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恋の成就も、ネコしだい?  作者: 朝姫 夢
第一章 ルシェとセレーナ
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1.ルシェ

 新作は猫が主人公です!

 よろしくお願いします!(>▽<*)



 昨日の雨がウソのように晴れ渡った青空の下、ボクは気持ちいい外の風を浴びながら、足取りも軽く街の中を歩いてた。

 ポカポカ陽気が最高で、思わず尻尾もご機嫌に揺れちゃう。


「あ! ねこちゃん!」

「あら、本当。首にリボンをしているから、きっとお貴族様の飼い猫ね」

「そうなの?」

「えぇ」


 聞こえてきた声は、明らかにボクに向けられてたけど。


(ニンゲンの子どもって、乱暴なのもいるんだよなぁ)


 少しだけ高い場所を歩いていたおかげで、無理に触ろうとも執拗(しつよう)に追いかけてこようともされなかったのは、救いだったかも。


「ねこちゃん、かわいいねー!」

「そうね」


 むしろ、ボクのことをカワイイと言ったところは、褒めてあげてもいいくらい。

 だから、ちょっとだけ特別に。


「にゃぁん」


 小さな声で、ひと鳴きしてあげた。


「わぁ! ねこちゃん、おへんじしてくれた! かわいいねぇ」

「ね。声も可愛い子だね」


 当然でしょと思いながら、さっきよりもしっかりと胸を張って堂々と歩いて、その場を立ち去る。

 そもそも、ボクがカワイイのは当たり前。ボクのことを一番に可愛がってくれるセレーナは、この毛並みも瞳も褒めてくれるし、いつも「賢い」「可愛い」って喜んでくれるんだから。

 セレーナが言うには、ボクのフワフワの毛並みはルディというらしい。瞳の色もグリーンって言ってたかな。よく分からないけど。

 でもいつも「綺麗ね」って言ってくれるから、ボクの自慢なんだ。


『あれ? 今日はいないのかな?』


 そんなことを考えながら、いつもの路地裏を覗き込んでみたけど。そこにお目当ての存在が見当たらなくて、思わず呟いたボクの声に。


『ルシェ?』


 予想していなかった方向から返事があって、つい飛び上がっちゃった。本当に、真っ直ぐ上に。


『び、っくりしたー! もー! 驚かせないでよ!』

『ご、ごめんね。そんなつもりじゃなかったんだけど……』


 申し訳なさそうに小さく鳴くのは、ボクよりもずっと大きい体をしている存在。体中汚れているから色はよく分からないんだけど、見た目と鳴き方からイヌなのは間違いない。

 ただ他のお家にいるイヌたちとは違って、どこか自信なさげにいつも鼻先を落として背中を丸めてるのが、ちょっと気になる。一応、病気ではないって言ってたけどね。

 ちなみにニンゲンたちには「クロイノ」って呼ばれてるけど、ちょっと長いからボクは縮めて「クロ」って呼んでる。

 実際にはどれも本当の名前じゃないらしいんだけど、クロはあんまり詳しいことは教えてくれなかった。


『あれ? クロちょっとだけキレイになった?』

『あ、うん。あったかくなってきたから、昨日の雨で少し水浴びしてたんだ』


 よくよく見れば、確かに雨が一番当たる上のほうがよりキレイになっていて、逆に足元は泥がはねたせいなのか、さらに汚れているようにも見える。

 ボクはお家に帰ると、いつも同じニンゲンに捕まって足を拭かれるんだけどね。クロは外で生活してるから、きっとそういうニンゲンが存在してないんだろうな。

 優しいニンゲンが時折ごはんをくれるらしいけど、家の中には入らないようにしてるって前に言ってたし。


『ところで、僕になにか用事があったんじゃないの?』

『雨、大丈夫だったかなって思ったんだ。けど、う~ん……。ねぇ、クロ。やっぱり、ボクのお家に来ない?』


 あったかい寝床があって、おいしいごはんが出てきて。今のクロの生活よりも、ずっと楽しくて優しくて、安心できる場所。

 昨日が雨だったからちょっと心配で、外に出たついでに寄っただけだったんだけど。やっぱりこの姿を見ると、どうしても放っておけない。

 でも、クロからの返事は毎回同じ。


『……ごめんね、ルシェ。君のところのご主人様は、すごくいい人だと思うけど……。僕なんて、いても迷惑なだけだろうから』


 困ったような顔をして、普段から下がっている耳をさらに下げて尻尾をだらんと垂らしながら、決まってそう言うんだ。

 だから今日も、ボクはいつもと同じようにこう告げる。


『セレーナは優しいから、迷惑だなんて思わないよ! クロの決心がついたら、いつでも言って! ボクがお願いすれば、なんでも叶えてくれるんだから!』


 そうすれば、クロの尻尾が少しだけ上がることをボクは知ってるから。

 たぶん、過去にイヤなことがあったんだと思う。そうじゃなければ、クロがボクの提案を拒否するなんて普段ならあり得ないし。

 だから、今すぐにじゃなくていい。いつかでいいから。


(ボクのお家で、一緒に遊びたいなぁ)


 そんな日を夢見ながら、ボクは一日ぶりにクロとおしゃべりを楽しんだ。



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