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7 パンプル、いや、メイクアップ♡、それとも大穴でリリカルトカレフ!?  

 背丈を越える、ねじくれた杖。

 幾何学模様に隠されて、呪陣が彫られた腕輪。

 (ちい)さくも隙間なく、精緻に呪文が刻まれた指輪。


「変身機能は、まだ無理か……」


 魔法の為の補助道具。日の差さぬ地下の一室の、机の上に並べられたソレら。


 魔法を先天資質、特殊な才能としか捉えず。

 本能と勘で行使するだけで、伸ばすことも、工夫することも、ましてや補完するなど。

 一切考えられなかった、そんな時代に。


 杖で指し示せば、魔法の指向性が補われた。

 指輪をはめれば、魔法の威力が底上げされた。

 腕輪をはめれば、操作(コントロール)(つたな)さが制御された。


 世に出れば、それこそ国を興し、あるいは滅ぼし。

 そして、確実に世界を戦乱の坩堝(るつぼ)に叩き落すであろう品々を前に。


知性ある(インテリジェンス)魔法補助具(・デバイス)の道のりは、遠い……」


 様々な道具が所狭しと置かれた地下の研究室で、灰色の貫頭衣に薄茶の簡素なエプロンを腰に紐で括り付けた青年が、肩を落として力なく呟いた。

 綿毛のようなふわふわの髪に、薄い青灰色の目をした、色味の薄い青年だった。

 色味どころか、上背も無ければ厚みもなく、全体的に「薄い」印象の青年だったが。


「いや、がんばれ、僕。

 ええと……。

 逃げちゃだめ……いや、なにか、ちがう。

 あきらめたら……そうだ、これだ!

 あきらめたらそこで試合終了ですよ、だ。

 がんばれ、僕!」


 頭の中身は、素晴らしく「濃い」ようだった。



    ◇    ◇    ◇



 力も弱ければ、体も弱い。

 多少、水が出せて、火が点けれて、風で涼がとれて、穴掘りが早かろうと。

 手のかかる荷物を抱え込む余裕なんて、借金で首が回らなくなった一家には、一カケラもありはしなかった。


 力も強ければ体も頑丈な兄弟は、どこかへ出された。

 顔もキレイで体も丈夫な姉妹は、どこかへ売られた。


 ミソっかすな僕は放っておかれて、置いて行かれた。


 歩くに任せて、辿り着いた町外れ。

 崩れかけの洞穴で、雨をしのごうと思ったら。

 僕のほかにも、子供たちがいた。


 枯れ木集めて火を点けて。

 洞穴掃除に風を吹いて。

 畑づくりに手を貸して。

 水まきも手伝って。


 大した力のない僕は、力が無いなりに、満遍なくたくさんのことができた。

 それに。

 小さな子が。本当に、まだ小さな子が。

 何でもできる、器用がすぎる、すごい、かっこいい、大器晩成の万能型だと。

 追放系万能支援型主人公みたいだと、キラキラした目で見上げてくれて。


 僕は、生きていてもいいんだと、そう思えた。


 そして、夜。

 僕は、魔法じゃない魔法を、初めて知った。


 あの子が話し始めれば。

 目の前には、白いウサギ、卵の紳士、しゃべる猫。


 あの子が語り始めれば。

 杖がしゃべり、カードが光を放ち、ネックスレスが形を変えて、武器となって魔法使いの少女たちを助けて戦った。

 

 話が進むにつれて。

 連れていかれる雲の上、眺め見た世界の果て、聞こえてくる星の歌。


 泣いて、笑って、恋をして、命をかけて戦って、死んで、生まれて、生きて。

 

 大した力のない僕と違って。

 あの子は、まだ本当に小さいのに。

 どんな魔法使いだって敵わない、世界最高の魔法使いだと、僕は思った。


 ◇  


 さて。名前、熟考するとは言ったけど。

 僕も、好きな物語にちなんだ名前が良い。

 不思議な物語を紡いだ、偉大なストーリーテラー。


 チャールズ・ラドヴィッチ・ドジソン。

 これだ。


 ルイス・キャロルと思ったけど。

 なんか女の子っぽい。

 だから、チャールズ・ラドヴィッチ・ドジソン。

 省略して呼ぶなんて不敬は許さない。

 

 チャールズ・ラドヴィッチ・ドジソン。


 ……うん、長い。

 寿限無かな。

 何かあった時、名前呼ばれてる間に、僕、死ぬね。


 もうちょっと、呼びやすい名前。


 魔法使いの少女たち……女の子の名前はイヤだ。

 じゃあ、サーコート仮面……服と仮面がつく名前ってどうだろ。

 

 ううん、仕方ない。残念だけど、魔法少女から離れて。

 勇ましい名前は。


 ドン・キホーテ……最後の方がちょっと。

 ヨシツネ……最期が。

 シーザー……なんで英雄って、悲劇になるの。


 ううん、仕方ない。残念だけど、英雄から離れて。

 幸せな名前は。


 しあわせ、幸福……幸せでない王子様しか思いつかない。泣くよ?

 しあわせ……青い鳥って、結局、逃がしたよね。 


 でも、青い鳥なら。

 幸せは手に入らないけど、実は近くにあるって、まさしく今の僕だ。

 あ、でも、青い鳥を欲しがったのって、魔女だっけ。


 魔女といえど、女の子の名前はイヤだ。


 ええっと、名前、ぱっと出てくる男の子っぽい名前。

 スーホ、パトラッシュ、ジョン、ワンリー、トンキー。


 ……名乗ったら、泣く。みんなも、僕も。


 うん、ちょっと一旦、名前から離れて。

 ええと、僕は、これから多くの杖を作る。

 知性ある魔法の杖への道のりは遠いから、それはもう、数えきれないほどの作品を作ることになると思う。


 多作の作家。

 シェイクスピア、キミに決めた!

 

 でも、シェイクスピア、だと、そのまますぎる。

 ウィリアムで。


 あの子に話してもらった物語は、今も心に響いてる。

 あんな風に。

 心に残る作品を、僕は残せるかな。


 いつか――百年も経てば、もしかしたら「お嬢様」みたいに、話すようになるかもしれないけど。


 捨て置かれた僕を、喜んで迎え入れてくれたみんな。


 みんなに、相棒、って思ってもらえる知性ある(インテリジェンス)魔法補助具(・デバイス)を、僕は今、渡したいんだ。



    ◇    ◇    ◇



 ある昼下がりの、休憩室で。


「まだ変身機能なくて、未完成だけど。これ、腕輪型、こっちは杖型と指輪型」


「まぁ、ありがとうございます。ふふっ、これなら、棍を振っても大丈夫ですわ」

「俺は、杖! このねじくれ具合、かっけぇー!」

「こぉら、振り回すんじゃない。

 誰も取らないから、落ち着けー」


「わぁ、この腕輪、動物が描いてあるー、やったあ!」

「あら、指輪ね。オシャレと見せかけて、実は、なのね。なんて素敵」

「物騒」


「あ、護衛の分は、その二つ?」

「うん、二人分、今から持ってく」

「ああ、いってらっしゃい。そうだ、杖、ありがとう」


 渡された「魔法の杖」を、仲間たちが声を上げて喜ぶ。

 その喜びの声に、口元を緩ませて。

 綿毛の頭が、ふらふらと揺れながら休憩室を出て行き。


 扉が、ぱたん、と閉められた。


変身! 蒸着! 方面には進まなかった模様。ファンタジーなので魔砲少女なのです。

なお、ノモラカタノママー! は種類が違うな、と省きました。

リリカルトカレフは一応、分類的には合ってる、はず。

絵本ファンにはピンとくる名前、ジョン、ワンリー、トンキー。

「かわいそうなゾウ」の名前です←大人、とくにペットの飼い主を泣かせにかかってくる絵本、と思いました。

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勇者と聖女の話
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この題名でジャンル文芸な話(ファンタジーざまあなし)
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― 新着の感想 ―
[一言] リリカルトカレフ〜肉体言語〜♫は確かに魔法少女…血塗れだけど! 僕と契約して魔法少女にならなくてよかった…!
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