


『今行く!』


 そのあとは、最近戻ってきた渡り鳥が山の向こうは雨がすごかったって言ってたとか、今年のごはんは特別美味しいだとか。そんなふうに、なんでもない会話を交わしてると、気がつけば目的地はすぐ目の前だった。


『おしゃべりしてると、あっという間だね』

『ねー!』

『すぐだねー!』


 ボクはいつものように木の枝を伝って、開いてる窓へと飛び込む。


『それじゃあ、ワタシたちはごはん食べてくるからー』

『またねー』


 どうやらボクを見つけて、おしゃべりに付き合ってくれてたらしい。それだけ言い残した彼女たちの姿は、振り返った時にはもうなかった。


『……悪いことしちゃったかな?』


 とはいえ、彼女たちはボクよりも自由で気まぐれだから。きっとおしゃべりが楽しくて、ここまで一緒についてきてくれたんだと思う。

 空腹をどうにかするほうが先なのは、誰だって一緒だもんね。だからきっと、そんな気にしなくていいはず。そう結論づけて、ボクは扉の向こうへと体を滑り込ませた。


『あら、ルシェ。いらっしゃい』


 ボクの存在に気づいたビアンカが、いつものように迎えてくれる。

 残念ながら、彼女がボクのところまで下りてきて挨拶してくれたことは、一度もない。それはそうだよね、ここは彼女の場所なんだから。縄張りに入ってきてるのは、ボクのほう。

 それをちゃんと分かってるボクは、ビアンカのいるとこまで上がっていって、鼻先を近づけて挨拶する。ついでに、ご機嫌伺いの毛づくろいもしておくことにした。


『どこがいい?』

『ん~~。じゃあ今日は、アゴ下』


 頭を少しだけ舐めてから聞けば、そんな答えが返ってくる。そのままその場所にゴロンと寝転がったビアンカのアゴ下を、ボクは要望通りしっかり舐めることにした。

 ここって、毛づくろいしてもらえると気持ちいいんだよねー。自分ではどうしてもできないから、誰かにやってもらいたい気持ちはすっごくよく分かるよ。ボクもセレーナに撫でてもらってる時に、ここもやってもらえると気持ちよすぎて、思わず今のビアンカと同じ格好になっちゃうもん。


『ん~~』


 満足そうなビアンカが、前足をぐーっと伸ばす。けど、まだ起き上がるつもりはないらしい。


「おや? 今日も遊びにきていたのか」


 ついでだし耳の中もキレイにしてあげようかな、なんて思ってると、扉の向こうからフィリベルトが姿を現した。外はまだ明るいから、休憩時間にビアンカに会いにきたってところかな。

 もしかしてさっきあの場所にいたのも、この部屋に戻ってくるためだった?


「最近ビアンカがご機嫌なのは、私がいない間も君が来てくれているからなんだろうね」

『そうなの?』

『別に。暇つぶしにはなってるけど、それだけよ』


 フィリベルトの言葉の真偽を確かめてみようとしたんだけど、結局尻尾をひと振りしたビアンカに、素っ気なくそう言われるだけで終わっちゃった。

 でも、暇つぶし程度でも役に立ててるならいいかな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ