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Endless The Moon  作者: 星羅
13/13

13.過去と現代と Written byRairu

「…ライル?どうかしたかい。」

レイ様の言葉で私は我に返った。

「あ…申し訳ありません。昔の事を思い出していました。レイ様と過ごした日々の事を…」

レイ様のカップが空になりかけているのに気がつき、慌てて紅茶を注いだ。

「そうかい。ありがとう。」

金色の瞳を細めて上品に微笑むその姿は、昔とまるで変わらない。

今はもう主人ではないと言われても、レイ様はやはり私にとっては今も昔も主人だ。


――けれど、この違和感は何だろう。


レイ様と私が過ごした日々はもう数百年も昔の事だけど、私はまるで昨夜の事のように鮮明に覚えている。レイ様と毎晩行った居酒屋も、初めてレイ様が私にリーシャ様を紹介して下さった時の事も忘れた事はなかったのは、あの頃の私が私の人生の中で一番自分らしく生きたからかもしれなかった。



しかし、その当時のレイ様と今目の前にいるレイ様を照らし合わせてもどことなく違和感を覚える。 美しい容貌も、月色の瞳も変わらないが――何か、言葉に言い表せない何かが違う。完璧な微笑みの裏には何か私には想像もつかないような暗く重いものがあるような、そんな気がしてならない。


あれから二人がどうなったのか気になるが、何となく聞いてはいけないような気がした。


「レイ様は…今、何をしてらっしゃるのですか?」

ふと訊ねてみる。貴方は今幸せですか、レイ様。

「ボク? 特に何も。 …宛てもなく旅をして、飽きたら眠って…起きて、その繰り返しだよ。 ライルはいつこの本屋を始めたんだい?」

「私は…屋敷をラザロア様に追放されたあと、しばらくは別の純血吸血鬼の家で執事として生きていました。ですが今から百年前くらいでしょうか。その主人が外出中にハンターによって封印されてしまいまして、私は生まれて始めて自由の身となりました。」

それまでは誰かに仕える事が当たり前であったのが、私の人生だった。

主のいない自由の身となった時は何とも言えない複雑な気分になったものだ。

「…それから、しばらくはいろいろな街を転々としていたのですが…とある縁でこの本屋を任され、始めました。 勿論こんな場所にあるので客など滅多に来ません。でも…それで良いのです。 何年経っても店主が老けていかないなんて、おかしいですから。」

私の目的は本を売ること、つまり、商売ではない。

ただ、本が好きだから、退屈しない場所が欲しかっただけである。

とはいったものの、此処にある本のほとんどはもう読んでしまったが。

「君は昔から本が好きだったからね。いつもボクに面白い本を薦めてくれた。」

レイ様が昔を懐かしむように言った。

「あ…はい、そうでした。 でもそろそろここも潮時かなって思っているんです。最近はこの辺で聖職者の方をよく見かけますし…もしかしたら気がつかれているかもしれませんね」

紅茶を啜りながら言った。

混血の吸血鬼、特に私なんかは人間の血の方が濃いので外見上も生活上も人間とほとんど変わらない。血が必要となる時は怪我をした時くらいであるから、普段は血が欲しいなんて思った事もない。最後に血を口にしたのもいつか分からない。けれど、それでもやはり魔物である事には変わらない。 太陽が出ている時は外に出れないし、聖水を浴びたり心臓を貫かれたら死んで――いや、滅びて、しまう。  


「…もう大分生きましたし、滅びても特に悔いはないんですけどね」

なんて笑いながらも、聖職者やハンターから身を隠して生活しているという矛盾。

滅びるのはやっぱり怖いというのが本音。

人間が「死」を怖がるのと同じ感覚。


「…まだ、純血の吸血鬼は残っているのでしょうか。」

ふと気になって訊ねてみた。

レイ様は、「さあ」と言って笑った。

「残っていたとしても、皆人間の生活に溶け込んでいる。吸血鬼が人間を支配するような時代はとうの昔に終わった。」

吸血鬼界でも階級制度や厳しい掟があった時代。

あの頃はおそらく吸血鬼という種族が一番栄華を極めた時代だったと思う。

時代は繰り返されるとよく歴史書で読むが、そんな時代が再び訪れる事はあるのだろうか。

「フォルティンネン家の方々…、ラザロア様やルイ様は…?」

ラザロア様はレイ様のお父様であり吸血鬼界の王と呼ばれた最高峰の吸血鬼であった。

ルイ様はレイ様のお兄様だ。ルイ様はレイ様とまるで正反対の性格であった。

ルイ様は血をこよなく愛し、人間を嫌い、何よりプライドの高いお方であった。

「二人ともおそらく封印されている。といっても…ボクも長い間封印されていたから、分からないのだけれどね…」

「え?レイ様が、ですか?」

私は驚いて聞き返した。

レイ様は静かにカップをソーサーに置くと、壁にかけてある時計を見上げた。

「…君が出て行った後何があったかを話したら朝になってしまうかもしれないね。でも…君には、話そう。全てを。」


私は体中に一瞬で緊張が走るのを感じ、ごくりと息を呑んだ。


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