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1 どこの誰ともしれないあなたへ

はじめまして、あるいは、二度目まして。

一話目は、過去作品の再録です。二話目から、新作となります。


なにやら転生者が、真夜中にボトルメールっぽいものを川へ流したようです。

 葉っぱの箱の中に、こんな手紙が入っててびっくりしましたか? 


 本当は、ガラス瓶の中に手紙を入れて海に流すボトルメールを気取りたかったんですが、ガラス瓶は高いし、海は遠いし。

 なので! 

 葉っぱの箱を作って川に流すという、お手軽な方法を取りました。


 まぁ、読んでください、わたし、ほんっとに、凡才なんですよ。

 あ、書いておきますが、普通だとか平凡だとかいいつつ、実は才能の塊とか努力の天才とかいう、モブモブ詐欺じゃありません。

 ほんっとに、無能寄りの普通、なんですよ。


 火が、オレンジより青いほうが高温、白かったらもっと高温。水の状態変化は分子運動のせいで、水蒸気も氷も水が姿を変えただけ。

 沸点、融点、ああ、懐かしい中学校一年生。


 誰だって知ってることです、令和の日本で普通に教育を受けていたなら。

 まさか本当に、魔法上等のファンタジー世界に、科学万歳な記憶持ちで転生するなんて思いませんて。


 しかも、魔法な世界のくせに物理法則も仲良く元気に同居しているようで、ファンタジーの上に少し不思議なえせえふをまぶした摩訶不思議な世界が、ここに生息していました。


 令和日本の記憶持ちには、やってられっか、な世界です。


 人には魔力が備わっていて、着火とか弱い魔法はほとんどの人が使えるとか。攻撃魔法が使えるぐらい強大な魔力持ちは希少で、ほぼ貴族しか使えないだとか。


 ファンタジーあるある、な世界の中で、わたしは、何一つ、使うことができませんが、なにか?


 口から火を噴くのはタネあるあるの大道芸だし、傷から流れる血が止まるのは癒しの魔法なんかじゃなくてただの収斂作用に血の凝血、ぜんっぜん治ってないから、とか。

 令和の日本人なら、普通、そう思いますよね。


 どうやって、手から、火が、出るのさ?


 ありえないことを発生させる、それこそが魔法。

 だから、魔法、と思ってしまう時点で、ありえないことで、できないことなんですよ。


 魔法はイメージ! アニメでよく見た!

 吹けよ風! 呼べよ嵐!

 暗記した呪文を今こそここに!


 でも残念!


 画面向こうのイメージは、推しキャラ込みです、自分じゃない。

 というか、わたしが使うのが魔法イメージ的に解釈違いみたいで、再現できません。

 かっけー呪文を使いたいのに、使いたいなぁ、という願望が混じってしまう時点で、願望イコール「使えないけど使いたいなぁ」とすでに不可能を先にイメージしてしまってるみたいでですね、はっはっは。


 うん、泣いていいかな?


 こんな何の役にも立たないわたしは、まぁ、案の定捨てられましたが、他にもそこそこ食うや食わずの子供たちがいまして。

 最初は子供四人で、町の外れに塹壕っぽい竪穴式住居的な半地下掘っ立て小屋、しかも崩れかけ、に住み着いて、餓死一歩手前で生きていましたね。

 さすがにこれは死ぬ、と思いましたが、魔法一つ使えないわたしには何もできず。仕方ないので、みんなを褒めて、褒めて、褒めまくりましたよ。

 そもそもみんな、小さいのに魔法使えるんです。もうそれだけですごいですよね?


 火、点けれる、すごい!

 火の色って変えれる? 木を取ってくるね。


 小石を跳ねさせるの、すごい!

 土って、砂粒、つまりは小さな小さな石の集まりだよね、動かせれるんじゃないかな。

 小石取り除いて、畑をふかふかな土にしようよ。


 手の平いっぱいの水出せるのすごい!

 手洗い大事。実は空気中にも水ってあるから、集めれたら便利だよね。


 そんな風に褒める一方で、夜の眠る前は楽しい布教のお時間です。

 それはもう、いろんな話を語りに語りました。

 ついでに覚えている呪文を炸裂させましたが、なにも起りませんでした、ふっ。


 そんなふうに、いつ死ぬかとびくびくおびえつつ生きていたら、わたし以外の三人、魔法の才能がありやがりましたよ。


 しかも、ものすっごく、特大の貴族級、へたしたら王族級ぐらいに。


 いつの間にか、一人は森に行ってイノシシ一匹丸焼きにして帰ってくるし。

 いつの間にか、一人は土を操って広い畑を耕していて。

 いつの間にか、一人は大量の水を生み出して、広い畑に水を撒き散らしていて。


 もう死に怯えることなく余裕で自給自足できるなぁ、と遠い目になった私を許してほしいです。

 そして、その頃には他にも子供が集まってきていたのですが、その子供たち全員が全員、魔法の才能を発揮し始めたんですよ。


 しかも、ものすっごく、特大の貴族級、へたしたら王族級くらいに。


 なにこの既視感(デジャヴ)


 なんでこの子たち、捨てられたの???

 わけがわからないよ!


 どこぞのむかつく台詞を思い出した私は悪くない。

 ちなみに、あの作品を寝物語に布教した時は阿鼻叫喚でした、とだけ。


 それでですね。


 当たり前ですが、あぶれた子供たちだったくせにそんな風に余裕で生きていたら、まぁ、妬まれますよね、狙われますよね、襲われますよね。

 自分たちが捨てたくせに、猫なで声で、戻って来いとか、迎えに来たとか、本当は一緒にいたかったんだとか、いろいろ言ってきましたよ。


 そして、それを聞いた、古参の一人の台詞がこちらです。


「この手のひらクルー、悪役令嬢モノで習ったやつだ」


 わたしの教育は、間違っていなかった!!!

 令和日本の同志たちよ、異世界への布教は実を結んでいるぞ!


 大人たちの甘言と喜びに舞い踊るわたしをみんなが礼儀正しく無視していたら、要求はさらに図々しくエスカレートしていってたようで。

 家を手伝ってくれだとか、食べ物を融通してくれだとか、挙句の果てに、畑を譲れ、作った作物をぜんぶ渡せとまで言ってきてたんだそうです。

 私は舞ってましたが。


 夜になって落ち着いて、みんなで話して。

 深夜テンションのまま、みんなで逃げ出したのは良い思い出です。


 いやだって、町の人たちを蹴散らすぐらいの武力という魔法をこっちは持ってましたが、さすがに全面戦争するほどの苛烈さはありませんでしたし。

 下手に返り討ちにして、町長から代官、はては貴族や国まで連絡が行って、国軍が出てくるのはイヤすぎですし。

 たとえそうなったとしても勝つ自信はありましたが、勝ってしまうと、人を殺したという事実が。それも親兄弟を殺したという事実が。捨てたくせに、という思いはあっても、殺したいほど憎いわけでもなくて。


 一度は死んでこれで二度目の人生だという私でさえ、親や兄弟だと思うと憎らしくて恨めしくて、これほどまでに慕わしいのです。他の子たちは、わたし以上でしょう。


 なので。


 こーゆー時は、物理的に距離を取るのが良いのです。わたし、知ってます。

 遠くの他人の方が、良いこともあるのです。

 何一つ関係のない他人になれば、遠くで幸せになってね、と祈れます。

 少なくとも、恨まずに済みます。

 なので。


 わたしたちは町を捨てて、夜明けに向かって出発したのでした。


 後悔はありません。

 ありませんが、どうして、わたしが、リーダーになってるんでしょうかね???

 わたし、魔法一つ使えない、無能なんですが。

 年齢も、子供たちの中ではどっちかというと年下の方で、年が上だからって理由ではありません。

 意見もずばずば言う方じゃないですし。

 どっちかというと、日和った物言いしかしていないのですが。


 とりあえず、深夜テンションのまま出発してしまったので、道中で鳥を射て、獣狩って、魔獣倒して、盗賊返り討ちにして、売って替えて賞金もらってわらしべ稼ぎして。


 膨れ上がっていくお財布に。

 一人青褪めてましたが、なにか。


 ちょっとみんなに、お金はかかるけど、人の来ない山の中にでも村を作ったら、そこはわたしたちの、わたしたちによる、わたしたちのための村になるよね、と言ってそそのかしたのは認めます。


 平家の隠れ里みたいに、ひっそりと暮らせたらいいな、て夢をみたんです。

 平家の隠し財宝まで用意しようとは思ってません。


 そうしてできた村が。村、が? 町、いや、都市かな。

 みんなできゃっきゃと住処を整えていたら、規模が大きくなりすぎて、さすがに人が集まってきてしまったんですよね。

 みんなが使う魔法も目立ちますし。


 仕方ないので、みんなで力を合わせて、蜜にたかってくるアリは蹴散らして、働きバチ志願者は迎え入れて、子供には布教して。

 そうしてできた都市なんですが、あいかわらず、リーダーはわたしのまま。

 王族級魔法使いのみんなを差し置いて、何もできない役立たずの私が領主の席に。


 みんながですね、ここまでやってこれたのはわたしのおかげだ、ありがとう、て言うのです。


 領民の人がですね、安心して食べて働けて、また頑張ろうと思えます、ありがとう、て言うのです。


 新しい子たちがですね、お話の続きが楽しみで明日が来るのが楽しみ、ありがとう、て言うのです。


 わたし、布教する以外、何もしていないのに!


 前の町で生き抜けたのは、みんなのおかげ。

 都市を作ったのも、わたし以外のみんな。

 都市にたかってくる有象無象を蹴散らしたのも、みんなの魔法。


 お話なんて、食べ物があって、安心安全な場所があってこその贅沢で、お話でお腹はふくれません。

 だから感謝は、安心安全な居場所を作ったみんなにこそどうぞ。


 なんて。


 そんな風にわたしがわたし自身を無能で役立たずだというと、みんな、悲しい顔をするのです。

 そんな風に悲しい顔をさせたいわけではないのに。


 だから。


 笑顔でこちらこそありがとう、て言います。

 ストレスがマッハです。


 なので、この思いのたけを、葉っぱの箱に乗せて、流してしまいますね。


 葉っぱの箱なんて、すぐに解けて瞬く間の内に沈んでしまうでしょう。

 紙なんてすぐに濡れて、あっという間に読めなくなってしまうでしょう。


 みんなが好きで、みんなもわたしを好きなのに。

 わたし一人、役立つことにこだわってて、滑稽極まりないこの心の有様。

 こうやって文字にして形にして、川に流してさよならです。


 誰にも言えない泣き言を、誰でもない誰かに聞いてほしかったから。

 

 どこの誰とも知れないあなた。

 誰にも読まれることない手紙の。

 宛先人になってくれてありがとう。



    ◇    ◇    ◇



 ある夜の、どこかの部屋で。


「みんないいか。今から、ありがとう、は禁止だ」

「え、やだ」

「ありがとう、を、大好きに言い換えて良し」

「わかった! 大好き!」


「あたしも気を付けるけど、あんまり大好きって言いすぎないようにね? ありがとうと言われなくなって、急に大好き大好きと連呼されたら、あたしたちが手紙を読んだってバレちゃうわ」


「あー、この手紙って、俺が川の精霊に頼んで、こっそりとっておいてもらっただけだからな? 俺たちが読んだのは内緒だぞ」


「隠し事するの? なんかイヤだな」

「あらあら、それなら、ローマの休日のお姫様はどうなるのかしら?」

「知らないフリ、オッケー、任せて」


「ふふっ、じゃあ、これで解散しましょう。みんな、おやすみなさい」

「護衛の交代ついでに、知らない二人にも内容を伝えておく。他は寝てろ、おやすみ」


 ぱたん、と扉が閉じられた。



一番最初に投稿した作品なので、過去の文章。

手直しするかどうか考えましたが、ほぼ、手をつけずに投稿。

よろしければ、二話目以降、お付き合いくださいませ。



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