表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Endless The Moon  作者: 星羅
5/13

5.金色の吸血鬼 Written by Riza


あたしは、子供の頃からずっと探していた。

ばあちゃんがいってた、この街に時々現れるという"金色の吸血鬼"を――…



月が顔を見せたと同時に、あたしはタバコとライターだけを持ち古い宿屋の外へ出る。

少し色褪せたスリット入りのワンピース。大きく開けた胸元。

タバコと酒で荒れた肌を隠す為の、派手な化粧…鏡にうつるその姿は、まさにそれだ。

誰もが一目でわかるだろう。――あたしが薄汚い娼婦だと。


この街にはあたしのような女がいっぱいいる。

夜になると同時に街へ繰り出し、男を誘うのだ。

誰でもかまわない。まだ成人もしていないような子供だろうと、じじいだろうと

明日暮らしていける金をくれるなら、誰でもかまわなかった。


その日もあたしは、いつものようにタバコを咥えて、街を歩いていた。



「ねえ、ちょっと、そこのお兄さ――…、…」

通りすがった若い男の腕を掴んだが、腕を振り払われてしまった。

別にいつものこと。あたしは特に気にもせず、タバコを吸う。


――毎日何も変わらない日々。

夜になったら客を捕まえて、今日の宿代と明日の食事代を確保する。

男によって抱き方はそれぞれだったが、あたしにとってはどれも同じだった。


こんな生活をするようになったのは、2年前、あたしをそれまで育ててくれた

ばあちゃんが死んでからだ。 ばあちゃん、といっても血の繋がりはない。

幼い頃親に捨てられたあたしが泣きながら森を歩いていた所、ばあちゃんに助けられた。

ばあちゃんはあたしを可愛がってくれた。あたしは親が恋しいなんて思ったことは

一度もなかった。 


あたしのばあちゃんは、吸血鬼ハンターだった。

もちろんばあちゃんは普通の人間だ。だけど、どういう訳かはわからないけど ばあちゃんは吸血鬼をひどく忌み嫌い、その退治に携わっていた。


ある夜、ばあちゃんは帰ってきて、まだ6つか7つのあたしに言った。

「リザ。ばあちゃん、初めて吸血鬼を退治できなかったよ」

幼いあたしは訳がわからず、ばあちゃんを見上げた。

「失敗したの?」

ばあちゃんは首を横に振った。

「違うよ。その吸血鬼は…ばあちゃんの知ってるような吸血鬼じゃなかったんだ。 美しい金色の瞳に、哀しみだけを浮かべていた…。哀しみだけを背負って生きているような…とにかく、あたしはその吸血鬼に手を出せなかったんだ。 うまく、いえないけどね。」

ばあちゃんはあたしの頭を撫でながら笑った。



そしてその翌年のある夜も、ばあちゃんは帰ってきてこう言ったんだ。

「リザ。また、あの吸血鬼にあったよ。金色の吸血鬼。」

「また居たの?今度は殺した?」


「…いや、やっぱりあの吸血鬼だけは手出しはできない。何か…他の吸血鬼とは違うんだ」


そしてその何年か後にも――その吸血鬼はこの街に現れたという。

それも、きまって月が満月になる頃に。 手には一輪の白い花を持って。


あたしはいつしか、その吸血鬼に会ってみたいと思うようになった。

特にばあちゃんが死んでからは、ずっと探している。

会ってどうする――と言われれば、別にどうもしない。

ただ、ばあちゃんが殺せなかったという吸血鬼に会ってみたいだけだ。

餌食にされてしまうかもしれないという恐怖はなかった。

あたしは、死を恐れてなんかない。

こんな生活を続けるくらいなら、いっそのこと殺してくれと思う。



あたしはその日、二本目のタバコに火をつけるところだった。

目の前を横切った金色の長い髪に、鼓動がドクンと一つ飛ばして打った。

そして、気がついた時には駆け出してその腕を掴んでた。


「ねえ、ちょっと…!!!」


あたしの声に、男がゆっくりと振り向く。


金色の瞳に、金色の長い髪。

この世のものとは思えない美しい顔が高い位置からあたしを見下ろしていた。


――間違いない、とあたしは直感した。



「…悪いけど、今夜はそういう気分じゃないんだ。」

あたしが何て声をかけようか迷っていると、商売だと勘違いした男がニッコリと微笑みながら

あたしの腕を振り払おうとした。あたしは慌てて首を横に振る。

「違う!たしかにあたしは娼婦だけど…商売じゃない。あたしは多分、あんたをずっと探してた。」

あたしの言葉に、男は目を丸くした。

「すまない、どこかで会った事あったかい?」

男は端正な顔に申し訳なさそうな色を浮かべた。

あたしはその質問には答えずに、ばあちゃんが殺せなかったという男の金色の瞳を見つめ言った。

「ねぇ、あんた、吸血鬼でしょ? 」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ